かがみ さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「かかし」から「演劇」へ
ゼロ年代における日常系がこの世界における瑞やかな「いまここ」を再発見したのだとすれば、2010年代における日常系はこの世界の「いまここ」に内在しつつも、そこからさらに「別のいまここ」へと跳躍した。そして本作はこうした意味で2010年代における日常系の潮流に属する作品といえる。極度のあがり症により緊張すると身体が硬直化して「かかし」になってしまう本作の主人公、桜木ひなこは富士宮女子高校の演劇部に憧れて上京し、下宿先の皆と「劇団ひととせ」を立ち上げて、自身のあがり症を演劇によって克服しようと奮闘する。この点、第三世代の行動療法として注目されるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)においては、様々なメンタルヘルスの問題を自身を規定する様々な「文脈=ザ・システム」が引き起こす「認知的フュージョン」による「体験の回避」として一元的に把握した上で、エクスポージャー系、セルフモニタリング系、行動活性化系といった技法を駆使して「文脈=ザ・システム」に揺さぶりをかけて、クライエントが「体験の回避」から「価値ある行動」に踏み出していくプロセスを支援する。そして本作は「かかし(体験の回避)」から「演劇(価値ある行動)」へと踏み出していくという極めてACT的なプロセスを辿っていく。ここには否定神学的な特異点を巡って無限に循環する神経症的葛藤を有限な身体性で切断していくという、ある種の実在論的な構図を見ることができるのである。