「へやキャン△ (TVアニメ動画)」

総合得点
73.3
感想・評価
384
棚に入れた
1587
ランキング
1030
★★★★☆ 3.6 (384)
物語
3.4
作画
3.6
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.7

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

2期への繋ぎとしては及第点

1期が2018年、2期が2021年に放映された『ゆるキャン△』シリーズ。アニメ側として一大キャンプブームを巻き起こした本作に心配されたのは間が空くことでシリーズの熱気が冷めてしまうことだった。
そこでその間の2020年、TVアニメ『ゆるキャン△』のCパートに毎度入るオマケコーナー「へやキャン△」を、1話5分の1クールアニメに仕立てて放映したのが本作『へやキャン△』。謂わば皆の心にある「ゆるキャン愛」の火が消える前に継ぎ足された“追加燃料”であった。さて、その出来栄えは……?

【ココがすごい!:原作ストックを使わないオリジナルストーリー】
本シリーズは本来、女の子たちがキャンプへ赴くことで展開する日常系の作品だ。しかし1話5分という尺の関係、後に2期以降の作品を展開するための原作ストック保持とマンネリ防止etc. 様々な課題を考えるとこれまでと、そしてこれからと全く同じものを間に描くのは望ましくなかったようだ。
なので本作は野外活動サークル(野クル)メンバーが山梨県で開催されているスタンプラリーに参加し、県内の名所を「日帰り」で廻るという内容となっている。これは原作マンガにはないオリジナルストーリーである。前作の監督としてまた一塩有名になった京極義昭氏もスーパーバイザー(監修)という一歩退いた立ち位置で本作を見守る形を取っている。
「甘いなイヌ子。そんな甘々じゃ笛吹(ふえぶき)の桃に間違えられるぞー!」
「何ゆうてんの。甘いゆうたら勝沼(かつぬま)のブドウや!」
原作とキャンプから離れたことでなんだか山梨県民にしか解らない要素────所謂「ご当地ネタ」が露骨に盛り込まれてしまってはいるが、元々その要素もあったシリーズ全体の雰囲気は損なわれておらず、よほどのワガママでなければ十分に楽しめる内容となっている。

【変わらない魅力:忠実に再現された山梨の名所】
やはり背景には並々ならぬ注力具合を感じる。後に褒められない手法が発覚するとはいえ、現実の背景を忠実に美しく描くこともまた美術であり、多くの人を惹き付ける要素だと言う私の主張は変わらない。
私も河口湖の大石公園や天上山に(独りで)訪れたことがあるが、自分のこの目で見た景色がよりアニメに馴染んだ形でそのまま描写されており、そこになでしこらキャラクターたちが遊びに来ている1シーンはまるで自分の知ってる場所に芸能人が訪れたかのようにテンションが上がった。自分が流し見しただけのタヌキの置物に大きな反応を示し、小ネタを混ぜて写真を撮って貰う……自分のやらなかった青春を彼女らが謳歌する様が何だか羨ましくも微笑ましい。
曇天の中にある富士山も良い。いくら曇っていても場所が山梨であれば裾野のラインはかろうじて見えており、それを3人が指でなぞり富士山の存在を惜しむように確認する……キャラクターの郷土愛が前作以上に溢れているのがよくわかる。

【でもココがひどい?:しまりんと恵那の出番が……】
{netabare}本作は志摩リンと斉藤恵那の出番が少ない。これはオリジナルストーリーならではの失敗だとも言えるだろう。
とくに『ゆるキャン△』シリーズは友達と一緒にキャンプを1から学んでいくなでしこと、既に知識や経験を持って新たな挑戦(キャンプ)を続けるリンを据えたダブル主人公モノでもある。その内の1人がほぼ欠けてしまっている本作はそもそも「視聴するに値しない」と過激派が断ずるのも解らなくはない。
ただリンは性格上、野クルとの交流はクリスマスキャンプなど大きな催しに限っているのだし、書いてしまえばたかが「スタンプラリー」でなでしこはともかく苦手意識を克服したばかりの千明とずっと行動を共にするのかと訊かれれば、それもそれで不自然な展開となる。野クルが主役を張るときリンと恵那は鳴りを潜める。これは仕方がないことだ。
2人が登場するのは第4話。キャンプをしない日に見せる朝弱な一面や占いに一日中警戒する所など、リンの女子高生らしい部分が詰められており必見である。{/netabare}

【でもココが面白い:野クル特化】
さて共に野外活動サークルに正式所属する大垣千明・犬山あおい・なでしこの3人。実はこの面子のみで行った活動は1期のイーストウッドキャンプ場でのキャンプ1回くらいしかない。本作はそんなグループに特別な一体感を持たせるための作品とも言えるだろう。「なでリンしか勝たん!」と思っている人もこれを見て他の可能性を視野に入れてもらいたい(笑)
千明とあおいの初めての「出会い」も描かれている。1期でも『へやキャン△episode0』でも既に一緒だった彼女らがいつどのように出会い仲良くなったのか。2人すら覚えていない「子供」だったときのエピソードまであるのは本作のみ。さらっと描かれているだけではあるものの、1期の時点では掘り下げがやや甘かった2人の印象を深める作品でもある。

【総評】
2期への繋ぎとしては及第点であり、いちいち敬遠するような作品ではないと評する。
確かに序盤から山梨県の観光PRをしてるかのような物語の展開・会話劇が強く盛り込まれており『ゆるキャン△』シリーズの1作というよりは『八十亀ちゃんかんさつにっき』山梨版とも揶揄されそうな内容変化があった。しかし背景や名所物の描写はこれまで通り注力を欠かさず美しく正確に描かれており、両要素が合わさって一種の旅番組のような雰囲気もあったシリーズの中でも一際、そちらに特化した快作となっている。現実の山梨県に訪れた際はどこへ観光するのが良いのか、ある程度は本作を観て定めることも可能だ。
キャラクターの魅力や関係性も強化されている。健啖家で行動的ななでしこが本作の主人公にこれ以上ないはまり役をしており、彼女が山梨の名物を食べてはスタンプラリーに挑戦するという物語の軸が、本作に臭いがちな「ご当地アニメ」感をある程度は打ち消している。
あおいのはんなりとした関西弁とキレのあるツッコミも健在であり、ホラ話もオリジナルかつディテールの増した必聴の3作が聴ける。とくに2作が凝りすぎてて逆に直ぐ嘘だと感づけるからこそ「{netabare}関西弁は当たりが柔らかいからホラの成功率が上がる{/netabare}」という最後の軽い嘘には本気で騙されてしまった(笑) あおいが言うほど説得力が強いものはないんだよなぁ、でも「うそやでー」で許せる。
────そして千明。やっぱりこの娘は漢だね。
{netabare}一見、普通のスタンプラリーをしているだけに見える本作。だがそれはどこかの会社が企画したものではなく、常になでしこの傍にいた千明とあおいの手作りだったのだ。
山梨に来たばかりのなでしこは間もなく野外活動サークルに入り濃密なキャンプライフを送り続ける。それ故に1期1話の本栖湖以外の山梨観光をする機会が無くなっていたのである。そんな彼女にキャンプだけではない山梨の魅力。自分の好きなもの・好きなところを伝えたいと千明が動いたのが本作のストーリーだ。
彼女の行動力と郷土愛は現実的目線で考えてしまうと少し突飛が過ぎるかも知れないが『劇場版 ゆるキャン△』での彼女の進路を考えると全くあり得ないこともない。誰かのため────友だちのためにここまでやってのけるような人材だからこそ10年後に観光推進機構に就いたんだなという説得力が逆にある、その後のシリーズ展開との連携も見せる千明の発展した一面であった。{/netabare}
そんな友だち想いな2人と共に巡った山梨の名所は主人公の1人・なでしこの確かな想い出として描写され「なでしこの最愛の友人は志摩リンである」という1期で凝り固まった視野を解し、2期や劇場版で注目するキャラクターを2~3人から5人MAXに増やせる作品となっている。

投稿 : 2022/09/07
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サンキュー:

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