かがみ さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
日常系におけるヒューマニズム
本作は日常系というジャンルに一貫して内在する「つながり」の中での「いまここ」の再発見という思想をある種のヒューマニズムへ昇華させた作品といえる。本作の主要キャラクターは海凪ひよりと小春の姉妹、そしてひよりの幼馴染である吉永恋の3人である。主要キャラクターが3人という構成は日常系作品としては比較的少人数だが、その分本作は主要キャラクターの内面へていねいに光を当てている。ひよりは父を失った過去を今も引き摺っているという日常系作品ではかなり重い設定を持っている。過去の傷が癒えない主人公(ひより)が、突然現れた天真爛漫な少女(小春)と、良き理解者である幼馴染の少女(恋)との交歓を通じて、その生の物語を修復していくという本作の基本的構図は日常系というよりもむしろかつての美少女ゲームに近いものを想起させる。ある意味で本作はかつての美少女ゲーム的構図を日常系の想像力の中で再構築した作品ともいえる。この点、ヒロインに相当する小春と恋はひよりをめぐってある種の競合関係に立つ。小春は自分が知らないひよりを知っている恋を羨ましく思い、その一方で恋はひよりの心の中に深く踏み込めない自分に苛立っている。そして小春も恋も共に、ひよりには悟られまいとする闇や情念をそれぞれ抱え込んでいる。スローループでは、こうした「知らない」「踏み込めない」「悟られまい」といった「他者性」が泡立つサイダーのような「つながり」の中で、ひより達は「想いを言葉することの大切さ」を学んでいく。普段いつも一緒にいるからといって何もかも分かり合えるわけではない。むしろ人は本質的には何も分かり合えていない事こそを分かり合わなければならない。本作が描き出す「他者性」が泡立つ「つながり」の在り方はコミュニケーションにおける一つの倫理を提示しているように思われる。