「ユーレイデコ(TVアニメ動画)」

総合得点
62.0
感想・評価
81
棚に入れた
203
ランキング
5115
★★★★☆ 3.1 (81)
物語
2.9
作画
3.1
声優
3.2
音楽
3.2
キャラ
3.0

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nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

構造主義と情報化の中で大事なのは、仲間と体験と家族と自分を信じること。

 23年7月に再視聴3回目か4回目だと思います。23年4月までに書いたリアルタイムと追記のレビューをまとめています。ほぼ主旨は変えていません。評価は4.6を5にしました。


 テーマ性のあるアニメのいいところは、興味が尽きないという点もありますが、引用元や難解な思想をかみ砕いてエンタメの形で見せてくれることです。
 エンタメという表皮がかぶさるので、直接見えないため食べる時に中身を口の中で咀嚼し、味わないと何が入っているのかわからないという難点もありますが、本作はかなり上手く料理しているのではないでしょうか?

 本作、大きなフレームで言えば、構造主義の奴隷問題ですね。要するに自分自身というものは生物、社会、言葉、情報、その他さまざまな自分を取り巻く、事象によって外部的に規定されている。その制約からは逃れられず、自分の考えや欲望などは無いという話です。
 そこに対する答えが、ならば、大切なのは実体験と仲間であり家族の記憶である、という事なんでしょう。「DO IT YOURSELF」「スーパーカブ」がまさにこういう話だったと思います。

 初めはパノプティコンのようなフーコー的な世界観も考えたのですが、それはちょっと考えすぎなのかもしれません。が、島が円形で上から監視される形で監獄を連想させます。

 または、もう少し視座を落としても、情報ネットワークに支配された人間の生活もまた、逃れようがない未来という視点もあったと思います。むしろ、最終話まではこちらの話がメインだったと思います。

 オーウェルの「1984」のような監視社会におけるデオドランドされた社会という問題がありました。正義の定義の画一化は思想統制そのものです。社会は骨抜きにされ、表層だけは平和な社会ができる。「リコリスリコイル」「サイコパス」でも扱っていたテーマです。

 情報の真偽の問題があります。これは情報に踊らされるという面もありますが、流通される情報量によって、無いものが実在化する、という点も描いていました。ユーレイデコのユーレイの部分。つまり、情報的に認知されない存在は実在しない。ゆえに情報がないものは排除する。
 ただ、ネガティブな事だけでは無かったですね。なぜウワサを信じるのか?好奇心ですね。好奇心が行動につながりました。
 
 もちろん「攻殻機動隊」や「シリアルエクスペリメントレイン」「電脳コイル」などの後継としての役割もあるでしょうが、ゼロ現象は集合的無意識のようなものではなかったので、サイバーパンクとしての問題提起は薄かった気がします。


 デコの存在は、自分が見たいものだけみる。自分を見られたいように見せる。そして、社会が見せるべきものだけ見せる。ラブポイントは承認欲求であり、価値観の統一化です。評価=経済でした。
 これはSNSのいいねはコカインよりも人を中毒にさせる問題とも関連しそうです。ここから言えるのは、自分を信じること。自分の価値観を持つことでしょう。

 本作で気になるのは、マークトゥエインという「作者」とトムソーヤという「作品」の関係。そして「ハックルベリー=フィン」という「登場人物」の関係ですね。
 ハックルベリーは経済社会、労働社会に嫌気がさして死を偽装して逃亡します。どこまでメッセージを込めたのかは制作者に聞かないとわかりませんが、アナロジーを考えると面白いネーミングです。ただ、これはまあアナロジーというほどでもないかなあ。冒険にひっかけているだけかも。


 で、これだけ詰め込まれているのに、話は面白いんですよね。1回目はちょっとハックの独特な言葉がひっかかりましたが慣れると気になりません。これは、言語によってハックの自由さ、無垢さを象徴しており、ラストにつながってくるのでしょう。

 それとデコが壊れて=視点が自由になる。また、情報から消えることでユーレーになる。そしてどんどん広がっていくベリーの世界。この展開がストーリーの面白さにつながっていました。

 作画は良いですね。キャラは独特ですが、この話は萌えではちょっと伝えきれない気もします。その一方でもし「リコリスリコイル」のキャラデザでやってればという気もします。そこで損している感はありました。

 音楽。いいですね。OPEDとも毎回ほぼとばさなかったです。途中のBGMも楽器が少なめのピュアな音だったのが、雰囲気を盛り上げました。

 トータルでテーマとして情報化社会、ポスト構造主義の中で生きる視点を与えてくれて、非常に良い出来だったと思います。
 そして、SFとして設定も話もよくできていました。種まきも伏線回収も展開も良質だったと思います。
 キャラも必要十分な配置を無理なく使い切っており、また、キャラ造形も上手いかったと思います。

 サイエンスサル。いいですね。「平家物語」「映像研には手を出すな!」などTVは絶好調です。こういうのを作りたいという想いが感じられます。

 本作は見れば見るほど面白くなる、不思議なアニメです。最近上で上げたように同じようなテーマの話が増えている気がします。

投稿 : 2023/07/26
閲覧 : 623
サンキュー:

14

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