ネムりん さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
劇場版三部作の最後を締めくくるのに相応しい作品
シリーズ作品の中では唯一シビュラシステムやドミネーターが関与しない作品で、テレビシリーズ1期のアフターストーリーとなり、舞台が 2117年11月、南アジア。
前年に発生した東南アジア連合SEAUn(シーアン)での事件後、傭兵として放浪の旅を続けている狡嚙慎也が停戦協定の背景にある一連の騒動から、一人の少女との出会いを通じて槙島聖護に対する復讐後の心境の変化が綴られたもので、劇場版三部作の第一部ドストエフスキーの『罪と罰』に続いて、菊池寛の短編小説『恩讐の彼方に』を題材として物語が描かれている。
菊池寛の『恩讐の彼方に』は、主人公の市九郎が主人の愛妾であるお弓と密通し、その主人に手討ちにされそうになると逆に斬り殺してしまい出奔する形で逃げ出すが、自分の行いを悔やみ出家をして道中「鎖渡し」という山越えの難所で事故によって亡くなった馬子に遭遇し、贖罪のためその岩場を掘削して事故で命を落とす者を救おうとする姿に主人の子供で復讐を希う実之助が、その姿に心を打たれて最後は仇討ちを止めて許すといったもので、本作品に共通するテーマは「復讐」。
シビュラに管理された社会で飼いならされた狡噛慎也と、治安が悪化する紛争地域で復讐を誓うテンジンとの全く異なる立場の二人が復讐することへの意義について理解を深めていくことが本筋の流れで、狡噛は家族の復讐を望むテンジンに復讐をしないで欲しいと考えていたので、テンジンから物語の黒幕「ガルシアは悪だけど、ガルシアがやろうとしていることは本物」と狡噛に伝えられ、ガルシアに復讐をしなかったテンジンから復讐よりも大切なものがあることを学び、テンジンもまた過去に囚われている狡噛の姿から学ぶものがあり、マッチポンプによる平和条約の締結がビジネスとしての偽りの停戦協定でもそこに訪れる平和は本物だということを理解する。
つまりこの作品が伝えたかったことはおそらく復讐からは何も生まれないということで、槙島聖護に対する復讐を果たした狡噛慎也が槇島の亡霊との対話シーンで「復讐に囚われるということは、過去に囚われるということ」 言い換えれば未来に進むためには過去の悪霊に縛られないことが必要だと悟り、狡噛が両親の復讐を誓うテンジンに言った「俺は復讐なんて、命をかけるほどの価値はないと思ってる」、「一度撃てば、もう二度と人を殺す前の自分には戻れない。背負った罪は時間が経てば経つほど重くなる。 復讐しないことよりも復讐することの方が背負うものが大きい」というのは復讐は過去の産物にしか過ぎず、今出来ることを精一杯行い過去を振り返らず未来を向いて歩くべきだということを伝えたかったとすれば、"恩讐の彼方に"が"恩と恨み様々な感情を乗り越えた後に"という意味になるので、狡噛は市九郎のように罪滅ぼしのために日本に戻り外務省行動課の花城フレデリカのヘッドハントを受け入れ未来を向き、テンジンは実之助のような寛大な心を持つことがタイトルの意味の『恩讐の彼方に』になると解釈できました。
この後狡噛慎也が外務省行動課で活躍するのは周知の事実。
総評するとテンジンというシリーズ初(?)の萌えキャラが狡噛慎也の心の闇に触れ、潜在犯落ちから存在意義を見出していくための契機を与え、その後のシリーズ作品に繋げる展開は構成の上手さを感じ、タイトルの意味を考え俯瞰してみると復讐することの意義について伝えたい内容がしっかりと詰め込まれていて、登場人物の心理描写も丁寧に描かれており、考察を深めるととてもよく出来た作品でした。