えりりん908 さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 5.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
良き市民と、創造主たるものの、存在理由を探す旅
本当は旅ではありません・・・
テーマは「レゾンデートル」
重く、暗く、救いなく、果てしの無い物語。
難解な作品です。
{netabare}キャッチーな展開も無いし、
爽快なアクションも、カッコいいヒーローも、軽快なエピソードもいっさいありません。強いて言えばカラフルな幻惑回が途中に2度、挿入されますが。謎解きを戯作に偽装した、悪意さえ感じる挿話です。
私自身、この作品の鑑賞を勧められてから、
何回も挑んでは途中で挫折する、
その繰り返しでした。
これは、「アニメは3話目まで観て切るか切らないか判断する」という、
アニメ視聴の格言でも及ぶべくもない、
長い長い雌伏の時を消化しないと、
作品世界の空気感に馴染めない、
そういう作品世界、シリーズ構成のようなところもあるのでしょう。
私の場合、何回か挫折していると、
不思議な感覚がやがて訪れました。
切るか切らないかを、視聴者が判断しているのでなく、
物語を見届けられる視聴者か否かを作品が見極めようとしている。
そんな感覚。
ピノというキャラクターの可愛らしさに惹かれてという方もいるでしょう。
序盤の終わりを告げる、ヴィンセントが瞑った目を見開く瞬間に引き付けられた方もいるでしょう。
ロムドドームの外の、あぶれた者たちが寄り添うコミューンを出奔する姿にロードムービーの予感を得られてというのも、あるでしょう。
でもそこまで至ってなお、
物語の核心は遥か遠く。
様々な謎、様々な疑問、様々な矛盾が提示されます。
そしてそういう事象のひとつひとつが、視聴する私たちを試します。
その関門をくぐり続けたとき、
私たちは、
コギトウィルスに侵されたオートレイブがどうなるのか。
何の記憶も持たずに彷徨うヴィンセントが何者なのか。
ドームに暮らす「良き市民」の出自と根源が何なのか。
ようやく、認知し、検証できるようになります。
中盤からの疾走感は、序盤の関門を通過できた視聴者への祝福かも知れません。
そこで得られた共感を手掛かりに、
この「作品世界」の終焉を見届ける、
そんな私たちにとって、この作品は絶望の世界をめぐる旅、なのかも知れません。
太陽の光の届かない、穢れ切った地上を捨て、空を目指す創造主。
閉ざされた楽園の虚偽が剥がされる、
真実の先にある、現実という名の世界と向き合うこと。
存在理由を探す筈の旅は、実は真実を超える
その先の過酷な現実と向き合うために流離うこと。
それは「リアルメイヤー」の真の姿と、それとの決別に繋がります。
生きることが創造主への罰となる世界。
絶望の果てに、そのさきを、それでも生きるということ。
衒学的にも見える心理学的解析から、
迷走の先にある哲学的検証へと、
深く、より深く、思考の実験は沈潜していきます。
創造という悪意。
神の代理人に再生された、出来損ないの良き市民という紛い物。
その人間もどきに作られた偽りの神。
人類の終焉を獲得するための残酷なプログラム。
愛の拠り所。
存在の否定という真実に抗う、自己という現実。
ディストピアの外に広がるポストアポカリプス世界。
コギトという、
再生された紛い物にすぎない人類社会へのセーフティバルブ。
役割を終え、地上を捨てた代理人、
すなわち、悲しみのない天上を目指すプラクシーがつぶやきます。
地上を捨てた代理人にとって
「世界はこんなにも美しい。なのにどの空を探したらいいの」
{/netabare}これは的外れかも知れませんが、
押井守さんの「イノセンス」や「天使のたまご」、
エヴァンゲリオンの、テレビ版「25話・26話」、
あるいは伊藤計劃さんの「虐殺器官」など一連のSF作品のような、
そういう作品群に馴染める方になら、
きっと親和性が高い。
そんな風に思われる、そういう作品と感じました。