フリ-クス さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
ツバキちゃんのニンジャー服
最近知った衝撃の事実なんですが、
みんな大好き『くノ一=女忍者』というものは、
史実的に「まったく存在していなかった」そうであります。
え? いや、ほら、だって時代劇にもしょっちゅう出てくるじゃん、
とかなんとか言っても、時代劇そのものがフィクションですしね。
実際のところ、間諜(スパイ)として送り込まれる女はいたらしいけれど、
それは今でいう女ニンジャとはまるで別物でありんす。
オンナを武器にして敵方に入り込み、機を見て忍法で標的をパンしちゃう、
みたくかっこいいものではありんせん。
ちなみに『くノ一』という言葉そのものは江戸時代からあったのですが、
それは『オンナ』を意味する隠語であって、
言葉そのものに『女忍者』という意味はこれっぽっちもなかったのだとか。
(くどいようですが、江戸時代に限らず日本に女忍者、いません)
じゃあなんで女忍者がドラマやアニメにガンガン出てきたり、
彼女らのことを『くノ一』なんて呼んだりするのさ、
というと、実は、山田風太郎先生の忍法帖シリ-ズの影響なのだそうです。
1959年に出版された『甲賀忍法帖』にはじめて女忍者が登場し、
それが翌年からの『くノ一忍法帖』シリ-ズにつながって大ヒット。
山田先生は最初、女ニンジャは『女忍者』としか呼んでおらず、
同シリ-ズのタイトルも『オンナ忍法帖』という意味でつけたのだけれど、
作品が映画化されてこちらも大ヒットし、知名度が急上昇。
で、みんなが「くノ一って女忍者のことなんだ」と誤解し、
その誤解に基づいて類似作が次々とリリースされ、
あ~もう、それじゃそれでいいです、となったのが『くノ一』誕生秘話なのだとか。
さて、このアニメのお話です。
舞台は人里離れた山奥にあるくノ一(女忍者)の里。
まあ、里というよりは、全寮制の女忍者養成所みたいな感じです。
時代的には江戸時代風ではありますが、時代考証はするだけムダかと。
(会話でも『リーダ-』とかのカタカナ外来語、ふつうに使っております)
で、その『オトコから隔絶された女ばかりの里』で、
思春期をむかえ、まだ見ぬオトコに興味津々の主人公ツバキを中心に、
くノ一見習い女子のわちゃわちゃした生活を描く日常系です。
いわゆる『忍びの掟』とか『生死を賭した忍術合戦』みたく、
どきはらシリアスな要素は何もなく、
はっきり言っちゃうと、くノ一をモチ-フにしたゆる系萌えアニメ。
登場人物の年齢設定は公開されていませんが、
身長や体型から察するに小学校中学年から、せいぜい中二ぐらいまで。
おっきいお友だちみんな大喜びの『非実在児童』満載でお送りいたします。
原作は『からかい上手の高木さん』の山本崇一朗さん。
制作はアニプレ子会社で『青ブタ』なんかで有名なCloverWorks。
山本さんの原作をアニプレがアニメ化したらどうなるのか、
みたいな意味での注目作です。
(主題歌も『青ブタ』と同じくthe peggies。リキ入ってます)
監督は、これが初監督作品となる角地拓大さんですね。
で、ええと、最初に結論から言っちゃうと、
面白いか面白くないかは『けっこう微妙』です。
ほんと『人による』としか言いようがなく。
まず、女の子が三十人以上も出てきて、
どれが誰だかいちいち名前まで覚えていられないのがつらいです。
こんだけいりゃ誰にでも一人ぐらい刺さるだろ、
そういうアキモト的大雑把なのは、
もうほんとに心の底からお腹いっぱいなんだってばよ。
そして最初の数話は、主人公のツバキは変に発情しちゃってるし、
劣化版クロコみたいのが「ねえさまぁ~」なんて言って追いかけてるし、
なにがやりたいアニメなのか一向にわかりません。
二話、三話あたりで脱落した方、けっこういるんじゃないかしら。
で、心折れそうになりながらしぶとく見続けているうちに、
これひょっとすると『やりたい/言いたいことは、特にない』アニメではないか、
ということに、はたと気づくわけです。
あの『からかい上手の高木さん』では、
それまでほとんど存在しなかった『からかい萌え』を徹底追及するぞ、
みたいな気概が感じられたのですが、
本作にはそういう目新しい要素が何も見当たりません。
強いてあげればツバキの『発情萌え』かしらんと思うのですが、
だとしたらけっこうニッチなところを狙ってきたなあ、と。
条例的にもアレな臭いがぷんぷんいたしますし。
それに、ツバキにしたところで常に発情しまくっているわけでもなく、
やっぱ『女児ばっかの里の日常』がメインストリーム。
つまるところ、明日ちゃんの通う女子校の制服をニンジャ服にして、
ついでにJCだけでなくJSも詰め込んで、
みんなで『非実在児童』を愛でて楽しもう、という作品ではないのかと。
もちろん、そのこと自体を『あかん』と言うほど僕は立派な人間ではなく、
あとはもう『実際に愛でて楽しめるか』という、
個人の感性みたいなものに評価が帰結してしまうわけであります。
僕的には「楽しめる回もあり、そうでない回もあり」みたいな。
{netabare}
主人公のツバキ率いる戌班に最初からいる二人、
劣化版クロコのサザンカと昭和的腹ペコキャラのアサガオは、
どこが面白い/かわいいのか、僕にはちょっと難解です。
(しかもこの二人、出番がけっこう多いんだ)
この二人に限らず下級生キャラは、おおむね脳天気で騒がしく描かれており、
アニメ的には『無邪気で純粋』なのかも知れませんが、
リアルにいると『うるさくてはったおしたくなるガキども』に他ならず。
(もちろん心の中だけの話です。スマイル、スマイル)
それを率いる班長・上級生たちは『しっかりめ』に描かれてますが、
上下関係はゆるゆるで、バランス的には
小学生を率いる中学生ガ-ルスカウト、みたいな感じになってます。
子どもたちの『天真爛漫さ』とツバキたちの『幼い母性』の対比を楽しめ、
ロリっ子と思春期女子という二大需要をカバ-したグリコ設計。
いまならもれなく発情女子もついてきますぜお客さん。
というような主旨・目的の構成なんだろうけど、
幼女を愛でたいと思わない僕にとっては、いささか過剰サービス気味。
下級生にメインスポットがあたる回は頬杖をつき、
ツバキたち上級生がメインの回はそれなりに楽しく見られるという、
なんとも中途半端な感じになっちゃってます。
{/netabare}
個人的な作品のおすすめ度は、いいとこB+ぐらい。
ほんとうに『言いたいことは何もない』萌えアニメですので、
ぼ~っと見ていて好きになれるかなれないか、ぐらいしか分水嶺がありません。
ナルト的な忍びの世界を期待している方は豪快にうっちゃられ、
『私に天使が舞い降りた』あたりがお好きな方には、
大谷翔平もかくやのど真ん中剛速球はあるまいかと愚考いたします。
映像は、かなりいいです。さっすがCloverWorks。
若干あざとさの残るキャラデは好き嫌いが分かれるかも知れませんが、
ぐりぐりとよく動くし、作画もきれいに統一されてます。
ただし、忍者バトルみたいなアクションシ-ンはめったにありません。
かなりOP詐欺の香りがしてたのですが、最終話でなんとか持ち直しました。
いったんバトルになると、構図もいいですし、迫力も十分かと。
あと、忍術の描写、けっこうかわいいです。
どこがどうかわいいかは本編をごろうじろ。
キャラクターは、可もなく不可もなく。
主人公のツバキと中盤から参加するリンドウ以外、
テンプレに毛をはやしたのをずらり並べているのでお好みでどうぞ。
{netabare}
優等生だけど思春期ゆえオトコに興味津々というツバキは、
けっこう、というか、かなりかわいいかもです。
発情時とふだん自分に課している『しっかりおねえさん』とのギャップが良き。
最終話のバトルシーンもかっこよかったし。
九話『ヘビと男』でリンドウの話をきくワクワク顔なんか、
僕個人としては、きゅんです。
そのリンドウは、登場時は「はあ?」だったのですが、
恥ずかしがり屋を克服してお面を外してからは、いい感じです。
オトコを知ってる分、ツバキの『逆センパイ』的位置づけで、
幼さと余裕がうまく同居している、
これまでにいそうでいなかったキャラになっています。
{/netabare}
音楽は、OPと劇伴には文句のつけようがなし。
とりわけOP、the peggiesの『ハイライト・ハイライト』は絶品です。
世界観もドンピシャだし、映像とのマッチングも最高レベルかと。
かたやEDの『あかね組活動日誌』は、なんだかなあ、です。
『くノ一ツバキの音合わせ』という制作プロジェクトの元、
毎回、別々の班が、それぞれに合わせた歌詞・編曲で歌うのだけれど
僕の耳には『かげきしょうじょ』の劣化版、
それもあざとさ増し増しバージョンにしか聞こえてきません。
サントラ作るとき、いちいちキャラソン起こさなくていいっしょ、
みたいなソロバン勘定なのかも知れないけれど、
たぶん、よっぽどディ-プな人しか買わないと思うよ。
で、役者さんのお芝居なんですが、
僕の耳にはツバキ(夏吉ゆうこさん)とリンドウ(小原好美さん)が、
『キャラ立ち』という観点で突き抜けちゃっています。
他のメンバ-は、正直、適当にシャッフルしても作品は成り立つけれど、
この二人だけは『替えが効かない』レベルにあるなあ、と。
この点については、
言いたいことが多くてけっこう長くなりそうなので、
こっから先はネタバレで隠しておきますね。
(読まなくてもぜんぜん問題ありません。興味のある方だけ、どうぞ)
{netabare}
ぶっちゃけ、僕がなんでこの作品のレビュ-を書いているかと言うと、
このお二人の芝居を語りたいがため、
というのが偽らざるところであったりいたします。
あの『からかい上手の高木さん』は、
高木さんと高橋李依さんのマリアージュ(奇跡的邂逅)によって、
爆発的な支持を得られた作品だと僕は思っています。
え? めぐみんの中の人? うそでしょ?
そう思った方もけっして少なくなかったのでは。
まさにどハマり。そして高木さんのキャラ、立ちまくり。
作品においてキャスティングがいかに大切かを示す好事例ではないかと。
で、その『高木さん=高橋李依さん』のマリアージュに匹敵するのが、
本作の『ツバキ=夏吉ゆうこさん』だと僕は思っています。
今期だと『スパイ&ファミリー』のアーニャ(種﨑敦美さん)並みのマリアージュ。
夏吉さんじゃなかったら、ツバキのキャラはここまで立たなかっただろうし、
たぶん『そのへんに転がっている萌えアニメ』の粋を出ず、
おそらく僕も三話あたりで切っちゃっていたのではないかと思います。
その夏吉さんですが、基礎声質は高めのハスキーで、
声自体には、特徴らしい特徴はありません。
だけどお芝居が『おそろしく丁寧』で、役作りが見事にできているんです。
ツバキは『おねえさん』じゃないんですよね。
正確には『おねえさんであろうとする思春期の女の子』なわけです。
かといって、幼い弟妹を世話する苦労人でもなく、
基本は山奥育ちで性格のいい、素直でまじめな思春期女子。
胸ちらでヘソまで見える、心身ともに発展途上の女の子であるわけで。
夏吉さんはそこのところをよく理解してうまく咀嚼し、
実に心地よいツバキ像を創り上げています。
怒っても、慈しんでも、発情しても、ぜんぶ『思春期女子』。
だから、発情しても『いやらしくならない』んですよね。
ヘンな意味での『オンナ』が匂ってこない。
体幹の強いスポーツ選手みたく、どんな動きでも『軸』がぶれないんです。
これ、下手な役者が演っていたら
エロキャラか精神分裂症みたいなキャラになっていたところです。
たまたまこの役がハマったのか、
それとも、もともとべらぼうに良い資質をお持ちの方なのか、
今の段階ではまるでわかりません。
ですが『光るものがある』役者さんであることだけは確かなので、
夏吉ゆうこさん、要チェキです。
ただし、声質に特徴がないので、
しょうもない役をあてたらすぐ埋没しちゃいそうなんですよね。
(過去作いくつかチェックしましたが、そんな感じです)
今期の出演作品もアイドルもの一本とトホホな環境なのですが、
本作を足掛かりに、なんとかいい役を引いて欲しいものであります。
小原好美さんの演じたリンドウは、サブキャラの中では『別格』でした。
といっても設定的には、
単なる恥ずかしがり屋で、ただ男を見たことがあるだけのキャラなんです。
それをあそこまで際立たせたのは、
やっぱ小原さんの『芸』の力に他ならないなあ、と。
先にも書いたけれど『幼さ』と『余裕』の配合が絶妙なんです。
しかも『実際に余裕がある』わけではぜんぜんなくて、
本人はふつうに話してるつもりなのに、見る側が勝手にそう感じるだけで。
だから『あざとさ』がまるっきりないんです。
それがゆえに、ワクワクしたり赤面したりするツバキとの対比が絶妙で、
ツバキのかわいさ/面白さを引き出しつつ自分も生きるという、
理想的な掛け合いになっているんです。
小原さんは、ご自身の演技力も素晴らしいのですが、
この『相手の魅力を引き出すキャラづくり』が本当にうまい役者さんです。
『かぐや様』の藤原千花による、四宮かぐやとの対比、
『やがて君になる』の叶このみによる、小糸侑との対比、
『からかい上手の高木さん』日々野ミナによる、高木さんとの対比。
いずれも同じ役者とは思えないぐらい声もキャラも違うのですが、
きっちりとヒロインの魅力を引き出しつつ、
ちゃっかり自分のキャラを立てて作品に奥行きを持たせています。
おまけに『まちカドまぞく』みたく自分がメインになると、
周りの役者さんをグイグイ引っ張るだけのパワーがあるんだから、
そりゃあ音監さん、みんな使いたくなるわな、と。
その他にも、本作にはいい役者さんがたくさん出演してるんですが、
先生役の内山夕実さんとM・A・Oさん以外は
ほとんど『豪華声優の無駄遣い』になっちゃってますね。
僕が将来を期待している羊宮妃那さん(モクレン役)は、
今回も、上田麗奈さんの代役みたいな扱われ方。
まあ、いまをときめく早見沙織さんも最初はそうでしたし、
青二のサンプルを聞く限り、ポテンシャルあるのは確かなので、
いい役引けるまでがんばれっ!
{/netabare}
ちなみに、タイトルにも書きましたがツバキの忍者服、かわいいです。
俗にいう忍び装束とは天と地ほどかけ離れたデザインなのですが、
なぜかちゃんと『くノ一』に見えるんですよね。不思議ふしぎ。
黒のピタピタT半袖シャツと、同じく黒の三分丈スパッツがあれば、
あとは誰でもわりとカンタンに作れそうだし、
コスイベントなんかでけっこう出てくるんじゃないかしら。
なお、Tシャツもスパッツも俗にジャ-ジと呼ばれる丸編み素材で、
江戸時代には影もカタチもありません。
いわゆる『横編み』は水戸光圀の時代からあったらしいけど、
丸編みは明治42年にスイス製丸編み機が和歌山に5台輸入されたのが
最初だと言われています。
ただし、そもそも『くノ一』の存在そのものが時代考証ぶっちぎってるので、
本人さえ良ければそれでよし。
おへそとおでこに自信のある方、よろしかったらお試しあれ。