てとてと さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
1930年代上海を舞台に繰り広げられる超能力スパイ物。力作だが不人気なのも分かる
【良い点】
満州事変前夜の上海で異能持ちの特務機関が暗躍するスパイアクションという渋い題材。
列強の思惑渦巻くスパイたちの暗闘、中国語など多言語が飛び交う雰囲気に魅せられる。
1930年代の中国・上海租界の異国情緒も良い。
縦軸ストーリーとして、予言や新型爆弾を切り札に使って大アジア主義的理想の為に暗躍する黒幕と対峙する。
「ジパング」めいた歴史ifサスペンスが面白い。
柳条湖事件、リットン調査団、溥儀の即位式典などの歴史イベントに実は裏で異能者たちが…燃える展開。
ヒロインが特務機関の仲間の一人にして敵ボスの妹というポジションもドラマを生んだ。
シリアスな作品ながらキャラクターは軽妙で時折日常回もあり、ライトに見せる塩梅も上手い。
食堂の看板娘の風蘭とのコミカルなやりとりなど。
風蘭絡みで写真撮影に奔走する日常なども、時代の流れにも逞しく生きる様や、交流を通して思想信条とは無縁の人々の想いを言下に描いていた。
本作において、一見無駄に見えるコメディー回が結構大事。
彼女のほか、日本に土地を追われ荒野を黙々と耕す農夫の諦念、対して日本の大陸進出を歓迎する日本人たちなど、考えさせられる。
視点や立場によって見方は変わる、人々の思いを偏らず淡々と描いているのが渋い。
主人公たちは正義のヒーローではない、それでも各々の胸に秘めた想いはちゃんとある。
歴史if物にありがちな色気を控えて淡々と任務をこなし、大局的には史実通りに進行、活劇としては地味ではあるが、視聴者に考えさせる確かなメッセージを感じる。
異能バトルは地味な異能を使いこなす渋さ。
制約やリスクがあるのも渋い。
主人公らはヒーローではなく、無双なんて出来ない。
主題歌含めて楽曲はかなり良い。雰囲気を出している。
【悪い点】
題材がニッチ。
満州事変前夜の歴史や政治情勢に詳しくない視聴者は楽しみづらいと思われ。
番外編で解説回もあるが、本編中のストーリーに活かせず不親切。
良い点と裏腹、エンタメ作品として地味。
歴史のイベント、それも物語の題材としてはマイナーな事件を、淡々と描くのに終始。
歴史ifサスペンスとしては主人公らの関わり方が謙虚故か、このジャンル特有のワクワク感があまり高揚せず。
高千穂もジパングの草加拓海に比べると地味でカリスマに欠けた。
ジパング並みの歴史改変劇を1クールで描くのは難しかったか。
高千穂のせいというよりは、葵たちが彼のライバルとしては謙虚過ぎて、対立軸が明快な割にドラマが盛り上がらず。
雪菜お嬢様がヒロインとして地味で、兄や仲間とのドラマの盛り上げにあんまり貢献できていない。
看板娘ちゃんの方が目立っていた。
良い点とも裏腹だけど、異能バトルが地味でカタルシスに欠ける。
スパイ物としてもピンチや頭脳戦などの外連味のある見せ場が少ない。
総じて色んな要素が地味。丁寧に作られた力作な割には面白さがそこそこ止まり。
看板娘とかの日常も、高千穂関連のシリアスも両方大事な要素だったけれど、1クールでは足りなかった。
【総合評価】7~6点
「アニメノチカラ」第2弾となる力作、意欲作。
不人気なのも是非もないが、駄作ではないのも確か。
評価はとても良いには物足りない「良い」