ひろたん さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観たい
良くできているとも言えるし、自分の中に広がったイメージに制限をかけてしまうとも言える、「諸刃の剣」的な作品
宮沢賢治の原作も、このアニメ化作品も子供のころに観ています。
今回、あらためて原作を読み、その後、アニメを観てみました。
■原作より
{netabare}
主人公のジョバンニがふと気づくと銀河鉄道(汽車)の客室にいました。
そして、その客室に友達のカムパネルラの姿を見つけるのです。
なぜ、二人は気付くとこの汽車に乗っていたのでしょうか・・・。
読者は、この不思議な疑問を抱えながら、二人の銀河鉄道の旅を見守るのです。
とても美しく不思議な景色の中を汽車が進む情景が目に浮かびます。
さて、この汽車は、いったいどこへ向かっているのでしょうか?
そして、この汽車に乗り合わせた乗客の話からある結論も導き出されてきます。
すると、ぞっとしてきます。
そして、最後は・・・。
{/netabare}
■このアニメ化作品は、原作に比べて難しい
{netabare}
基本的には、原作に沿っているのですが、原作の方が分かりやすいと思いました。
もし、原作を読まずにこの作品を観ると少し難しいかもしれません。
特に主人公ジョバンニの気持ちがアニメだと分かりにくいのです。
原作だとジョバンニの視点で描かれています。
そして、ジョバンニ自身がその時々に感じた気持ちがモノローグで語られます。
気持ちが分かると言うことは、それだけ感情移入もし易くなっています。
一方、アニメだとジョバンニは、無言のまま自分の気持ちは語りません。
その表情から察するしかないのです。
つまり、ジョバンニのその時々の気持ちをすべて想像しなければならないのです。
それが意外と難しく、結果として、ジョバンニに感情移入することも難しいのです。
確かにジョバンニが自分の気持ちを語るのは、このアニメ化では向かない気がします。
そう考えると、この割り切った演出は、悪いことではないとも思っています。
ただ、原作に比べてかなり難しくなっていることは確かなのでなんとも言えないです。
{/netabare}
■アニメ化の残念な点
{netabare}
物語の序盤のことです。
原作では、ジョバンニが「ふと気づく」と汽車の客室にいてそこから旅が始まります。
しかし、アニメでは、汽車がジョバンニのすぐ前までやってきました。
私は、気づくと客室にいたと言う、現実と夢の境界がはっきりしない感じが好きです。
しかし、アニメでは、そこにはっきりと区切りをつけてしまったのが残念です。
物語の終盤のことです。
原作では、ジョバンニが「ふと気づく」とカムパネルラが消えていました。
そして、それによりジョバンニは、すべてを悟り涙するのです。
しかし、アニメでは、カムパネルラが消えるところはドラマ的な演出でした。
カムパネルラとの別れをはっきりさせてしまったのです。
また、この汽車には、いろいろな乗客が入れ替わり立ち代わりやってきます。
原作では、そのうち何人かは、「ふと気づく」とそこにいるのです。
しかし、アニメでは、その出現を描いています。
つまり、アニメでは、これら「ふと気づく」と言う部分が無くなっているのです。
原作では、「ふと気づく」ことにより、「なぜ?」と言う疑問が常に浮かびます。
この「なぜ?」がどんどん積み重なることによりある大きな疑問へとつながります。
それは、そもそも、「なぜ」この汽車に乗っているのか?と言うことです。
そのことが、この物語の独特な雰囲気を作り出していると思うのです。
しかし、アニメでは、それが無くなってしまったのが残念なのです。
{/netabare}
■アニメ化は「諸刃の剣」
{netabare}
原作を読んでいる時は、自分の頭の中に際限なくイメージが広がっていました。
しかし、実際にこの作品を見るとそのイメージに制限がかかったように感じます。
私は、原作では、車窓からの風景はもっとキラキラ光り輝き、広がりを感じました。
しかし、この作品では、どことなく暗く、狭く、銀河と言う感じがあまりしません。
かなり自分が思い描いたイメージとのギャップがあるのです。
もちろんそれは、当然のことです。
なぜなら、この作品の映像は、あくまでもこの作品を作った人のイメージだからです。
当然、自分が抱いたイメージではないからです。
だから私としては、この作品を観て、『銀河鉄道の夜』とはこういう作品なんだとは、
思ってほしくはありません。
原作の中にこんな一節があります。
「みんながめいめい自分の神さまが本当の神さまだというだろう」
それに準えるなら、やはり自分の中に広がったイメージを大切にしてほしいのです。
このアニメ作品のイメージを鵜呑みにしないでほしいのです。
当然、私のイメージを押し付けることもしません。
『銀河鉄道の夜』は、原作を読んで各々が感じたイメージを大切にして欲しい、
そんな作品だと思うのです。
この作品は、分かりにくい世界観のイメージを見せてくれたという点ではすばらしい。
しかし、原作を読むと感じるイメージを狭めてしまいかねない危うさもあります。
それこそ、「諸刃の剣」的な作品なのです。
{/netabare}
■まとめ
この作品は、抽象的な物語のアニメ化としてはよくできていて素晴らしいと思います。
しかし、原作は、それ以上に素晴らしいことをあらためて認識させられた作品でした。
あくまでも私の主観ですが、原作は2倍分かりやすく、3倍面白いです。