フリ-クス さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
Brain Salad Surgery
ずっと以前のサッカー中継で、印象に残っているシーンがあります。
試合後、三浦知良選手がマイクを向けられ
「今日はやりたいプレ-ができましたか?」と問われたとき、
あたりまえのような顔でこう言い放ったんです。
プロになってから『やりたいプレ-』なんて一度もしたことないよ。
うわあ~、めっちゃわかる! と思ったアナタ。クリエイティヴ畑ですね。
もちろん例外的な方もいらっしゃるでしょうが、
プロのクリエイティヴって、だいたいそんなもんであります。
とは言っても僕が知っているクリエイティヴの現場って、
ファッション/ゲーム/アニメ/ラジオ/広告/書籍ぐらいのものです。
(一応、音楽と演劇もかじった程度なら)
ですから、てめえ、うちの業界バカにしてんのか、
というふうに思われる方がおられましたら、ごめんしておくんなまし。
さて、本作の舞台は高校の映像研、
つまるところ、女子高生が部活で自主制作アニメを作るお話です。
そう書いちゃうとゆるふわ萌えアニメみたいですが、
中身はがっしり骨太で、
アニメ制作のプロセスがめっちゃ本格的に描かれています。
アニメ好きを自称するなら一度は目を通しておきたい作品ではあるまいかと。
高校生の部活、ということですからプロと違い、
・金勘定ばっかでモノづくりがマネジメントできない経営者
・過去の成功にすがるばっかの上司・先輩
・かき回すだけかき回して何の責任もとってくれない権利者
・うわっつらの知識で好き勝手なことを言うブロガー、ユーチュ-バ-
・読むのがアホらしくなるレベルの原作
みたいなものに悩まされる必要はまったくありません。
自分の『情熱・欲望・衝動』に正直に、まっすぐ突き進める、
それが高校生というかアマチュアの『良さ』だと僕は考えています。
ちょっとぐらい頭を打たれようが、頭突きでそれをブチ壊す。
それが許される・称賛される『黄金のモラトリアム』時代なんですから、
全力で暴れなきゃ損、というものです。
本作では、それが見事に体現されています。
アニメ制作というジミでしんどくてオタクな活動が、
夢と創造に満ち溢れた青春の一コマみたく描かれています。
ニューヨーク・タイムズ
「ベストTV番組2020」「ベストTV番組 海外部門2020」に選出
ザ・ニューヨーカー
2020年度のベストテレビ番組(The Best TV shows of 2020)に選出
日本の文化庁なんちゃら賞なんてのは
基本「与える側がなんもわかってない」のでどっちでもいいのですが、
辛口の海外メディアがこんなジミ作品に高評価を与えたことからも、
本作の完成度がうかがい知れるのでは、と。
(一応、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の大賞と
芸術選奨文部科学大臣賞もとってます)
ちなみに本作の湯浅監督って他にもいろんな賞を取ってて、
日本の誇る芸術家みたく思っている方も多いですが……安定感ありません。
あの『日本沈没2020』みたく、
やらかすときは目も当てられないぐらいやらかしちゃいます。
こっちはいい方の湯浅作品ですね。
ただし、初見の方にとっては、
クセのある映像、可愛くないキャラデ、ヲタまるだし会話などで、
か・な・り、入りにくい作品ではと思います。
実際、僕も初見のときは五分で切っちゃいました。
その後、あまりにも評価が高いので半信半疑で再視聴したところ、
おお、なかなか面白いじゃん、と。
同じように「え~……、こういうの苦手なんスけど」という方も、
とりあえずAパ-ト後半、
唯一の美少女枠である水崎ツバメが出てくるまではガマンして欲しいかも。
できれば、騙されたと思って二話の終わりまで視聴していただいて、
それでダメだったら、ごめんなさい、です。
お話は徹頭徹尾『アニメづくりに関する情熱とウンチク』に振っています。
そのへんに転がっている萌えアニメみたく、
モチ-フだけぶち上げといて、非実在児童を愛でて楽しむ
みたいにハンパなことは一切していません。
水崎ツバメだって、美少女の皮をかぶった作画オタですしね。
だけどそこが面白い、引き込まれる。
正直、僕はアニメ-タ-さんをリスペクトはしていますが、
制作工程にはたいして興味なかったんです。
だけど、むちゃくちゃ惹き込まれました。
あの『ちはやふる』で全く興味なかった競技カルタに惹き込まれたように、
アニメの設定構築や作画がすっごく面白いものに見えたんです。
{netabare}
物語の中で映像研は、三本のアニメ作品を作ります。
正直、その『劇中作』は、そんなに面白いものではありません。
(高校生が作った、と考えると度肝抜かれますが)
とりわけ三本目は『なんじゃあ、こりゃあ』の一言かと。
本作の醍醐味はそこではなく、その『制作工程』にあるわけで。
本編ではアニメ作りのハウツーだけでなく、
そこに至る様々なこだわりや信念・情熱・葛藤みたいなものが、
時にコミカルに、時には熱く、描かれていきます。
そのバカバカしいまでの真っ直ぐさと、
めちゃくちゃしんどいことをしているのに心から楽しそうな有り様が、
観る者をぐいぐい惹き付けていきます。
ただ楽しそうなだけでなく、そこにある『産みの苦しみ』までもが、
なんかもう『青春』的に愛おしく感じられて良き。
{/netabare}
そして、そんな工程を魅力的なものに輝かせているのが、
映像研に属している三者三様のキャラクタ-たちですね。
三人とも、ものすごくキャラが立っています。
{netabare}
浅草みどりは、設定大好き監督人間。
細かな設定だけでなく物語全体の世界観やストーリー性、
さらには映像からSEにまで、
作品演出に幅広いこだわりを持つ万能型タイプ。
次々とイマジネーションが沸き上がってくるだけでなく、
それを作品に落とし込むロジックまで考えられる右左脳併用型。
そのくせ対人スキルなどダメなところはとことんダメという、
弱冠高校生にして、
まさに業界の申し子みたいなキャラクターです。
水崎ツバメは、作画命の熱血アニメ-タ-。
唯一の美少女枠、人気読モにして俳優夫婦を親にもつお嬢さま。
しかしてその実態は、エンピツ一本に青春ぜんぶ賭けるアニメ-タ-。
自分の美貌や人気はきちんと理解しているし、
作品のため『客寄せパンダ』になるのは厭わないけれど、
そんなもんで食っていく気はさらさらないという男前気質の持ち主です。
きれいな止め画より動きの質にこだわる生粋のアニメ-タ-タイプで、
好奇心と観察眼も人一倍。
おまけにみどりと同じくポンコツなところはとことんポンコツ。
自分のこだわりで遅れたスケジュールは努力と根性の力技で回復させる、
典型的な昔気質の職人さんですね。
金森さやかは、マジで現場に欲しい敏腕プロデューサー。
みどりとツバメだけだと、おそらくモノはできません。
きちんと制作できる『環境』つまり人・モノ・カネを整えてあげて、
なおかつお尻をけっとばしてけっとばして、
ようやくアイディアや技術というものがカタチになっていきます。
この点において、金森さやかは間違いなく有能。
おまけに、みどりとツバメに対して
リスペクトすべきところはきちんとリスペクトし、
好きにやらせるべきところと締め付けるべきところを瞬時に判断。
このさじ加減が絶妙というか、
ほとんど『有能なプロ』の域に入っちゃってます。
{/netabare}
いまや知る人ぞ知るエマーソン・レイク&パ-マ-(古いか)みたく、
誰一人欠けてもダメ、
この三人が揃ってこその映像研なのであります。
僕的な作品のおすすめ度は、文句なしのSランク。
アニメ制作にさして興味のない方にも、
コミカルかつ本気な部活青春ものとしてぜひお試しいただきたく。
ただし、萌え萌えきゅんだの邪気眼だの妄想ラブコメだの、
テレビアニメにそういうのを期待している方には
ほとんど鬼門に近い作品ではないかと。
美少女枠なんて、ほんとに水崎ツバメ一人だけですしね。
ただ、それだけに彼女の存在感は鮮烈。一人で作品の色を変えてます。
ツバメの存在がなかったら、
アニメづくりなんて結局は非リア充ヲタの趣味なんしょ、
みたくうがった見方をされてたかもです。
映像は、ガチで好き嫌いの分かれるところかと。
特にキャラデはかなりアクが強く、
見慣れてくるとそれが『味』になるんだけれど、
そこまでに挫折する人、たぶん少なくないと思います。
あと、最終話の劇中作、なんかもう擁護できないほどひどいですし。
ただ、イメージボードだの中割りだの、
中間成果物で尺を稼ぐ手法はうまくやったなあ、と。
物語の進行上、違和感ないどころか『必然』である上に、
かなり枚数稼げてますしね。
お芝居、役者さんの演技品質は「かなりいい」です。
金森さやか役のベテラン田村睦心さんはあたりまえとしても、
浅草みどり役の女優、伊藤沙莉さん、
水崎ツバメ役の新人、松岡美里さん、
この二人がここまで演れるなんて、驚きの一言です。
伊藤さんの、ちょい卑屈さと爆発的な情熱をもったヲタ演技、
松岡さんの、まっすぐな天使爛漫さと独特のフラをもつ伸びやかな演技、
それに田村さんの、地に足をつけてドスを利かせた演技が加わり、
荒ぶるような調和をもって物語が進行していきます。
まさにエマーソン・レイク&パ-マ-(だから古いって)を彷彿とさせる、
至高のトリオではあるまいかと。
音楽は、まあ、ふつう。可もなく不可もなく。
ただ、OP・EDの映像はちょい攻め過ぎと思えなくもなく。
(曲調につられて色気出しちゃったんだね、たぶん)
僕個人としては好きじゃないんだけど、
それはあくまでも好き好きの話であって、良し悪しの話ではありません。
とにもかくにも、めっちゃ出来がいい作品ではあります。
アニメ制作という点では同系統にある『SHIROBAKO』よりも、
僕的な評価は一枚も二枚も上です。
{netabare}
あっちは『プロ』の話であるくせに、
お金の話がまるっきり出てきませんしね。
その段階で「高校生かよっ」とツッコミいれたくなります。
本作、時給換算までして生産性の悪さを指摘する金森さやかの方が、
よっぽどアニメづくりの本質に迫っているかと。
{/netabare}
個人的に悔しいというか残念なのは、
作中のモノづくりにおいて、
アフレコの演技品質が極端に軽視されていたこと。
{netabare}
映像だけでなくSEにも徹底的にこだわっているのに台詞だけが蚊帳の外。
二作目は素人(ロボ研部員)の生アテ、
三作目なんかオーディションまでやったデータ全消去だもんなあ。
物語の設定やストーリーにはこだわっても、脚本にはそういうの全くなし。
てか、脚本(ホン)読みシ-ンすら一つもないわけで。
{/netabare}
まあ、そういうのが『アニメ-タ-の習性』なのかも知れません。
逆に役者サイドにしてみたら、
画面を横切るタヌキの動きなんか「どっちでもいい」わけで、
アニメ-タ-のこだわりなんかガン無視ですしね。
けっきょく、餅は餅屋なのかなあ、と。
湯浅監督自身、本作の前年に公開した『きみと、波にのれたら』で、
AKBとか使って自分の映像ブチ壊した前科者ですしね。
この問題、根はカンタンなんだけど、解消はけっこう難しいかもです。
ちなみに本作って、同じ原作から、
実写ドラマと実写映画が製作されております。
キャストはどっちも同じで、
主演の三人は、みんな乃木坂46のメンバーさんですね。
映画の興行収入は……一億円ぽっきり。
制作費どころか広宣費すら回収できてないです。たぶん、おそらく。
僕はYouTubeでダイジェストを見ただけなんですが、
なんというのかその……えっと……
なんでつくった? こんなもん。
同じ原作から枝分かれしたはずなのに、
どうしてここまで残念な作品が生まれるのか、逆にすごいです。
日本のエンタメの『闇』がギュッと凝縮されてるみたいな。
つまるところ『恐怖の頭脳改革』がほんとうに必要なのって、
こっちの業界の連中なんだなあ、と。
そんなことを考えて、深く深くためいきをつくワタクシでありました。