芝生まじりの丘 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
何も起きない青春群像
ちょっと複雑な恋愛模様が話のタネではあるのだが、登場人物が全員大人なので関係性がそこまでギクシャクすることもなくさらさらと流れていく。本当に全くと言っていいほど事件は起きず、劇的なシーンはなく、想定外の展開などない。一応ファンタジー要素はあるのだが、それもあくまで青春にそえられた彩りに過ぎない。
この作品が描いているのは「人と人が見ている世界を共有すること」だ。
人と人とは分かり合えない。全く違う考えを持っているし、違う価値観、感情の流れを持っている。人はガラス越しにそれぞれの違う世界を見る。それは人がそれぞれに違う生を生きてきたから。(作品で登場するエッシャーの騙し絵は一つの世界に見方によって複数の世界の像を結ぶことを象徴する)
だからこそ、それを超えて相手の世界を理解しようとする営みは美しい。見ている世界を共有するには生を、体験を共有することだ。サチの小説趣味に付き合うヒロ、ユキのランニングコースを走りそこで見たものをメールするヤナギ、トウコの見た美術室の雪世界を自分も見たいと探すカケル、ガラスの中にカケルの孤独を味わうトウコ、「あなたの見ている世界を私も見たい」というその意思こそがこの作品で何度も繰り返されるモチーフだ。孤独とは同じものを隣で見てくれる人間のいないことだ。孤独だったカケルは自己分裂し自分の中に「同じものを隣で見てくれる人間」を作り出したのだ。
間接表現を多用している。それは視聴者にも作品内世界や各人物に主体的に寄り添うことを要求している、と言えるかもしれない。それだけでなく視聴後感をポップなエンディングとアンバランスなくらい上品にしている。
このアニメを見ていて痛感したのは、会話というのは今日より一層ダイレクトに明確にされるようになってきているということ。この作品での会話はそういう現代流とは違ってぶしつけな自分の断片のぶつけ合いであって昭和趣味を感じる。だがそういうコミュニケーションの仕方は個人的には好きだ。
大きな印象を与えるアニメではなく、期待してみるものではないかもしれないが一定程度のファンはしっかりつくだろうな、という感じのアニメ。青春アニメの範疇では大衆迎合的な媚びが少ないのでそういう雰囲気のアニメが見たいときにはおすすめ。
P.A.Worksのブランドイメージがやや邪魔をしているかもしれない。