ひろたん さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
「メタバース」+「U理論」、ここまではイイのですが、最後、「なんですか、これ」。
主題歌「U」に乗せて展開される冒頭のシーンは、とてもすばらしいですね。
これからいったいどんな世界を見せてくれるのだろうかと、わくわくしました。
と、思った矢先、いきなり現実、なかなかやってくれます。
■メタバース
{netabare}
『サマーウォーズ』は、メタバースを描いた作品としては優秀だったと思います。
2009年公開なので今から10年以上前ですが、かなり先を見ていたと思います。
やっと時代が追いついた感じです。
この作品も同様の世界観です。
しかし、『サマーウォーズ』からあまり進化を感じられなかったのが少し残念でした。
{/netabare}
■U理論
{netabare}
この物語のメタバース空間は、「U」と呼ばれています。
ここでピンとくるのが一時期流行った「U理論」。
これは、変革、変容を起こすための物事の考え方です。
「U」の字は、「山→谷→山」となっています。
この谷の部分がターニングポイントとなる構造です。
私の場合、「U理論」については、当時、あまりピンときませんでした。
でも、この作品を観て、なるほどねって思えたのが、めっけものでした。
ここからは、この「U理論」をかい摘みながら物語を見ていきたいと思います。
ちょっと長いので興味がございましたら・・・。
{netabare}
人は、過去の経験による枠組みで物事をとらえます。
すると事実をありのままとらえることができなくなります。
思い込みと言うやつです。
それが思考停止や自己否定につながり自分が変わることの足かせになってしまいます。
それはなぜかと言うと、思い込みがあると、事実と解釈を混同してしまうからです。
そして、自分の解釈を事実として受け取ってしまうため動き出せなくなるのです。
この物語では、主人公がまさにそのようなキャラでした。
本当は、歌うことが大好きなのに過去の出来事から人前では歌えなくなりました。
* * *
では、これを解消するためにはどうしたらよいのでしょうか?
それは、自分を観察し、自分の心に気づくことだそうです。
そのためには、自分を俯瞰し、心の動きや感じたことに意識を向けます。
自分を俯瞰するとは、言うなれば、もう一人の自分から眺めることです。
この物語では、仮想空間上に作ったアバターを主人公が俯瞰する構図でした。
仮想空間では、自分の思い通りのことが実現できます。
主人公は、アバターを通じて自分の本当の思いに気づいていくのです。
* * *
次に、自分の思いに気づいても、すぐには決めつけず保留にしておきます。
そして、結論を出せないもどかしさに耐えてみます。
こうして、気づきと保留を繰り返すと、次第に心が柔軟になってくるそうです。
また、その影響で他人とコミュニケーションもとれるようになってきます。
この物語でも、主人公は、仮想空間と現実を行き来しながらいろいろ思慮しました。
一方、現実では、恋敵だと勘違いしていた知人と結果的には仲良くなったりします。
* * *
心が柔軟になってくると、思い込みのせいで今まで見えなかったものが見えてきます。
これは、ある意味、他人が見ている世界を自分も見えるようになったとも言えます。
ここまでくると自分の解釈を無理やり「思い込む」ことができなくなります。
この物語では、自分の世界と他人が見ている世界との融合を仮想空間で表現しました。
つまり、この仮想空間は、単なる仮想空間でなかったのです。
主人公の心の変革への思考過程そのものを象徴していたのです。
* * *
ここで、この物語はターニングポイントを迎えます。
U理論によれば、この後は、根源的な問いが出てくると言います。
それは、「私は何者なのか?」、「私の成すことは何か?」ということです。
そして、この問いにより、「本来の自分」へとつながります。
この「本来の自分」からの発信する言葉は、他の人にも響くと言われています。
この物語でも、主人公は、最後に、仮想空間上で「本来の自分」を晒しました。
「私は何者なのか?」に対する答えです。
そして、歌たったのです。
「私の成すことは何か?」に対する答えです。
主人公の歌う歌は、この仮想空間の人々に響いたことは、言うまでもありません。
「本来の自分」とつながり、行動を起こすことで生まれるものが変革、変容です。
主人公は、最後、まさに行動を起こすことにより、今までと違う自分になれたのです。
* * *
主人公は、仮想空間では、他の人々から「彼女はいったい誰?」と言われてきました。
実は、これは自分を失いかけていた主人公の自分自身への問いかけでもあったのです。
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■「なんですか、これ」
{netabare}
主人公と「竜」との関係については、正直、あまりグッとくるものはありませんでした。
しかし、主人公の気持ちだけを追っていくとトラウマと思春期特有の悩みの合わせ技で、
意外とグッとくるものがありました。
主人公が仮想空間で「本来の自分」を晒して歌ったところまではとても良かったです。
感動もしました。
しかし、その後、虐待されている子供を助けに行くところの展開はいただけません。
「なんですか、これ」、正直、やっつけとしか思えません。
赤の他人でも助けると言う死んだ母親譲りの動機で行動したのは納得できます。
でも、もうちょっと描きようがあったのではないかと思えて残念です。
結局、主人公はどっちの男の子が好きなの?的な展開となり頭の中が、グチャグチャ。
そして、今まで積み上げてきたものが、メチャクチャ。
なんだか、ダイナシ。
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■まとめ
この作品は、主人公の心の中で起きている変革を仮想空間に投影し表現しました。
また、主人公は、トラウマとコンプレックスを抱えていますが、ごく普通の女の子でした。
このあたりの設定はとても良かったと思います。
でも、物語としては、正直、もう少しだったかなと思います。
特にタイトル「竜とそばかすの姫」のうち「竜」については、ピンときませんでした。
極端な話、「竜」じゃなくてもいいんじゃないの?とも思わなくもありません。
なぜなら、主人公の心の変革のきっかけ以上のものを感じなかったからです。
つまり、他にきっかけになるものがあれば、「竜」じゃなくても成り立つからです。
どうしても「竜」でなければならないと言う必然性が欲しかったと思いました。
全体的に各要素がもっと有機的につながっているストーリーだとよかったと思います。
少し支離滅裂だったかなと。
でも、それがネットワーク上の仮想空間の本質なのかもしれませんが・・・。