退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
たとえ宇宙でも、人の在り方は変わらない
2070年代 – 宇宙開発は人類のフロンティアを押し広げた一方、
宇宙はデブリ=衝突事故の残骸や廃棄物で溢れていた。
そのため宇宙開発企業にはデブリを回収する「デブリ科」があり、
大抵はゴミ拾いのお荷物部署ととして見下される。
デブリ科で働く主人公の星野八郎太("ハチマキ")は、新人の田辺愛と
先輩後輩として仕事をしていく中で、自分の目標や大切なものと向き合い始めていく。
めちゃくちゃ面白かった!
2022年1月からの再放送で初めて知ったが、もっと早く出会いたかった……
本作は1話見て衝撃が走るわけでも派手な魅力があるわけでもないが、
見進めるごとに作品への信頼感が高まっていくスルメタイプのアニメ。
攻殻機動隊もそうだが、全編通しての構成力が高い作品は得てして
このタイプが多いように感じる。
ハチマキと田辺含め、等身大で描かれるキャラクターのやりとりが
大変良かった。社会人にしては少々ガキくさい面もあるが、だからこそ
人間の完璧でない、カッコ悪く正直な部分が鮮明に伝わってくる。
特にフォンブラウン号の受験以降のハチマキは、目標へ突き進む覚悟(幼さ)と
人間関係を捨て真に孤独になることへの無自覚な恐怖が入り混じっており、
チェンシンやハキムとの不恰好なやりとりには心揺さぶられた。
加えて、本作は物理限界を超えたSF設定とは無縁の世界であり、
現代社会が到達可能な、あくまで工学的実現性を逸脱していない。
設定・展開は地に足ついたものであり、宇宙開発に付随する
社会問題は我々にとっても無視できない近しい未来として描かれる。
実際、本作で描かれた、先進国による宇宙資源の独占や途上国の
製造機器を相手にしない市場形態は違う形で既に起きている。
現実の科学と人間模様に則したリアリティ、創作物としての
フィクショナリティを丁寧に調和させており、人間味溢れる彼らの
行動と言葉を通して導かれる啓発的事実には確かな説得力がある。
上述した内的魅力に加えて、作画と音楽もかなり良い。
宇宙建造物や宇宙船を細部に至るまで完全に手書きで描き切り、
人や乗り物の動きから自然描写に至るまで一切隙がない。
キャラデザやタッチには古さが残るものの、今放送しても
間違いなく高クオリティな部類に入るはず。
挿入曲「PLANETES」の浄化性能は異常であり、流れるタイミングも完璧。
地に足ついた世界観、人間味溢れる等身大のキャラクター、
仕事への誇り、泥臭い感情のぶつかり合い、
宇宙へ懸ける思い、宇宙開発の光と陰、
単純なはずの個々の要素が基底となって形作る物語は
本作固有の充足感を確かに生み出しており、
名作と呼ぶにふさわしい作品だと思う。
余談:核融合炉の研究(興味ある方だけどうぞ)
{netabare}
フォンブラウン号の搭載エンジン「タンデムミラー」は、
核融合発電における発電様式の中の一種を指す。
核融合は太陽内部で起こっている反応で、海水があればほぼ発電可能。
石油を250L燃やすなら海水1Lに含まれる重水素・リチウムによる核融合で
同量のエネルギーが得られるほど、発電効果が高い。その上事故で放出する
放射線は少量で原発ほど壊滅的事故にならないため、安定して稼働できる。
ただし、核融合反応を起こす=人工的に太陽と同様の状態を作り
制御することと同義であり、当然ながら実現は非常に困難。
理論的に実現可能であることは数学的に証明されているが、
上記の稼働炉の耐熱性、維持コストの高さなどの問題で実用化には遠い。
現在もフランスのカダラッシュや日本だと筑波などで核融合炉の研究が
進んでおり、2075年にはフォンブラウン号のようにエンジンとして
実用化されているのかもしれない。
参考までに、筑波にあるタンデムミラー装置「GAMMA」の概略図が
以下のページにあるので、興味がある方は見てほしい。
21話、フォンブラウン号でハチマキやハキムが整備してた場所は
セントラル部に該当し、稼働時には太陽の表面温度
(約6000℃)を超えるプラズマで満たされる。
爆弾を仕掛けるためにハキムがセントラル部へ着くまでに
エンド部からアンカー部を抜けてきている描写があったりと、
初見時とはまた違った観点で作品を楽しめるはず。
https://www.prc.tsukuba.ac.jp/ja/%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%9E10%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81/
(URLが間違ってたため貼り替え)
{/netabare}