ナルユキ さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
引き出しの多いラブ「コメディ」
《人を好きになり……告白し……結ばれる。それはとても素晴らしいことだと誰もが言う。だがそれは間違いである! 恋人たちの間にも明確な力関係が存在する。搾取する側とされる側。尽くされる側と尽くす側。勝者と敗者…………もし貴殿が気高く生きようというのなら決して敗者になってはならない! 恋愛は戦!! 好きになった方が……負けなのである》(アニメ『かぐや様は告らせたい』冒頭より)
名ナレーターたる青山穣さんで読み上げられた本作の「恋愛観」に基づいて男女が周到かつ浅はかに立ち回る姿が面白い。
「どっちかが素直に告ればいいのに……」
そうツッコんでしまうことが我々視聴者の敗北なのである!
【ココが面白い:恋愛頭脳戦】
片や学力一本で名門校の首位・生徒会長の座を勝ち取った男・白銀御行(しろがね みゆき)。片や200兆円という国家すらひれ伏す莫大な資産を有する財閥のご令嬢兼生徒会副会長・四宮かぐや(しのみや ─ )。エリート中のエリートである2人にはそれ相応のプライドがある。その中の1つが「自分からは絶対に告白しない」ということだ。
1話3エピソード構成を基本とするこの作品で、第1話の1エピソード目という頭の頭でもう2人が相思相愛であることが明かされてしまう。ラブコメにおいてゴールテープが目の前で張られている状態。これを1クール終了までキープするというとんでもない作品だ(笑)
「いつか向こうから自分に告白するはずだ」とタカをくくって半年経過したところからスタートというのも面白い。「いい加減付き合いたい」という痺れを切らし始めた欲望と上記のプライドから、思考が「いかに相手から告白させるか」「いかに相手が自分を好きだという証拠(言質)を掴むか」という方針に切り替わってしまっている。その中で主に生徒会室で繰り広げられる会話劇、まあ面白くない訳がない!
かぐや様の行動力が素晴らしい。何気なく切り出される映画のペアチケットや第三者からのラブレター、心理テストをやる流れに送迎の車がパンクして使えない雨の日……全て彼女の仕込みなのだから(笑) しかし揺さぶられる(というか最早告白のお膳立てをされている)白銀会長もそう簡単に彼女の思い通りには乗らない。
(映画に誘ったけどこれ、かぐやに気があることになってしまうのでは!?)
(ここでかぐやを引き留めるのは彼女に告白してるのと同じことなのでは!?)
この危惧から一瞬で閃く回避策。かぐやの仕掛けを逆手にとって立場を逆転させる秀逸なものから「先生にチクる」なんてしょーもないものまで落差が激しく結構、腹筋や表情筋にくる。そして精度はどうあれ自分が入念に下準備をした策が崩された途端、余裕を失くし、(自分から告白しなければ何でもいい!)と形振り構わなくなってしまうかぐや様もまた面白く、お可愛いのである。
【ココも面白い:豊富な小話】
いかに相手から告白させるかを競う恋愛頭脳戦だが、これが早々に決着が着いてしまうようなら1クールも要らない。しかし決着の着かない勝負を何度も見せられても興醒めだろう。なので本作はそれ以外の要素がある小話もふんだんに投入しており、かつ本筋としてブレが少ない。どの話も会長やかぐや様の「沽券」に関わる事態に陥れることで面白おかしく彩られている。
恋愛頭脳戦のせいでどっちも交際経験皆無なのに各々「恋愛のプロ」と見込まれて相談を持ちかけられたり、校長が白銀を生徒会長に相応しいかどうか密かに試してきたりなど秀知院学園生徒会は会長又はかぐや様単身でも十分に波乱万丈だ。中でも爆笑を飾るのが会長の「運動音痴」。これは2~3期まで続く人気ネタでもある。
{netabare}1期はバレーボールがお題だが会長の初期レベルは正にギャグマンガ級。サーブの振り上げた手で自分の頬や後頭部を叩いてセルフにふっ飛んだり、空振りで落ちたボールに足を乗せてバナナスリップしてみたりと豪快。自他共に「死にかけのアルパカ」と称し、単純に出来ていないことをイップス(スポーツ選手のスランプのようなもの)だとおこがましい勘違いをするetc. これを生徒会書記の藤原千花(ふじわら ちか)が人並み以上に改善していく、という流れなのだが……もう「千花ちゃん、お疲れ様」と肩を置きたい気分にさせてくれるのである(笑) 1週間かけてサーブだけをプロ級に仕上げてようやく解放かと思いきや会長が「次はトスとレシーブを教えてくれ」と言った時の絶望の表情と声になっていない声が本当にたまらない。{/netabare}
【この娘が可愛い:チカっとチカ千花っ!藤原千花ちゃん】
すっかり苦労人なイメージを植え付けてしまったが、千花は基本的には天真爛漫でやや変わりもの風な女の子だ。生徒会書記の立場ゆえに会長とかぐや様の恋愛頭脳戦の場となる生徒会室には必ず居合わせてしまい、2人の対決に捲き込まれる形となる。
しかし振り回されることはそんなになく、逆に彼女は天然発言や予測のつかない行動で膠着した頭脳戦を一気に収束に導いたり、逆にさらなる混沌を呼び込んだりと「トリックスター」的な役回りをする。親にあらゆる娯楽を封じられてきた反動やテーブルゲーム部所属という特徴から、彼女から2人の頭脳戦を火蓋を切る「レクリエーション」を持ち出すことでそれがそのまま1エピソードになったり────と非常にポテンシャルが高いキャラクターだ。
そんな彼女の存在がこの作品の頭脳戦という激しい会話劇の中で清涼剤となっている。彼女の素直さ、二人と違ってプライドを感じさせない性格の良さ、意外と鋭いツッコミと可愛らしさがこの作品には欠かせない。
彼女がいるせいで2人の恋愛頭脳戦に決着がつかないともいえるのだが、それもまた一興。3人のメインキャラクターのバランスが素晴らしく、3人の何気ない、本当に何気ない日常会話をずっと聴いていたくなる。連絡先の交換、買い出しジャンケン、海か山か恐山か(笑) 話題自体は大したことがないのだけれども、その大したことのない話題をこれでもかと誇張し広げることで腹を抱えるくらいのギャグにしている。いつも3人でいる状況だからこそ千花がいない時────会長とかぐや様の2人だけの場面では妙な緊張感すら感じさせる。{netabare}まあそういう時に限って背後からヌッと出てくるのが千花ちゃんなんだけども(笑){/netabare}
そんな彼女は原作マンガ時点でキャラクター人気の首位を確立しており、そんな人気を見越してか第3話で彼女のみが歌って踊る特殊なエンディングが披露されている。CGのようにぬるぬると動く千花のダンスには制作陣の本作に対する意気込みが強く感じられる。
【でもココがひどい?:くどい演出(1)】
私はすっかり慣れてしまったが本作、ナレーションに「きつい」「うざい」といった反応が顕著に見られる。確かにナレーションを含む本作の演出はかなり過剰だ。
自らの中にある恋心とプライド。自らの性からくる本能とその恥ずかしさ……諸々入り混じる会長ととかぐや様の複雑な感情が会話によるラブコメを生んでいる。そこにまるでプロレスのリングアナのように状況を逐一実況するような青山穣さんのナレーションが入るのである。そのしつこさは『逆境無頼カイジ』の立木さんのものを凌がんとする勢いだろう。
《白銀、突然の窮地!》、《四宮、刹那の思考……》、《スキル“純粋無垢”発動!》
《追い詰める四宮、逆転の機を探す白銀。二手三手先を読む天才たちの頭脳は常人を超える速度で回転し、ぶつかり合う!》etc.
頭脳戦ということで各キャラクターの思考も含みを持たせず饒舌に発声させていく中でこの頻度のナレーション……正直、私も「うるせえな」と度々思ってしまっている(笑)
第1話ラストで恋愛頭脳戦の本質をナレーターが説明してしまっているのも興醒めだろう。「相手に告白させようとする」本当の理由は「自分から告白するのが恥ずかしいし断られるのが不安だから」というのは視聴者がかぐや様の表情や会長の様子を見て何となく察していくべき部分であり、それなりにアニメを観てきた人に向けてそれを全部説明してしまうのは余計なお世話にも感じるのである。
【でもココがひどい?:くどい演出(2)】
ただ、このナレーションがあるからこそ彼らの恋愛頭脳戦がより盛り上がり、笑いが際立っていることも本作を客観的に評価するなら認めなければならない。
ナレーションは頻度こそくどめだがワードセンスは秀逸だ。キャラクターに対してやや上から目線で毒づいたり、かぐや様の仕込みや会長のしょうもない回避策を敢えて大仰かつ丁寧に解説することでラブコメの「コメディ」の部分を強く引き立てている。「嘘である」「罠である」というような、短く断定的な言い方にもじわじわと笑いが込み上げるような面白さがある。原作リスペクトを多分に込めて、やはり本作にはナレーションが必要だ。
{netabare}とくに第7話Cパート『かぐや様は堪えたい』はナレーションの弁解がないとかぐや様が只の下ネタで爆笑するような低俗なお嬢様に成り下がってしまう。
《現在かぐやはちょうどちんちんやおっぱいで笑ってしまう時期。誰もが一度は通った道に今まさに差し掛かっていた》
とフォローが入ることでキャラクターの名誉を守りつつ(?)コントが続けられるのである。{/netabare}
そして曲。相手の言葉にときめいた瞬間は『ラブストーリーは突然に』、傷ついたフリをかまして相手の動揺を誘う際には『冬のソナタ』みたいな曲が流れることがある。もはや20代後半でないと通じない可能性も高いパロディをあえて入れることで場面場面に完璧にハマる劇伴を付けることに成功しており、ここでラブコメの「ラブ」も際立たせてつつ、笑いどころも作っている。
これらの演出は確かに過剰だ。だが本作が「ラブコメ」における「コメディ」の要素が強いからこそ、そのしつこく過剰な演出を取り入れることで強い笑いにしているようにも感じる。カメラワーク、キャラの表情、動き、曲、声優の演技。様々な部分の演出が強烈であり、それが故に人によって手厳しい意見が出る部分────“クセ”の強い部分となっている。
【他キャラ評】
石上優(いしかみ ゆう)
この作品はメインキャラクターを3人で回していくのかと思いきや、6話でこの石上くんが追加される。
正直、最初はあまり歓迎しなかった。会長・かぐや様・千花で形成されたゴールデントライアングルに男────しかもオタク陰キャを投入するのだ。その異物感はファンが思う以上に凄まじいものがある。最初はね
ただやはりオタク陰キャの発言はアニメを観る人に多く含蓄する“同類”への共感を生む。そんな彼の発言や失敗を「わかる」「あったあった」「これをやられたら死にたくなるよな」と笑い、懐かしみ、同情していく内にいつの間にか愛おしくなる、そんなキャラクターだ。
失言をして制裁される、制裁によって繊細な心が傷つき彼の退場理由になる、という好感度・出番のコントロールがしっかりされており、最初の不安を取り越し苦労で終わらせてくれた。時として生徒会のゴールデントライアングルの頂点が欠ける際にはそれを見事に補う役割も果たしており、現在となっては彼もまた生徒会に無くてはならない人材だと言える。
【総評】
2022年現在もあにこれ総合ランキング1位の玉座に就く作品だが、それにも納得がいく斬新で面白いラブコメだ。
互いの気持ちには気づきつつも自分の気持ちには素直になれない2人。だからこそ繰り広げられる「恋愛頭脳戦」という会話劇を、しつこいまでの演出で過剰に盛り上げることで笑いを生み、そんな理屈ったらしい会話劇から感情的な恋をしてるからこその面白いオチにつながる。
元来、シチュエーションコメディはマンネリ化の早いジャンルであるが、本作は話の引き出しに恐ろしい程の幅があり、その展開が複雑多岐に渡るので一切、飽きが来ない。「スマートフォンを買いました」「Twitterを始めました」程度で1エピソードになり、加えて生徒会特有の活動からラブコメ定番の学校行事も盛り込んで、それらの状況が生み出す食い違いや不条理さも独特と来ている。やっていることは大したことない筈なのに笑いの取り方が変幻自在で内容が濃い。こうしてふざけたり真面目でもズレていたりする天然ボケ、それらに振り回されるも鋭いツッコミもこなすキャラクターたちに段々と愛着が涌いてくるのである。
1人ひとりのキャラクターもデフォルトで可愛らしい。素直になれない2人もさることながら、能天気とされる千花も見方・言い方を変えれば「天真爛漫」でかぐや様とは全くタイプの異なる可愛さを持っている。途中参戦の石上はその異物感が初め、少しネックに感じてしまうものの、その陰キャオタクっぷりは違った角度のギャグやキャラの一面を引き出すキャラクターになっている。まさに本作の「スパイス」と評しても過言ではないだろう。
{netabare}各キャラの愛着が深まった最終話付近ではシリアスでセンチメンタルなエピソードも投入しており、それまでとは毛色の異なる雰囲気づくりにも成功している。両者が結局奥手だからこそ学校のない夏休みを孤独同然で過ごしていくという空虚な描写は2人と共に儚い気持ちにさせられるし、人並みの遊びが赦されないかぐや様を生徒会一丸となって花火大会に連れ出す最終話はとても感動的であった。{/netabare}
メインキャラは基本的には3人、中盤からは4人になったが、この少ないキャラクターで見事な会話劇を繰り広げており、そんな会話劇をコメディとして見せつつ「恋愛」描写もしっかりと描くことでゲラゲラと笑う面白さとニヤニヤとしてしまう面白さを両立した作品だ。
会話劇であるがゆえにそれを盛り立てようとやや演出が過剰になってしまっている部分があり、そのあたりでやや好みが分かれる部分はある。言い方は悪いが「押し付けがましい」。しかし、そんな演出過剰な部分も含めてこの作品をラブコメとして盛り上げよう、面白い作品に仕上げようとしている所もまた本作の愛おしい部分だ。