退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
何度だって、走るんだ
陸上経験者3人と素人7人が、最初で最後の箱根駅伝を目指す。
あくまで陸上は個人競技であり肉体を動かすのは自分だけだが、
それでも仲間がいるから前に進める、困難を乗り越えられる。
あらすじも主軸となる要素も極めてシンプルだが、
名作と呼ばれるだけあり、味わい深さは他作品と一線を画する。
即席チームが一年で箱根に出るのは非現実的だが、
個人的にスポーツ作品に大事にしてほしいのは
・努力する過程
・自己の鬱屈した感情と向き合う過程
・支えてくれる人の存在を理解すること
・仲間と出会いどう成長、変化したのか
をどれだけ細かく描くかであり、
競技経験や才能の有無、競技の結果は付随的要素に過ぎない。
走れない絶望を経験したからハイジだからこそ、
何度もシューズを手放そうとした、誰より弱い彼だからこそ、
人の弱さを理解する強い人間へと成長した。
その強さは順位やタイムには還元できない「速さの向こう側」にあり、
走れない体になっても指導者としての未来へと繋がっている。
仲間と出会ったカケルが弱さを知り、孤独でなくなったからこそ、
独りで走っていた彼に始まりを告げたハイジの言葉は、
カケルの後ろを走るたくさんの仲間たちへ始まりの一歩を告げる
自分自身の言葉になった。序盤では考えられない成長ぶりである。
出発するまでに歩んできた道のり、ゴールまでに何を積み重ねてきたかで
結果の受け取り方も本人に与える影響も大きく変わる。
順位が何位だったか、区間賞が誰だったか、誰が誰に勝ったか、
それらより大切な理想や目的を目指すことをスポーツと呼ぶのだろう。
実際これは本作の主題の一つだと思うし、多くのセリフに表されている。
「選ばれた者にしか許されないのか?そういう物なのか?走るって。」
「君の価値基準はスピードだけなのか?だったら走る意味はない。新幹線に乗れ!」
「速さを追い求めるばかりじゃダメなんだ。そんなのは、虚しい」
「タイムも順位も目まぐるしく変わるこの世界で、何をもって一番なんて決められる?」
「大丈夫、君と勝負するつもりはないから。僕らの戦いは別のところにあるんだ。」
綺麗事ではない努力と絆の先にあるものを正面から描いたからこそ、
最終話ラストの10人の言葉がどうしようもなく心に響くのだと思う。
老若男女全ての人に力をくれる、素晴らしい作品だった。