tag さんの感想・評価

5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態：観終わった

和也はほんとうにクズなのか？

和也がクズだからいらつく、という意見が多いですね（笑）。「こんなやつがモテるわけがない」と。でも違うんじゃないかなと思うんですよね（なお、僕は原作を最終巻まで読んでいるのでネタバレもあるかもしれないので気を付けてください）。

確かに和也は成り行きで千鶴をモノホンの彼女だと吹聴してしまったために千鶴を巻き込んで迷惑をかけまくっています。でも、ですね、よくよく読んでみると「一方的に好意を押し付けて付きまとっている」わけじゃあないんですよね。

和也は作中何度も「千鶴がレンカノであることを白状」しようとしていますがその度に当の千鶴に妨げられています。

最初は和が倒れたという連絡で病院に急行したシーン。一旦は千鶴を「彼女」と見栄を張りますが、そのわずか十数分後、千鶴の祖母である小百合に見つかった時点であっさり「千鶴はレンカノ」と白状しようとしています。が、その直後に千鶴の方から「和也は自分の彼氏」発言が出て、機を逸します。その時は「千鶴が小百合にレンカノやっているのがバレると困るから」という流れに見えるのですが、よくよく考えるとこれはおかしいのですよね。一件落着の後、病院の外で千鶴は「別れたことにしましょう」と提案しています。なら最初っから隠れたりしないで小百合の前でも堂々と恋人関係を名乗りあとで和也に「別れたことにしましょう」と提案すればよかったはずです。もうわかりましたね？千鶴は和也と二人で和の病室を逃げ出した時、和也を自分の都合に巻き込んでいるわけです。逃げも隠れもせず、小百合に紹介され、あとで「別れた」ということにすればいいだけだったのにその労を惜しんで和也を巻き込んで和の病室からに逃げ出しました。和也からすれば迷惑な話です。小百合に知られても和也は痛くもかゆくもありません。レンカノを恋人として紹介して親族を安心させ、あとで別れたといって済ませるというのは日常茶飯事なはずです（実際千鶴は「彼女を家族に紹介したいというお客さんは多い」とこの直後に和也に告げています）。小百合にレンカノのことを知らせずに活動していた千鶴側の完全なミスであり、和也にはなんの責任もありません。しかし、千鶴はなんの躊躇もなく客である和也を自分の都合に巻き込んでいます。

よく考えてみてください。数万のお金を払ってレンタルしている相手の都合にあわせてやる義理が和也にあるでしょうか？まったくないですよね？小百合からの逃避行に和也をつき合せた時点でもう千鶴と和也の関係はレンカノと客という関係を逸脱していたわけです。つまり、この時点で千鶴は和也に無意識のうちに好意というかシンパシーを感じてしまっていたわけです。その上での「甘え」以外の何物でもありません。じゃなければ、自分の都合で小百合から逃げ隠れするのに和也を突き合わせるわけがありません。最悪、自分だけ帰ったってよかったわけですしね。

だから、いくら見た目上「千鶴は小百合にレンカノがバレるのが嫌で和也との恋人関係を否定しなかった」ようにみえても、実際は千鶴はそれ以上の「感情」を和也に感じていた、と思わざる終えません。

なぜ、千鶴はこの時点で「クズ」と自他ともに認める和也になんらかの「感情」を持ってしまっていたのでしょうか？それは間違いなく和也のそれまでの行動にあります。

いままで★５しかとったことのなかった千鶴は、和也に初めて★１をつけられました。にも拘わらず、千鶴は和也の二度目のレンタルにＯＫしました。考えてみてください。なぜ、千鶴は二度目の和也の申し込みをＯｋしたのでしょうか？千鶴は新人クラスＮＯ１です。和也の申し込みなんて蹴っても客に困るわけはありません。まして二度目も★１を付けられる可能性があったはずなので避けるのが普通だったはず。なのになぜＯＫしたのか？

それは千鶴が和也に興味を持ってしまったからでしょう。千鶴は★１をつけられてなんでだろう、と思ったに違いありません。そして★１をつけたにも拘わらずまたレンタルするという謎行動をした和也に興味をもったにちがいありません。高い金を払って借りるのに★１をつけておいてまたレンタルするのは理屈に合いません。

そして二度目のレンタルで、千鶴は和也の怒りが「レンタル彼女」というシステム自体にあることに気づかされます。レンカノというシステムは決して健全なものじゃなくある意味嘘と欺瞞に満ちています。そもそも水商売は一般にそういう物ですが、レンカノは極力水商売っぽさを排除している点で逆に欺瞞性は非常に高いともいえます。わざわざ高い金を払ってレンタルしたうえでその欺瞞性をいちいち指摘するのはとんでもなく青臭く非常識ではありますが、逆に言えば和也はそこまでピュアだったともいえます。そんなことしても和也に得はなく、最悪レンカノ使用禁止になることだってありえました。それでも言わずにいられなかった和也の在り方に千鶴は多分、ショックを受けてしまったんでしょう。

千鶴は水族館で和也の前で自分の素を見せてしまいます。が、別にそんな必要はなかった。和也がいろいろ変なことを言っても受け流し、その場をとりあえず乗り切って事務所に帰ってから報告すればそれで丸く収まったはずです。数万という学生にとっては大金を費やしてわざわざ「お前のやっていることは結局詐欺なんだ」と言ってしまうような客は千鶴は出会ったことがなかったんでしょう。水族館で素の自分を見せてしまった時点で、千鶴は和也になんらかの感情を持ってしまっていたということなんだと思います。

その流れが小百合の前での「恋人宣言」なんですよね。実際、病院の外で別れるとき、千鶴はわざわざ「またレンタルしてくれていい」と言っています。繰り返しますが、千鶴にそんなことを言う動機は本来ないはずです。和也の相手なんかしなくても、いくらでも客はいたはずなので。

物語はその後、和也と千鶴が同級生だったり、部屋が隣だったりすることでどんどんねじれていくのですが、そういう事情が明らかになる一話の時点で、すでに千鶴の和也に対する感情は随分とねじれたものになっていたことが伺えます。

というわけで、多分、ですが、読者からは「ウザイダメ男」認定されている和也ですが、実は一話の時点で千鶴から見ると「気になる存在」だったことが伺えます。その証拠に２度目のレンカノのあと★５をつけた和也の評価を見て千鶴はうれしそうに笑いながら「バーカ」と言っています。これはもう典型的なツンデレ反応ですね。

結論から言うと千鶴視点の描写がこの「バーカ」の時点までほぼ皆無なため本当のことはわかりませんが、読者視点から見るとなんで千鶴が和也を好きなのか分からないと思えるかもしれませんが、「★５しかとったことない自分に★１をつけたうえで再度レンタルし、レンカノのシステムの欺瞞性を（高い金を払って）わざわざ指摘するという和也の純粋さに千鶴は興味を持ってしまった」ということなのでしょう。まあ、現実にはそんな純粋さだけで惹かれることは無いとは思うのですが。