101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
“実力至上主義”の虚無を見おろすイカロス
クラス対抗で苛烈な競争をさせる名門高校の青春を描いた同名ライトノベル(未読)のアニメ化シリーズ1期目。
【物語 4.0点】
1年生編の3巻までをアニメ化。
実社会で求められる“実力”を至上とする姿勢が徹底。
与えられた課題に真面目に取り組むより、設定されたルールの意図や裏を読む。
誠実さより、根回し&立ち回り。友情ではなく“コミュニケーション能力”。事実より印象。
学校と実社会の違いを思い知った大人なら首肯できる駆け引きが多数。
監督は岸 誠二氏&橋本 裕之氏の二人制。
ブラック担当の岸監督、ホワイト担当の橋本監督で、
ドロドロした暗闘と、一応、水着回などのサービスもあるラノベらしい明るい外面。
裏表を描き分けメリハリの効いた構成を狙う。
評価システムを嘲笑うように成績を凡庸に保ち、暗躍する主人公少年・綾小路 清隆を通じて、
“実力至上主義”その物に虚無を感じるのも苦い味わい。
人が人を評価し競争させる意義まで問い直すような深いテーマ性を感じます。
【作画 3.5点】
アニメーション制作・Lerche
外見はイケメン美少女。巨乳キャラはより巨乳に見せる凡庸なラノベアニメ。
が各々裏の顔が暴かれる前から、虹彩のグラデーションが二面性を示唆するようで何とも不穏。
で実際、本性出したらキャラデザ変わった?ってくらいハッキリ演出して来ます。
主人公・綾小路に至っては、死んだ魚の目とか通り越して、
世間の全てを諦観しているようで、目を見るだけで背筋が凍ってヤバいです。
終盤の{netabare}堀北の体調不良{/netabare}など、伏線となる違和感の強調も比較的分かりやすく、
綾小路の攻略解説等も頭に入って来やすいです。
【キャラ 4.0点】
主人公・綾小路。勇者というより冷笑系のラスボスの素質を感じる少年。
人間観察も常に一歩引いた視点から俯瞰する冷静で、冷淡な感じ。
ラストの{netabare}独り勝ち宣言や、常軌を逸した競争の実験からの生還?をほのめかす回想シーン{/netabare}と合わせて闇の深さを感じます。
一応のメインヒロイン・堀北 鈴音。
旧来の学校教育の物差しで測れば文武両道の才媛。
彼女が底辺のDクラスに甘んじている辺りからも、
学校では優秀でも、社会では“コミュ力”とかチームワークなきゃ通用しない“実力至上主義”を象徴。
どちらかと言うと私は堀北さんの方が主人公勇者のポテンシャルがある気もします。
原作既読組からは堀北さん{netabare}メインヒロイン剥奪?{/netabare}との悲報も聞こえてきますがw
“コミュ力”上々の櫛田さんや軽井沢さんに負けずに頑張れ♪
ライバルとなる他クラスの生徒からもキャラ設定の細かさを感じます。
私が印象に残ったのがC組の独裁者・龍園。
恐怖による支配だけでなく、評価システムの裏を突いて下剋上しようとの悪知恵も働くアグレッシブなヒールです。
この高度育成高等学校においては、教師も競争下にあるのか、
子供を教え導く意志は希薄で、生徒も自身のためのコマという印象。
序盤、D組担任・茶柱が、{netabare}警告なしでDクラスがノーポイントになるまでペナルティ黙認{/netabare}したのには驚愕しましたし、
中盤、{netabare}ポイント収賄でルールを曲げ{/netabare}たのには唖然としました。
終盤、{netabare}綾小路にA組昇格を目指すか退学するかを迫るシーン{/netabare}に至ってはほぼ悪代官w
教師というよりもはや狂師w
【声優 4.0点】
主人公・綾小路役の千葉 翔也さん。
声色を変えずに淡々と様々な状況、心情に対応する演技が巧い声優さん。
綾小路の場合は変わらないのが怖いです。
堀北鈴音役の鬼頭 明里さん。
どこにでもいる普通のツンデレボイス。
が、いつも変わらずツンツンしてくれていることに私は安心してしまいます。
私も裏表のある競争社会で疲れてしまっているのでしょうかw
一方、櫛田桔梗役の久保 ユリカさんは、
{netabare}夜中に鉄柵を蹴って堀北さんのことを罵る{/netabare}演技で新境地を開拓w
軽井沢 恵役に竹達 彩奈さん。一之瀬 帆波役に東山 奈央さん。
と脇にまで実力者が配置。
今後、発揮される他の声優陣の真価を想像するとワクワクしますw
【音楽 4.0点】
劇伴担当は高橋 諒氏。
多彩なジャンルを駆使して本編の振れ幅に対応。
綾小路が決めに行く時などに流れるメインテーマ「ようこそ実力至上主義の教室へ」が秀逸。
静謐なピアノから始まり、高揚感溢れるストリングスにギター、サックスと畳み掛けていくアレンジが漲ります♪
OPはZAQ「カーストルーム」
尖った女性ボーカルが如何にもラノベアニメといった感じのアップテンポなナンバー。
軽妙なギターの間奏が切って落とすドロドロ抗争の火蓋w
EDはMinami(栗林みな実さん)「Beautiful Soldier」
波乱が続いた後くらい、ピアノが主導する、しっとりバラードで落ち着いて自分を見つめてと行きたい所ですが、
EDアニメで表示されるクラスポイントばかり気になって浮足立つばかり。
{netabare}B組一之瀬さんの大量保有ポイントが何とも気になります。{/netabare}
【感想】
各話タイトルに名著の一節が引用されるのも含蓄を感じます。
神が死んだ後の、寄る辺ない現代人の自我の確立も問われているのか、
引用元も近現代哲学が多め。
作中、唐突に、自由を求めて蠟の羽で太陽に挑み死んだイカロスの傲慢を語った古代ギリシャ神話劇も挿入され、
綾小路と重ね合わされるシーンがありますが。
これも、超人とか力への意志とか、神による客観が哲学的に解体されて以後の生き方を模索する
近現代哲学の題材として捉えた方が良さそう。
しかしニーチェはまだ剥き出しの世界と自分との対峙に耐えれば良い感じですが、
サルトルはなぁ~(苦笑)
自我を規定する他者の眼差しに神経を直に舐め回されるような気持ち悪さを感じて私は苦手ですw
昔、単位合わせのために近現代哲学の講義も取りましたが、二度と受けたくないですw
綾小路の求める自由とは呪いなのか何なのか?
皆が普段、考えないようにしている当たり前の友情や日常まで疑い、
虚無に満ちた世界を正視した先に真の自由や幸福は訪れるのか?
超人と狂人は紙一重。
綾小路にイカロスの如き破滅の未来を感じつつ……。
今夏からのアニメ2期及び、来年の3期。
まずは1年生編完結までのアニメ化を、固唾を飲んで見守りたいです。