「劇場版「SHIROBAKO」(アニメ映画)」

総合得点
80.4
感想・評価
352
棚に入れた
1688
ランキング
458
★★★★☆ 4.0 (352)
物語
3.8
作画
4.1
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
4.1

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 2.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

ファンサービス映画かな。

【概要】

アニメーション制作:P.A.WORKS
2020年2月29日に公開された119分間の劇場版作品。

監督は、水島努。

【あらすじ】

TV版最終回の後の話。

『えくそだすっ!』『第三少女飛行隊』のあとも好調だった武蔵野アニメーションは、
制作が大幅に進捗していたオリジナルSF作品の『タイム・ヒポポタマス』が、
権利関係のトラブルでお蔵入りになり、負債丸抱えで倒産の危機に。
丸川社長の引責辞任で幕を引いたものの、信用の問題から元請けの仕事がなくなり、
仕事がないからスタッフの多くが他社に散って活気を失い、
受注してはグロス請けの仕事をこなすだけの小規模な下請け会社になっていた。

『三女』の打ち上げパーティー(TV版最終回)から4年後、
25歳となった主人公の宮森あおいは、ムサニの現状に落ち込み悲しんでいた。
そこへ、丸川の跡を継いだ渡辺社長から、ムサニ久々の元請け案件を提示される。

『空中強襲揚陸艦SIVA』

もとの制作会社が2年もの間、全く仕事しないので、じゃあ代わりにムサニにやってもらおうという、
お鉢が回ってきた難アリの案件だった。タイトル以外に何も決まって無く、
また、劇場アニメを作るのには普通は2年はかかるのに上映予定日まで10ヶ月しか無い。
宮森あおいは奮起して『SIVA』の制作プロデューサーを引き受けて、
木下監督をはじめ、かつてのムサニ作品のスタッフらを集めて、
かつて元気だった頃のムサニのように、アニメ制作に取り掛かるのだった。

【感想】

ものづくりを仕事にしている人間の様々な感情を詰め込んだフィクションとして、
TVアニメ『SHIROBAKO』は、大変に秀逸で面白いアニメ作品でした。

それは、キャラの人格のデフォルメや茶化しや理想や綺麗事が混じった作り物であっても、
クリエイター目線での仕事や人間関係での喜びや苦悩などがしっかりと描かれていまして、
現実のアニメ業界の人間に限らず社会経験のある視聴者ならば、
作品に共感したり元気づけられたり学んだことは決して少なくはなかったと私は思います。

とりわけ、個人的に良かったと思うことは、
ムサニのスタッフの奮闘を通じて、アニメづくりとは大勢のスタッフの技術や矜持に支えられて、
それが寄木細工のように組み合わさって、作品になっているのをわかりやすく見せていることです。

アニメ監督がテレビでドキュメンタリー番組を作られたり、
雑誌のインタビューなどで取材対象となるせいかな、
宮崎駿氏や庵野秀明氏ら新海誠氏らのように名監督と呼ばれる人たちの影響が強いのでしょうか、
野球で故・野村克也氏や古田敦也氏らの影響で捕手の役割の神格化がありますように、
アニメファンにも監督の名前に権威をつけようみたいな風潮があるのですが、
監督とスタッフの関係は野球でいうバッテリーみたいなものでして、
映像スタッフ(ピッチャー)や声優や脚本家やその他諸々の裏方などの尽力なくして、
監督(キャッチャー)のリード(演出)は評価されないですし、
アニメーションづくりの仕事では両方ともが大事ですね。

最終決定権は監督にありますが、
TVアニメは通常、複数の演出家のローテーションで回しているように、
アニメは決して一人だけのセンスや才能に支配されたものではない。
みんなで作ってるものであるということ。

コンテを手に監督が信頼する会社の大先輩スタッフに、ふわっとした言葉で演出を丸投げして、
大まかなイメージの一言を元に、その先輩スタッフが監督の期待に沿えた演出が出来ているのか?
とビクビクしてた話が、そのアニメ作品のBDのブックレットに談話として残っていたり、
某劇場作品で「◯◯くんよろしく!」との監督の一言ではじめた仕事が、
「もっと出来るんじゃないか?」と、担当スタッフの自主的なクオリティーアップが、
完成近くまで延々と続けられたとか、リアルのアニメ現場ではそんな話がいくらでもあります。

様々なアニメに収録されているスタッフコメンタリーを拝聴しますと、
専門的な技術を持ったいろんなスタッフの興味深い話が聞けまして、
理想の映像を作るためのこだわりの凄さに目から鱗が落ちる感じでして、

やはりアニメとは、アニメーター、美術、色彩設計、CG製作など、(これらは一部に過ぎない)
プロフェッショナルの集団作業の成果物でありまして、
膨大な人間の技術や思いで一つの作品になっている。
SHIROBAKOも実在人物らの経験をモデルにした業界話は良かったのですが、
具体的で専門的な技術論の話になりますとやはり現実にはかなわないです。

それらが前提の上で、TV版の『SHIROBAKO』でも触れられていることですが、
監督はスタッフの働きの分も栄誉を受ける代わりに批判の矢面に立つ存在でもあります。
企業が注目されればトップが経済誌の取材を受けたり、
不祥事を起こしたら謝罪会見をするのと同じですね。

自覚のあるアニメ監督であれば、きちんとスタッフに感謝の心でねぎらいの言葉を欠かしませんし、
逆に、功名心の塊であれば、スタッフの仕事にはボクの指示でやらせました!と嘯いて手柄を盗み、
自信満々でやった演出が下品でつまらないと批判されれば◯◯に命令されました!と
手のひらを返して人に責任転嫁などで、実際にそれをやっていた、
昔、ネット界隈で「天才」とか持ち上げる人がいた実在のアニメ監督の某氏には、
最後には仲間が一人もいなくなり誰も仕事に誘わなくなり、とうとうアニメ業界と縁が切れたりで、
才能だけでなくて普段の態度や人間関係も大事ですよね。(もともと、才能もない人でしたが)

さて、この映画の話になりますが観た感じ、お話のパターンは、

『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』などでも見覚えのある、TV版の同窓会的な内容。
それぞれのキャラが新しい仕事をしたり、環境が若干変わったりしています。
順風満帆なひともいれば、行き詰まって悩みを抱えているひともいたりですが、
お話自体は相変わらず地味で、如何にも「SHIROBAKO」らしいですね。

離散したかつての理想のチームがバラバラになった状態からのスタートで、
再結集していくドラマチックな展開で、
ちょっと懐かしい、スクリーンで好きなキャラにまた会えた喜びを堪能するという、
SHIROBAKOのファンのための映画という感じですね。

ただ、やっぱりTV版で2クールかけてやったことを2時間版での焼き直した内容でして、
劇場版より数倍深くて面白い内容のTV版を見れば十分ではないか?という印象。
たくさんのキャラを出してるものの一人一人の物語が浅い劇場版は、
ストーリーを楽しむとまでは至りませんでした。

また、木下誠一監督の創作スタイルや仕事ぶりは、
このアニメの監督である水島努氏がモデルなのですが、
木下監督の演出論やアニメ制作のポリシーなどは、
あくまでも水島努氏の主観と好みに基づくものであって、正解の数はたくさんあって、
会社や演出家によっては作りたいモノやこだわりが全く違うということを知ってる今、
木下監督のこだわりでギリギリまで作った劇中劇『空中強襲揚陸艦SIVA』の実際の映像が、
これを現実に上映したらまず売れないだろうという説得力の薄さからシンパシーが削がれる形になり、
手放しで褒めるには厳しいアニメ映画かなと思いました。

個人的には、宮森ミュージカル「アニメーションをつくりましょう」も、「なめろうマーチ」も、
討ち入りシーンも全く刺さること無く、ケレン味たっぷりでアイデア重視の水島努演出はもう、
自分の好みではなくなったのかもしれないですね。

あ、そうそう。このアニメの悪役として、『空中強襲揚陸艦SIVA』を作る予定が約束破りの、
株式会社げ~ぺ~う~の社長である三崎芳雄。彼にはわかる人だけわかるモデルがいます。
2年間で落書き同然の意味不明なコンテ4枚。問い詰めると、のらりくらりと詭弁で躱す。
こんなどうしようもない奴は業界で生きていけないだろうと普通は思いますよね?実在するのです。

水島努氏が監督の立場から、『ケメコデラックス』のオープニング映像を依頼したのに関わらず、
そいつが全く仕事せずに遊んでいるので、
納品期限が迫ってる段階で水島監督が自分で急いでオープニングを作らざるを得なくなり、
その不義理をきっかけに水島監督とその人物の交友が途絶えた。
ちなみにその人物は2度アニメ会社を作り、会社を追い出されたり潰れたも同然の状態になって、
今では仕事が全くない、ひとりぼっちの状態でアニメ業界への恨み言を吐いています。

その方は『ポルフィの長い旅』の監督を務めた望月智充さんから、
アニメーターが演出意図を拾うことが不可能な落書きと、内容とは無関係なコメントだらけで、
コンテが論外すぎて跡形も残さず監督全修正せざるをなかったことをブログでばらされて、
御本人に噛みつきまくったのが記憶に新しいですね。

わざわざ、そんな人間をアニメに出したら流石にリアリティなさすぎなのか、
会社を潰さずに大勢の従業員を維持しているとか夜鷹書房(モデルは角川書店)
と友好関係を続けているとか手心を加えないといけないのが凄いですよね。
本当なら出す必要のないキャラクターだとは思いますが、
劇場版では水島努氏の地の部分というか私心が強く出ていますね。
TV版ではそのあたりのバランスがうまく保たれていたのではないか?
やっていることは両方とも大差ないのに、ちょっとしたことで作品の印象や面白さが変わるんだなと、
このアニメ映画を見ていて思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2022/06/13
閲覧 : 337
サンキュー:

37

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