「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない(TVアニメ動画)」

総合得点
95.2
感想・評価
1847
棚に入れた
7832
ランキング
3
★★★★☆ 4.0 (1847)
物語
4.0
作画
4.0
声優
4.0
音楽
3.8
キャラ
4.0

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ネタバレ

薄雪草 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

袖振り合うも、ブタ次第

人は、誰しも問題を抱えながら、がんばって生きている。

問題なのは、その問題にどう向き合っていくかということ。

中高生も社会人も皆変わりなく、学校や家庭、職場にSNSにと、その身のこなしが求められている。

衆目からの逃避と孤絶。
SNSによる強迫と乖離。

仮想と予測への過剰反応。
自己多様性に感じる矛盾と葛藤。

異母姉妹間の社会的相反性抑制。
そして優しさに生きる意味のヒミツ。

自己の内面性をえぐるようなリアルな課題ばかりだが、沼に嵌まり、八方塞がりとなれば、如何なる答えを模索しようものか。

そんな漠然模糊とした "ブタ野郎たち" の日常を、思春期症候群なる超越したストーリーとして、卓越に磨き上げたのが本シリーズ。

普通に見えていたはずの世界が、思わぬ掛け合わせと引き合わせで、耳目を閉じたくなるほどに一変する。
そこでの違和感もまた、よくよく耳目を属することで、すっかり真逆に見えてしまうこともある。

公案の教説のような深慮もできるし、推理を巡らせ必定に至るロジックを楽しむこともできる。

もちろんシンプルにラブコメとしても存分に楽しめる。

いろいろな哲理も持ち出せそうな、質実剛健に優れた雰囲気を持つ作品である。


~    ~    ~


いずれのヒロインも魅力にあふれているが、私は "古賀朋絵" のエピソードを取り上げたい。

典型的な「勘ぐり体質」と「たられば思考」の彼女は、イモじみた容姿を健気な努力で磨き、イケてるシンデレラガールへと羽ばたこうとする。

とは言っても「さん、の〜、が〜」なる地に引きずられ、一周まわってアリの男に引きつけられ、SNSのおつきあいにも引きまわされっぱなしで、明けても暮れても、オツムがてんぱっている朋絵である。

出会い頭に尻を蹴りあった二人は "量子もつれ" からなるループする時空間を生成しあったことから、ある一計を案じる。

周りへの気遣いで自分を見失っている朋絵の自覚は、全く気遣わないで見える咲太の "余裕ぶっ込み" に「たられば」の救いを見いだそうとするのだ。

たらればな彼氏。
たらればな阿吽の呼吸。
たらればの恋人気分の分かち合い・・・。

「本気にならなきゃいいけど。」
「だとしたら本物の悪魔だよ。」
とは、女心からの忠言であろうことを、咲太は当然のように内省するわけで、朋絵を観測対象として「たられば風」に付き合っている。

実は、咲太にとっての「たられば」は、妹に対する不甲斐なさでしかなく、2年も重く抱えている "兄ブタ野郎" という自己評価に、日々あえいでいるのだ。

彼は、花楓とかえでを、「自ずと知ったふうな兄」の態度で接するのではなく、「妹から期待されるお兄ちゃん」としての人格を構えなければならない。

言うなら、「過去のたられば」と「未来のたられば」を、今に紐づけなければならない咲太の "公案" が胸中にあり、 "公式"の解法に真摯に向き合い続けるという真面目に過ぎる生き方を「今のたられば」に模索しているのだ。

であればこそ、咲太の眼差しは、朋絵のかぼそさに肩入れしてしまう。
それがたとえ「たられば」であろうとも、二人が志向するピュアな想いのなかに "嘘" は見えない。


〜    〜    〜


ところで、「ラプラスの悪魔」を流用し、麻衣に無理くり告白させるホンモノの "ブタ野郎" がいる。
そんなブタ野郎を蹴り飛ばした結果の "量子もつれ" も、いつしか朋絵の胸にかすかな疼きと育っていく。
嘘は嘘なりに、原子の隙間にもつれあう人恋しさは、誤魔化しのきかない現象として観測されるものなのだろうか。

二人の未来予知=たらればの掛け合いは、恋の決着にせめぎ合いを見せることになり、ついに各々の思わくを実直に突き合わせることで、一つの指針を決定づける。

すなわち、ことの落としどころを、「恋人ごっこ」を繰り返す思わせぶりではなく、「告白・失恋による破局」で終わらせる気まずさでもない、「友だちになる・親友になる」という元々の約束に、きっちり収束させる予定調和を見せるのだ。

しかも、降雨と涙とが混じる柔らかな "量子もつれ" を上書きと演出するシチュエーションの妙もあって、なかなかおつな味わいである。

このようなセンシティブな様相は、ともすれば「たられば」なメロドラマで押し切られるのもしばしばだが、しかし、それは朋絵の本意ではなかった。青春を「たられば」なままにしておくわけにはいかないのだ。

展望台での咲太とのやりとりは、その後の(本当は最初の)、学校の階段の踊り場でのやりとりを完璧にこなすために、朋絵が自身にプロデュースした "最終試験" なのである。

とまれ、朋絵は「量子もつれ」と「ラプラスの悪魔」を、自分が思い描くシナリオにふんだんに取り入れ、「大嫌い!大好き!」と "シュレディンガーの猫" ばりの観測結果(本心)を咲太にぶつけていく。

そんな "どっちつかずな自分" を「よく頑張ったな」と咲太に認めてもらうことこそ、朋絵が望んだことである。
そのうえで、決められない自分から、決められる自分への立ち位置を創る朋絵なのである。
そして、これこそが "プチデビルの正体見たり" と言えまいか。

全ては、思春期に生まれる自己確知の未熟に対峙して、それを乗り越える心のばね(表の勇気、裏の安堵)を得ようとする、至極真っ当な取り組みなのである。
自己肯定感の向上と自尊心の獲得こそ、青春ブタ野郎たる朋絵の歩む道なのだ。

まさに、"世界を意のままに操り、咲太さえ手玉に取ってのけた" プチデビルのたらればぶりをがっつり見せつけられた思いである。
いやはや「青春、めんどくせぇ〜!」とはこういうことを言うのであろう。


結局のところ、"空気を読まないふりをして空気を読んでいる" とうそぶく咲太は、"先の先のその先の空気までを読む" に長けた朋絵に、出逢いからして狙い撃ちにされていたと言ってもよさそうである。
彼は、のっけから朋絵原作・監督の意図采配のままに、豊浜のどか以上のテイクを取らされる羽目の役割を担わされていたのだ。

全く、兄とはかたなし、妹キャラには辛いよ!を地でいく不甲斐なさと言えそうである。
が、それはそれで、清々しいほどに青春ブタ野郎を手伝う、青春ブタ野郎の素敵な一面なのである。


〜    〜    〜


思うに「先輩が、私を大人にしたんだからね!」の台詞は、一周回ってアリな先輩が、わざわざ何十周も付き合ってくれたおかげで獲得できた "自信と勇気と感謝の念を自覚した朋絵の喜び" と見て間違いない。

朋絵のエピソードは、のちの劇場版で大きなカタルシスを生む「2人のたらればの伏線回収」の重要なピースであり、それこそトリガーとしての「量子もつれ」の現象を、演出としてバッチリ効かせてくる。

劇場で得たそれは、"救いを求める咲太の必死の思い" と、"先輩に恩返しをしたい朋絵の想い" とが、共鳴しあった "量子もつれ" の奇跡が生んだものとして私は解釈している。

すでにお気づきのことと思うが、劇場版での2人の行動は、TV版のエピソードの立場性がそのまま真逆に描かれている。

亡失感を抱えたままに、独りで生きていくことを受け入れることが、どれほど途方もなく辛いことなのかを、咲太は身をもって "当事者" として知ることになるのだ。

同時に、朋絵の実直で懸命な行動のなかに、親友を超える強い憧憬の思いが感じ取れよう。
「青春ブタ野郎」とは、このように振る舞える仲間のことを言うのなら、これ以上ない誉め言葉なのだ。

「袖振り合うも他生の縁」とは古くからいうけれど、"尻蹴りあうは今生の縁" と言い換えてみれば、若いうちだけに許された特権のようなものなのかもしれない。

そんなプチデビルとブタ野郎どもと、いつかどこかで再会するのも面白いと、あらぬ妄想を本作にふと思い出したりする。


~    ~    ~


つらつらと朋絵ひとりで書き終えるのはいくらか寂しい気もする。

けれど、桜島麻衣をはじめとする魅力的なヒロインらを、すべて網羅してレヴューするには力不足は否めない。(もし機会があれば、とは思うけれど・・・。)

個人的には、本作に通底する "かくし味"が、三つほどであろうことから、案外、朋絵ひとりでもいいかなと思う。

一つは、ものの見方の背景は、それぞれの人生の海に見えにくくあるものだから、ほんの少しの背伸びや身入りが、新しい発見には必要なのかもしれない。

二つは、後悔を少なくする生き方は、人に助けを求められる主体性にあってもいいのかもしれない。

三つは、損得なく寄り添い合おうとする利他の心境が、意外に、情けは人の為ならずの先につながるかもしれない。

ということで、ずけずけとまとめてみた。

もちろん、あにこれ上位は深く頷ける面白さ。
言うまでもなく "太鼓判" である。

投稿 : 2022/06/02
閲覧 : 369
サンキュー:

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