Franz Kafk さんの感想・評価
3.9
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 2.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
銃を手に取るチノとココア、AIに管理された東京で「逃亡」を肯定し続ける
直感だけでいえば、ここ最近で一番楽しめたアニメーションでした。
各話ごとに話が区切られているタイプの脚本にも関わらず、次の話が見たいという欲求が止まりません。
各話の脚本の構成がすばらしいのだと思います。起承転結のセオリーを丁寧に踏襲しながら、大胆な展開で視聴者を驚かせ、そのうえ細かい伏線回収を行うことで、ご都合主義の後出しじゃんけんではなく、どんな展開にも説得力をうまく持たせているように感じます。
世界観は言うまでもなく魅力的です。東京という非常に親しみがある対象だからこそ、池袋がペンギンの国になっていたり、お台場が温泉の国になっていたり、コミカルでありながら大胆な設定に、なぜかとても愛着がわきます。街ごとに全く別の文化と価値観が形成されていて、次の話ではどんな街がでてきて、どんな世界なんだろう?とワクワクが止まりません。またそれぞれの街を象徴する建物の外観のカットが緻密にかつ魅力的に描かれていて、強いこだわりを感じました。お台場の神殿?みたいな温泉施設の荘重な外見が特にお気に入りです。
人間ドラマ、人格、思想の描写が丁寧です。依頼者たちには、それぞれの逃げたい理由があり、人間関係があります。また逃がし屋のメンバーにも、お互いに思っていることがあり、言えない不満もあります。そういった複雑な感情と、微妙な変化を一話から最終話までかけてゆっくりと描写する。こういうことってすごく難しいことだと思います。また、そういった感情の起伏を"説明しすぎない"ところも見やすいポイントでした。「いま怒ってます!」とか「嫉妬してます!」とか言われ続けると、ちょっとくどいなあと感じますけど、最近ではそういう「説明書付きアニメ」も増えていて、こういう曖昧な感情描写のある作品は貴重かもしれません。
そして今作のテーマである「逃げ」の描写の素直さにも驚きました。王道な物語では、現実に疲労し、逃げ出したくなった人がいれば「大丈夫、きみはまだやれる」と励ましたり「こんなやりがいがあるんだよ!」といって現実への復帰を支援するのが当然です。「エヴァンゲリオン」ですら最後はそうなりましたからね。でも今作は違います。「わかりました!逃げましょう!」の一点張りで押し通します。視聴者が「おいおい、それ大丈夫なのか」とツッコミたくなるほどに姿勢を変えません。「ここは絶対逃げちゃだめだろ!問題を解決しようよ!」そんなときでも姿勢は崩れません。このアンバランスな要素が、展開を常に予想外な方向にもっていき、物語にエネルギーを与える起爆剤のような役割を果たしているように感じられます。
もうひとつ印象的だったのが、今作では「逃げることによる問題」もきちんと描写していたことです。当たり前のことですけど、逃げたってどこかでツケを払わなければいけません。逃げることでなにもかもが解決することなんて滅多にありませんし、むしろ大抵は状況が悪化します。この物語は「逃げ」に徹しながらも、「逃げ」を完全肯定しません。実際に話中の「逃げ」にはうまくいったものもあれば、失敗に終わったものもあります。それでも逃がし屋としてのスタンスは変わらない、この剛健さが彼女たちの本当の強みであり魅力ですね。
声優の方の演技も光っていました。特に長縄まりあさんという方の演技がとびぬけてすばらしく、本作を縁の下から支えています。もちろん全員うまいんですけど、長縄さんは同じセリフでも言い方や雰囲気を変えて、キャラクターの感情をうまく音にしていると感じました。特に第四話は長縄さんの演じるマルテースが大量に登場するので、長縄さんの演じ分けの妙技が実感できます。
ギラギラしたネオンとサイバーパンク、シリアスなシーンでも絶えないコミカルな描写は「アクダマドライブ」を彷彿とさせます。喫茶店での日常パートはまさに「ご注文はうさぎですか?」であり、各話の構成の美しさは「コードギアス」のようです。
インターネット上での評判はいまのところボチボチのようですが、数か月後、数年後にカルト的人気を誇ってもおかしくないポテンシャルを感じます。「カルト的人気」といえばCG表現も相まって「けものフレンズ」っぽさもありますね。いつかこのアニメが正当に評価される日を待っています。わたしは劇場版とソシャゲに進みたいと思います。