ナルユキ さんの感想・評価
4.2
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
楽しく学べる学研アニメ。血小板に萌えてる奴、出てこいや!
アニメにおいて擬人化はつきものだ。動物なんてもはやベタの領域に入り、国や戦艦、武器に宝石、はたまたゲームハードといった物までなんでもありな領域に入っているジャンルと言っても過言ではない。
その中でこの作品は「細胞」だ(笑)これより小さい物はあとは分子や原子といった領域に入り、擬人化の中ではこの作品より小さい物は恐らく現れないだろう。私たちにとって最も身近ではあるが目で視ることは難しい細胞。この作品は「体内で起こっている出来事」を描いている。
【この娘が可愛い:擬人化された細胞たち】
『赤血球』は血中にある赤色の細胞であり、肺から得た酸素を全身に行き渡らせてから二酸化炭素を回収してまた肺へ送る重要な働きを持つ。その姿や役割を「配達員」に擬人化しており、主にざーさんこと花澤香菜さんにやらせているのだから驚きだ。この作品は我々に赤血球で萌えてもらおうと言うのか(笑) そのデザインも素朴な範囲に収まっており、俗っぽく書けば「芋かわいい」。赤という派手な色をメインカラーとしているからこそ服飾は大きく着飾らないことでバランスを保っている。そしてキャスケットの様な大きめの制帽が彼女らのトレードマークだ。
この作品のキャラクター数は非常に多い。当たり前だ、なにせ細胞である(笑) 主人公である白血球とヒロインの赤血球を中心に、可愛い幼女な血小板、オラオラ系なキラーT細胞、癒し系なマクロファージetc.普通の1クールアニメならば捌けない数のキャラクターが出まくっている。
しかし、1人ひとりきっちりと印象に残る。見た目のデザインは細胞そのまんまな色の印象や外見であり、そのまんまだからこそ分かりやすく記憶に残りやすく、更に演じている声優(役者)の方々にはベテランの方が非常に多い。
櫻井孝宏、早見沙織、小野大輔、 田村睦心、中村悠一、井上喜久子、岡本信彦、川澄綾子、杉田智和、石田彰、小山力也etc.中堅からベテランまで色々な方が1話しか出ないような細胞を演じることできっちりと「印象」に残る。さらに血小板ちゃんには長縄まりあが命を吹き込み、大谷とも釘宮とも違う中毒性の高いロリボイスで視聴者を魅了する。その豪華にキャスティングされた声優の演技とその声の特徴が光る作品でもあるのだ。
【ココが面白い:体内で起こる大事件】
本作は人の体内で起こってる出来事を描くのだが、別に生々しく内蔵がどくどくと波打つ様子が描かれるわけではなく、全て「人間社会」に有る物に置き換えられている。血管はタイルの敷き詰められた歩行者天国、弁は改札、そして気管支はロケット射場といった具合だ(笑)
細胞にとって体内は広大な街であり「世界」そのものである。人間にとってはちょっとしたケガや病気であってもそれは建物や道路が災害の様に壊れて世界を揺るがす一大事であり、だからこそ様々な細胞が決死の雰囲気で目まぐるしく動く。その実際に起こっている字面と細胞の世界で起きる絵面とのギャップが実におかしく面白い。
人体が傷を負えば繁華街に大穴が開く。そこから空気中にいたであろう「細菌」が悪の軍団の如く襲来する。その細菌がどういった害を及ぼすのかを白血球が自然に、或いは不自然に(笑)解説しながら自身の能力、仲間である「免疫細胞」たちとの連携、そして人体の防御機構を見立てた「設備」を巧みに使って戦い倒していく。
私達が普段患ってる怪我や病気で体内がこんなことになっているのかと勉強になる一方で、それをかわいいキャラクターたちがコミカルに悪戦苦闘しながら対処する様が面白く、本体である「人間」が薬を飲んだらどうなるか?なども非常に興味深く面白い。
【でもココがつまらない?:物語というよりシミュレーション】
ただ、そんな興味深い細胞たちの活躍も、ある一定の「フォーマット」の下でしか動いていないと気づいてしまうと面白くない。こう感じてしまうのがアニオタ────ひいては沢山のアニメを視聴して評価する我々レビュアーの性(さが)というものであろう。
{netabare}この作品は第1話以降、①まえぬ白血球とざーさん赤血球の再会→②ゲスト細胞との出会い→③人体の異常事態→④ゲスト細胞の大活躍というプロセスから成るフォーマットを1話完結式でお送りする。中盤以降は流石に奇をてらうものの、基本的には①~④の繰り返しだ。{/netabare}
{netabare}さらに本作は物語・ストーリーと言うよりは現代医学的見地に基づいた「体内シミュレーション」と呼んだ方が適切な話づくりをしている。要は「身体がケガや病気を患うとどうなるか」「身体にこの細菌や物質が侵入するとどうなるか」といった既にある知識や資料をそのまま全て擬人化しているに過ぎない。それら情報を全く知らない人が観れば本作は予測すらつかない面白い作品だと感じることが出来るのだろうが、逆に既に知っている人──まあ大雑把に書けば“理系”──には話が読み易く退屈な話が続くように感じてしまう。
まあ偉そうに宣いながら私はおもっきし文系なのだが(笑) それでも「血小板」の働きや「アレルギー」の仕組みくらいはざっくばらんに知っていたんですよね、皆さんも小学校で習ったことあるのではないでしょうか。
だからこそ第2話『擦り傷』は傷口から無限に細菌が侵入してくる事態に対して血小板が瘡蓋(かさぶた)を作って塞ぐんだろうなってことは誰でも読めるし、第5話『スギ花粉アレルギー』の記憶細胞代々に伝わっていたらしい“言い伝え”もアレルギー症状のことなんだろうなってことをなんとなく察することができてしまう。
細胞たちだけではどうしようもない事態(ケガや病気)も本体である人間に何らかの応急処置か医療処置が施される事で解決してしまう。細胞たちには何が起こったかまるでわからないのだが、観ている側からすれば「あ、輸血だ」「あ、薬飲んだ」と解りやすく、考察する余地が無いのである。{/netabare}
【総評】
総合的にはよく出来ているが、元深夜帯アニメとして考えるとどうかな?と思う部分は多々、見受けられた。提供側もそんな反響を受けてか、再放送はEテレ(NHK教育)で現在も行われている。TOKYO MXはいつも人気作を奪われてばかりだ!
体内の細胞を擬人化し、それぞれの細胞の働きをコミカルに描くことで自分たちの体内で何が起きているかを観て理解できる。『約37兆2000億個もの細胞たち──』という決まり文句から始まる通り、人体には様々な細胞が混在してその分キャラクターが存在することになるが、1人ひとりがしっかりキャラ立ちしておりデザインも秀逸。さらに豪華声優陣が演じることで各キャラの存在感を強め、擬人化してはいるものの細胞に「萌え」や「かっこよさ」さえも感じさせてくれる。この作品を見れば誰しも赤血球や血小板ちゃんの可愛さに萌え、白血球らのカッコよさに惚れてしまうだろう(笑)
上記の様にキャラ立ては素晴らしい一方でストーリーは大方、ケガや病気などのイベントを解決していく似たような展開が多いだけにマンネリ感が出てくることは否めない。1つ1つの話はしっかりとしているものの、それは現代医学が諸問題に対して確かな「回答」を出しているからであり、本作のストーリーはその回答をなぞっているに過ぎないのである。各視聴者が人体についてどれほどの知識があるかにも左右されるが、話によっては「釈迦に説法」を喰らわせるような読みやすい展開を1話丸々描くこともある。1話を見て面白いと感じれば最終話まで楽しめてしまう作品ではあるが、深夜アニメとしてはやや刺激が足りない部分もあり視聴継続のモチベーションは保ちづらい作品でもあるのだ。
逆に子供向けとして考えると今度は細菌に対する暴力や白血球がナイフで切り裂くことで噴き出る血液などの「ゴア表現」が気になる所。アンパンマンがバイキンマンにアンパンチをするのとは訳が違うレベルだ(笑) 後作の『鬼滅の刃』などが子供の教育に悪いだの言われているらしい中でこの作品だけ「教育に良い」と評されるのは実に虫のいい話だと思う。
ただ「細胞の仕組み」をコミカルかつ解りやすく描いているだけに、やはり本来は学び盛りな子供に観てほしい作品だ。下手な理科の授業なんかよりもよっぽど理解しやすく、だからこそ教育現場の教材として扱われることも実際にある。そうやってオタクのみでなく幅広い層にも認知されていく中で元来、ニッチなジャンルであった「擬人化」へのハードル(抵抗感)を下げる役割も果たしており、個人的にはこの細胞の擬人化である本作から競馬の擬人化である『ウマ娘』シリーズや宝石の擬人化を魅せる『宝石の国』にまで手を伸ばす方が出てくれば万々歳である。