merolin08 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
こんな名作があったのね
書きたいこと選定せずに書きまくってたらとてつもない量になりました。多分全部読んでくれる方はいないと思いますが、熱量だけでも置いとかして下さい(笑)。
テレビアニメ「響け!ユーフォニアム」シリーズのスピンオフで、主人公の先輩2人の関係を描いた本作。テレビシリーズは見てたんですが、映画はなんとなく観てなくて、今になってなんとなく観たんですが、これは…!テレビシリーズ観返してから誓いのフィナーレと合わせて観たんですが、映画としての完成度は、個人的にはこちらが圧倒的だと感じました。時系列的には「リズと青い鳥」→「誓いのフィナーレ」の様ですが、もし今から観る方がいればぜひ反対の順番で観ることをオススメしたいです。おそらく分からないところも出ないし、その方が「リズと青い鳥」を堪能できそうな気がします。
作画・音楽は言うまでもないんで割愛します。これにケチ付ける人いないでしょ。作画演出については思うところ有りなので、物語と合わせて触れていきたいと思います。
本作は、鎧塚みぞれと傘木希美のお互いに対する「思い」がテーマになっている作品です。テレビシリーズのある種スポコン的な、「チーム」の物語とは打って変わって、個人の思いにフォーカスしており、そのギャップに少し驚きました。これに伴ってまず気になるのが色使い。テレビシリーズと比較すると全体的に淡い色使いになっているように思いましたが、これもテーマに紐づいた表現だと感じました。例えば、アニメ1期で演奏から外されて号泣して悔しがる久美子のシーン、とっても心揺さぶられるシーンですが、だれもがこの時の久美子みたいに自分の気持ちとまっすぐに向き合えるわけじゃない。自分自身でも自分の気持ちが分からなかったり、自分の気持ちに折り合いをつけて無理やり自分を納得させていたりする。そんな「思い」の繊細さを表現するような画面づくりだったんじゃないかと勝手に想像しております。
この作品、色使いみたいな大きなところからはじまり、あらゆる場面で思いを描写するような「演出」が詰め込まれてます。これにめちゃくちゃ感動したので、ここからは気になった演出について話していきたいと思います。
まず冒頭の{netabare}2人が音楽室まで学校の中を歩いていくシーン。上履きに履き替え(ここの演出は後で改めて)、下駄箱に手をついて歩いていく希美と、同じ場所に手をついて後をついていくみぞれ。冷水器で水を飲む希美、後に続くみぞれ。みぞれが後をついてくるのは当然であると振り向くこともなく堂々と前を進む希美と、その後をちょこちょことついていきそれが自分の世界だと思っているみぞれ。普通友達同士が歩くときって横に並んで歩くものですが、この2人を対比させるような演出が、すこし噛み合っていないけど互いに強く信頼しあっているという、{/netabare}2人の関係性を表す様なシーンだと感じました。これが物語の中核となっていきます。
次に2人のパートごとの練習シーンについて。{netabare}2人の思いをテーマとしたこの作品では、「練習」は本筋とは少し離れるためか、そもそも描写自体が殆どありません。それでも練習しているシーンがあるみぞれに対して、パート練の時間であろうシーンでの希美は、そのすべてでパートのメンバーとおしゃべりをしています。1年生の時、先輩がまじめに練習しないからという理由で部をやめた希美の過去を考えると、これも何か意図があるように思えます。個人的には、これも希美のみぞれに対する思いに関係する演出であるように感じました。
みぞれの持っていたパンフレットを見て自分もその音大を受験することを決める希美ですが、劇中で希美自身が語っているように、これにはみぞれに対抗するような思いがありました。希美は自分が音大に行きたいのか、みぞれと対等でありたいのか自分の気持ちが分からずに悩むわけですが、この練習シーンは、希美の音楽に対する思いとみぞれに対する思いの回答を裏付ける様な位置付けだったのではないかと思います。{/netabare}
ここからは物語の中核、結局「リズと青い鳥、みぞれと希美はどちらがどちらなのか」に関する演出について。複数の演出が互いに関係しているので、ごちゃついた文章になると思いますが、ご容赦ください。
前述した{netabare}上履きを履き替えるシーンで、上履きを放るように落として履き替える希美と、丁寧にそろえて置いてから履き替えるみぞれ。これも二人の性格を対比するシーンですが、加えて絵本の世界のリズが就寝するシーンを見てみると、リズはベットに入る前にきちんとスリッパをそろえなおして就寝しています。この2人を重ねるような演出を考えると、みぞれが青い鳥を手放すことが出来ないリズであるかのように思えます。{/netabare}
次に2人の会話を見ていきます。{netabare}2人の会話シーンでは、みぞれが何か言いかけて(やりかけて)それを待たずに希美が話を進める、という場面がたくさんあります。アニメでよくある演出なだけに視聴中特に何も感じずに流しちゃってましたが、観終わって考えると単純にみぞれの性格を記号的に表現しているだけではないように思えます。結論から言うと、これは希美がみぞれを拒絶するような演出だったのではないかと考えました。もっと言うと、希美はみぞれの変化を怖がっていたのではないかと思います。
これに関係してくるのが、オーボエの1年生「剣崎梨々花」。内気で心を開こうとしないみぞれに根気強く話しかけ、徐々に関係が芽生えていきます。これがみぞれに小さな変化を生むきっかけとなりますが、希美はこれを少し動揺した様子で見ていたように思います。プールに誘うシーンとか。
みぞれの自分に対する愛情ともいえる思いは、雛鳥が初めてみたものを母親と認識するような、ある種刷り込みともいえる部分があり、変化したみぞれは自分への愛情をなくしてしまうのではないか。希美は、変化を始めたみぞれに対し直感的にそんな感覚を覚え、踏み込もうとするみぞれを拒絶したのではないでしょうか。そう考えると、青い鳥を手放すことが出来ないリズは、希美のようにも思えます。
これに関しては最序盤(変化前)でも希美がみぞれを避けるようなシーンがあるので、みぞれの変化が要因じゃない気もしますが、いろんな受け取り方がありな映画だと思うのでこんなんも。{/netabare}
そして終盤、みぞれと新山先生がソロの演奏について話すシーン、{netabare}ここまでずっと青い鳥を手放すリズの気持ちに悩んできたみぞれは、青い鳥の感情に目を向けることで「思い」に大きな変化が。ここでずっと2人が自分と重ねていたリズと青い鳥の対応関係が逆転します。そしてクライマックスのみぞれが希美に思いをぶつけるシーンへと繋がっていくわけですが、ここでも繊細な演出があったように思います。
希美のすべてが「好き」と思いをぶつけるみぞれに対し、希美も「みぞれのオーボエが好き」と返す。複雑な思いの中でも、お互いがお互いを思っていることを口に出し、2人の歯車がかみ合ったようなシーンですが、みぞれは「希美」が好きと言っているのに対して、希美はみぞれの「オーボエ」が好きと言っています。これが、青い鳥の羽(みぞれのオーボエ)を思い手放す決心をするリズ(希美)と、リズ(希美)を心から思っているがために羽ばたく決心をする青い鳥(みぞれ)の関係になっているところに鳥肌が立ちました。{/netabare}
これら演出を踏まえて、結局どちらがリズでどちらが青い鳥なのか。{netabare}物語上は、リズ=みぞれ・青い鳥=希美の関係で進行していき、それが逆転した、という一定の回答が出ているわけですが、個人的には最終的に明確に結論付けるということは出来ないのかなと思いました。ぬるい意見になっちゃってるかもですが、互いに強く思いあっている関係の中では、どちらも相手を縛り付けてしまうことがある。オーボエはみぞれの羽だったけど、最初から思っていたように別の側面でみぞれが希美を鳥籠に閉じ込めてしまうことだってある。{/netabare}そんなただただリズと青い鳥という絵本に対応しているだけではないところが、この作品の味わい深いところだと思います。
このアニメの結末は{netabare}リズと青い鳥の絵本通り「別れ」です。これだけ聞くと、冷たい現実的な結論のように思えます。{/netabare}しかし、前述したとおり、ただ「絵本に対応して2人の関係が変化しましたー」じゃないからいい。劇中での希美のセリフ{netabare}「物語はハッピーエンドがいいよ。青い鳥はリズに会いたくなったらまた会いにくればいい。」{/netabare}これめちゃ好きです。このセリフを踏まえると、ラストシーンで{netabare}希美が振り向き2人が向かい合うシーン。冒頭のシーンからも分かる互いにすれ違っていた2人の関係が変化したことを表すシーンですが、みぞれは驚いた表情をしています。このシーンは、関係の変化、つまり別れを意味するシーンでもあるわけなので、本来ならみぞれの表情は絵本で青い鳥が飛び立つシーンの表情と一致するべきところのはずです。なのにみぞれは驚いている。これは希美が「ここからは私たちの物語だ、物語はハッピーエンドがいいよ。」と語りかけていることを表していて、現実的な結論の中にも未来への希望を含んだ、絵本とは違う明確なハッピーエンドとして物語が締めくくられているのだと思いました。{/netabare}
ここまで狂ったように書き綴ってきましたが、こんな感じで本当に何気ない仕草まで「思い」が伴った演出になっていて、この作り込みにめちゃめちゃ引き込まれました。テレビシリーズとは違った、もう一つの青春。観直すたびに発見がありそうな映画です。
正直テレビアニメしっかり観てないと分からない部分が多々あると思うので、単発映画としては人に勧めづらいところもありますが、本当にいろんな人に観られるべき作品だと感じました。人によっていろんな受け取り方がある作品だと思うので、今から皆さんのレビュー徘徊するのが楽しみです。万が一ここまで読んでくださった方がいれば、拙い長文で相当読みづらかったと思います。自己満足にお付き合いいただき、ありがとうございました!