ナルユキ さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
わけがわからないよ。どうして萌え豚はそんなに魔法少女が女体であることにこだわるんだい?
みんなは「魔法少女」という単語を聴くとどんなイメージを持つだろうか? 普通の女の子がひょんなことから魔法を使えるようになり、お供の妖精を肩に乗せて身の回りの事件を解決する────程度の差はあれ、このテンプレートが王道の魔法少女モノと言えるだろう。
そんな固定観念を悉く破砕していくのがこの作品だ────嘘は書いてない……嘘は書いてないぞ私は!
【ココが面白い:ツッコミの手が止まらない魔法少女ギャグアニメ】
冒頭からこの作品はギャグアニメであることを全力で主張している。{netabare}始まりの『スターウォーズ』をパロったテロップは同期の『宇宙戦艦ティラミス』と丸被りであり、お供の妖精は語尾が全く安定していない。敵の攻撃はアニメ全体をモノクロ化していき、それに伴い画面右下には「カラー放送」のテロップが追加され、視聴者のクレームと番組打ち切りを懸念するメタ発言が飛び交う。そして魔法少女の必殺技は「レインボー」が重複するやっつけ感漂うネーミングセンス、といった具合である。2011年の某作のおかげで「魔法少女◯◯」と聴けばすっかり身構えるようになってしまった私たちオタクの警戒を解かんとする怒涛のギャグ描写を入れつつも一旦、全てを夢オチにすることで主人公・サキの魔法少女への密かな憧れも同時に描いているようだ────ってこれ完全にまどマギの冒頭に寄せてるよね!?{/netabare}
キービジュアルからして男が魔法少女に変身するものと思っていたこの作品、主人公は女の子である。ロコドルと呼ぶのにも身に余る売れないアイドルをしており、どうやって歌っているのかわからない程の絶妙な音の外し方でキャラソンを1曲、披露することで早々に「ああ……この子はダメだ」と思わせてくれる。それでもサキがアイドルを続けているのは一緒にユニットを組んでいる幼馴染み・桜世と目指す高い高い目標、その頂きに君臨するトップアイドルユニットの片割れ・桃拾とお近づきになりたいというガチ恋勢だからである。
例えそれが叶いそうになくても────部屋が自分の歌のCDで溢れ返りそうになっても、サキは「こんな日が続けばいいな」と望む。ツッコミどころはあれど、彼女もまた平和と日常を愛する1人の少女のようだ。
そんな彼女の望む平和と日常は、ギャグアニメらしい意外な存在によって早々に崩されてしまう。
【ココが面白い:わしと契約して魔法少女にならへんか?】
『カードキャプターさくら』のケルベロス(ケロちゃん)、『美少女戦士セーラームーン』のルナとアルテミス、そして『魔法少女まどか☆マギカ』のインキュベーター……作品を魔法少女モノだと主張する場合、主人公の傍にマスコット的存在を配置しておくことは欠かせず、その姿は動物と妖精を組み合わせた様である。王道魔法少女の枠から外れているまどマギとて、その点は例外ではなかった。
ある意味でこの作品がまどマギと並んで魔法少女へのアンチテーゼだと言える1つは本作に登場する魔法少女のサポーター・ココロちゃんの特異なキャラクター性にある。
{netabare}『オラァ!!出て来いやゴラァ!!ここにおんのはわかっとんやぞゴラァ!!!』
はい、ヤのつく自由業の方ですね。サングラスをかけた強面の成人男性(CV:一条和矢)が魔法少女のマスコット妖精だと言い張っております。
その彼が卯野家の門戸を(叩くのではなく)蹴り、ついこの間まで現役だった母親の代わりにサキを魔法少女にしようと迫る。そのシチュエーションこそ従来の魔法少女作品に倣ってはいるものの、契約するにあたっては注意事項を多分に載せた「契約書」に認めるなど、やり口が完全に“その筋”の所業である。{/netabare}
{netabare}そしていざ契約して変身してみれば────もうおわかりだろう。可愛い女の子がフリルやリボンもある魔法少女コスチュームを纏った「筋肉たくましい男性」になるという大事故が起きてしまう。攻撃手段は徒手空拳にプロレス技、そして魔法少女ステッキによる返り血を気にしない「全力殴打」……ある意味で期待通りな妖魔とのカオスな戦いにサキは毎度、突入することとなる。{/netabare}
某作以降、王道魔法少女へのアンチテーゼ作品は増加傾向にあるがココロちゃん────いやコーさんを始め、飛びっきりわかりやすくナンセンスな方向へ振り切っているこの作品は他作と一線を画しており、非常に好感が持てる部分である。
【そしてココがすごい?:「出オチ」とは言わせないしっかりとしたストーリーに複雑な相関図】
そのままギャグアニメとして突き進んでいくのかと思いきや、本作は1話完結式ではなく1クール全体に割としっかりしたストーリー性を持たせて連続放送していく。
愛の力で変身する魔法少女(男)には各々愛する人がいて、それは只の設定ではなくかなり真面目な背景(バックボーン)を基に培われているものだ。サキが桃拾を愛した理由、そして桜世がサキを愛した理由はギャグそっちのけで“第3話”に収録されており、意外と感涙モノだった。だからこそ絵面の酷い場面は続くが、どんな姿になっても彼女らは大切な人を守るために力を得ることを選び、戦う。その心構えだけは往年の王道魔法少女作品と同じなのだと気付かせてくれる。
そして桃拾が執拗に妖魔に狙われる理由、サキの恋の行方と(桜世による)貞操の危機、桃拾の相棒・兵衛(ひょうえい)にかかる黒幕疑惑など純粋に物語として気になる要素も滲み出ており、アニメ化前に一旦は完結したマンガ原作でもある故か、意外な構成力の高さが序盤に伺える侮れない作品となっているのだ。
────ただし、その原作は単行本にしてたった2巻しかないため、1クール30分アニメにしては内容が薄く引き延ばされている感も否めない。
【キャラクター評価】
卯野さき(うの - )/魔法少女オレ
第1話こそボケ寄りだったけれども、一度オレに変身した後は常識的な反応を求められてかツッコミに転向した感がある。ギャグ作品にツッコミは大事。ものすごく大事。「ツッコミ不在の恐怖」ほど怖いものは無いからね。
身体は男になってしまうけど心は変わらず乙女というのがミソで、カオスな展開にツッコんでいく中に意外なギャップ萌えも生み出してくれる。女を男に、または男を女にしてしまう「TSF(トランスセクシャルフィクション)」自体は他作品にもあるが、あのテのジャンルに備わる“面白萌え”をしっかりと見せてくれるキャラクターだ。
御翔桜世(みかげ さくよ)/魔法少女サキガスキ
主人公がピンク髪ならその親友は黒髪でレズっ気入り。魔法少女や変身ヒロインというジャンルでは最早「鉄板」と呼べる組み合わせであろう。
ただ愛の形は数あれど、発禁以外に「{netabare}性的にヤりたい{/netabare}」「{netabare}兄貴からサキを寝取る{/netabare}」という願望や決意を口にし、そのための武器(意味深)も備えられる女性キャラというのは私の知る限りではこの娘が初めてかな。しかもサキも魔法少女(男)になるから絵面はソフトな「真夏の夜の淫夢」になるし……ああもう、ほんとトチ狂ってるよこの作品!(褒め言葉)
変身前も変身後もサキ×桃拾関連で見せるふくれっ面が可愛いと思います。
御翔桃拾(みかげ もひろ)
サキの想い人であり、桜世の兄で恋のライバルでもある。作品の雰囲気で霞んでるけどサキ・桜世・桃拾はかなり複雑な関係なのよね…。
魔法少女モノには「他人に正体を知られてはならない」という設定もメジャーな部類なことは皆さんも承知であろうが、この作品に限っては変なペナルティーを設けるのではなくサキ個人の「自分が魔法少女のコスプレしたガチムチになってるなんて絶対知られたくねぇ!!」という思いで物語が結果的に魔法少女モノの王道的な展開に当て嵌まっていく様が腹を抱える位に面白いのである。
ただ、桃拾くん自身は別に面白くないかな。無口で鈍感、何事にも薄味な反応というのをギャグとして描いているのはわかるのだけれども、もう少しお喋りなキャラクターにして観る人にもっと活力を与えて欲しかったと思う。
【総評】
ギャグ作品に対する期待に確と応えつつ、意外にしっかりとしたストーリーやキャラクターのバックボーンで断念しない視聴者の心を鷲掴みにする作品と評する。1・2話で切ってしまった人には「買い被り過ぎだ」と言われてしまうかも知れないが、やはりアニメの本性は3話で明かされ、どんなキワモノな姿になっても彼女らは飽くまで魔法少女であることを理解すれば、魔法少女(男)たちにも感情移入し物語を最後まで楽しめることができるだろう。流石に『魔法少女まどか☆マギカ』みたいな魔法少女にシリアスやダークファンタジーを求めるお客様の御要望に応えられる作品ではないが(笑)
作劇上、BL(ボーイズラブ)展開は確かにプッシュされておりそれもまた人を選ぶ要素となってはいるものの、そちらも飽くまで本質はNL(ノーマルラブ)かGL(ガールズラブ)であり、終始『ゴールデンカムイ』のラッコ鍋のようなお笑いに徹しているので結構、見やすい。本当にお笑いに振り切るのなら魔法少女の姿は『こち亀』の月光刑事みたいな汚いオッさんでも良かった筈だが、多少は毒を抜いて「筋肉逞しい美青年」ということで目に毒という程でもない配慮された作画を提供している。『俺、ツインテールになります』がいける人は全く抵抗なく観れるのではないだろうか。
この作品に咎める箇所があるとすれば丸々、第5話だろう。
{netabare}確かに原作は本来、アニメ化できる程のストックは持たない代物のため、足りない部分をオリジナルで補うしかなかったのはわかる。だがそれに乗じて主人公らを廃し、製作スタッフの内輪ノリやネタ、私情が混じったパロディで尺を埋めるのはいかがなものだろうか。ネタ自体は『シン・ゴジラ』や『SHIROBAKO』など有名どころを持ってきた安牌ではあるが、面白いかつまらないかという問題以前に第1~4話で作風を固めつつあった『魔法少女 俺』でやる内容ではなく、制作会社「スタジオぴえろ」は原作よりもスタッフの承認欲求解消の方が大事なのか?と不信を買うだけの内容であった。当然、話の本筋も見事にぶったぎっており非常に勿体ない構成をしている。流石は『おそ松さん』を作った会社、攻め方が秀逸だ(皮肉){/netabare}
第5話を無かったことにすれば王道的な魔法少女ストーリーに黒幕の正体とその目的など中々、面白い内容であると評する。アニメ化に合わせてマンガも続編が連載されたようで、そちらも機会があれば手に取ってみようと思います。そっちのアニメ化は……ぴえろは避けてストックを十分に溜めてから制作していただきたい。