ひろたん さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
謎な少女は、謎なままでいいんじゃない?
30分弱のショートアニメです。
リアルでもありとても「絵」的でもある独特な質感の作画は綺麗で良く動きます。
ガヤが、本当にガヤガヤ動いています。
また、この独特な質感の絵には、どこかノスタルジーを感じさせるものもあります。
このあたりは、スタジオコロリドの他の作品にも共通ですね。
制作会社の特色が出ていて、とても良いことだと思います。
■謎な少女は、謎なままでいいんじゃない?
この物語の内容は、ボーイミーツガールのSFです。
主人公が謎の少女と出会い、それが地球存亡の危機につながっていると言う展開です。
もちろん、これだけのことを30分弱の中でその背景までも描けるはずもなく・・・。
結果的には、とても突飛な作品に見えてしまいます。
でも、私はこう言う作品は、嫌いではないんですよね。
この物語では、主人公が謎の少女に出会いますが、最初から最後まで謎なままです。
脚本的には、その背景までも説明した方が感情移入できるのだと思いますが・・・。
しかし、それが必ずしも良いことだとは思いません。
なぜなら、主人公にとってみれば、目の前に現れて、そして、すぐに消えた少女です。
そんな少女の背景なんて、分かりもしませんし、知る由もありません。
しかし、そのことが、逆になんとも言えない余韻を残す作品なのだと思います。
これと同じような物語は、意外とあります。
どれも児童文学、ジュブナイル作品に多いと思います。
例えば、宮沢賢治の『風の又三郎』。
このタイトルにもなっている又三郎は、実は、主人公ではありません。
主人公から見た謎の転校生「又三郎」を描いている物語です。
結局、又三郎は、再び転校していなくなりますが、その存在は謎なままです。
そして、残された主人公の心に不思議な余韻が残る話となっています。
また、同じコロリド制作の『ペンギン・ハイウェイ』も同様です。
謎なお姉さんが、結局、謎なまま終わり、不思議な余韻を残します。
この『台風のノルダ』も同様です。
SF設定や背景がどうのこうのと言う物語ではありません。
主人公の前に謎の少女が現れ、そして、消えた。
その事実だけでいいのです。
そして、その出来事が残す余韻が感じられれば、それでいいのです。
そう言うジャンルのジュブナイル作品なんだと思います。
■この作品の難点は?
それは、主人公自身です。
謎の少女は、謎のままでよいです。
また、その少女が何をどう思っているか等の感情の説明もいらないです。
『風の又三郎』では、又三郎の気持ちは一切語られませんでした。
でも、その分、大切なのは、こちら側、つまり、主人公の気持ちを描くことです。
主人公が謎の人物に対して何を思っているのかを厚く描かないとダメなんです。
そうしないと、物語が本当に表面的で薄っぺらくなってしまいます。
『風の又三郎』や『ペンギン・ハイウェイ』では、そこに隙はありません。
主人公の気持ちをこれでもかってくらい厚く描きます。
すると謎の人物が謎のまま消えても、そう言う物語だったんだなと成立するのです。
その理由としては、やはり主人公に感情移入できるからです。
主人公と同じ目線で一連の不思議な出来事を一緒に体験できるからです。
しかし、この物語では、主人公の思いが描き切れていないように感じます。
すると、主人公に感情移入しきれず、この手の物語としては成立しずらくなります。
■まとめ
謎の少女は、謎のままでいいです。
その分、感情移入できるぐらい主人公の気持ちを描いてほしかったと思います。
尺が短かったせいかもしれませんが、そこが残念です。
しかし、残念な点がありつつも王道のジュブナイル作品であったとも言えます。
「時をかける少女」、「ねらわれた学園」と同じ時代のような印象を受ける作品です。
このころのジュブナイルSFは、科学的根拠や背景等は、まったく語られません。
そのはっきりしない土台の上で謎の人物に出会うと言う構図です。
それでも子供にとっては、とても夢がある物語となっています。
この作品も10代前半の子供が観たら大人とはまた違った感想を抱くかもしれません。