てとてと さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
人間の姿に見える狼たちが滅びゆく世界で楽園目指す。哀愁漂う抜群の雰囲気アニメ。
BONES制作のオリジナルアニメ、全30話。
「カウボーイビバップ」で知られる故・信本敬子氏の代表作の一つ。
【良い点】
終末感漂いつつ独特な世界観と雰囲気が抜群に良い。
過去の大戦争の末寒冷化?し、もうじき滅んでしまう時代、文明の残滓にしがみ付いて生きる退廃的な街や荒野、昔に絶滅したはずの狼が人間の姿に擬態して生きている、貴族と呼ばれる旧文明の支配者と超技術?絶望的な時代に楽園の伝承などなど。
そんな世界で狼たちは花の娘チェザの導きで楽園目指し、人間たちのドラマも交差していく。
文明の終着点のようなポストアポカリプスと、神話のような神秘と伝説が混在、物悲しくも美しい空気感は他で得難い。
終始陰気で物悲しい雰囲気だけど不快ではなく、むしろ心地良く哀愁を堪能できる。
退廃と哀愁は序盤落ちぶれた狼たちの話から、中盤ドロップアウトするも生き生きとする人間たちのドラマ、そして終盤の悲劇的展開と深まっていく。
設定や世界観は終始説明不足なまま淡々と進行するも、言外に色んな機微を感じさせてくれる。
謎は謎のままでいい。狼と人間たちはただ闇雲に楽園を目指す。
そこに何が待っているのか分からずとも、ただ前へ進む。
狼、特にキバは何故楽園を目指すのかを深く語らないし考えてもいない。
具体的なストーリー性は重視しない、彼らの在り方そのものが美しい、そんな作品。
最高水準の作画と菅野よう子ミュージックが合わさり独特の世界観を紡いだ。
狼の荒々しくも美しい動作やアクションは圧巻。
楽曲は退廃的で力強いOPも良いが、坂本真綾氏が熱唱するEDも美しくて聞き惚れる。
声優陣も宮野真守氏をはじめ当時気鋭の新人声優たちが四者四葉な狼の魅力引き出し、故・石塚運昇氏の渋さも素晴らしかった。
狼たちは視聴者には人間の言葉で掛け合いするので4匹のキャラクターや交流劇も申し分ない。
性格が異なるが人間よりも孤高な感じ、過度に慣れ合わず、旅の同志な感じが良い。
ここに中盤以降人間組も加わるけれど、彼らも人間社会からはみ出して雪に閉ざされた荒野をひた進む者たちで感性が狼たちと近かった。
人間側のドラマが濃厚、狼と人間の価値観の差異などが交流で自然に出てきたり、いつの間にか理解し合うのも良かった。
終盤の狼の力と人間の知恵は「けものフレンズ」を先駆けていた?
キャラは孤高な主人公キバの魅力が高い他、不愛想だが一番面倒見の良かったツンデレなツメ、良くも悪くも狼よりも人間寄りな弱さのあったヒゲ、そして元飼い犬(狼)で幼く人懐こいトオボエ。
特にトオボエは非常に可愛い。下和田裕貴ボイスも相まって男の子(男の娘ではなくちゃんと少年)ながら最萌、自分がアニメで萌えた男の子としてはアンドロメダ駿以来なほど可愛い。
トオボエが成長して大活躍する22話は特に好き。
27話以降、旅の仲間たちが次々と散っていく悲劇。
これまでの旅で彼らに愛着十分に沸いていただけに悲しさひとしお。
結局楽園とは何だったのか?ハッピーエンドだけが物語じゃない。
【悪い点】
設定や物語の背景が説明不足で不親切。
楽園目指すという目標こそあるが、その楽園が何なのか?など視聴者が知りたい情報は殆ど開示されずに終わる。
あくまで雰囲気堪能するための舞台背景と割り切れる視聴者向けだけど、目に見えて物語が進展せず、淡々と進むので地味。
良い点と裏腹だけど、線としてのストーリーは弱い。
キャラの交流掘り下げも粗さがあり、物語として完璧な作品とは言えない。
ガルシアやオーカム卿やジャガラ卿など貴族たちの関係や思惑も説明不足。
ガルシアが愛する女性の為に何かを切望している事は分かるものの、掘り下げが乏しく感情移入がしづらい。
ジャガラとガルシアの愛憎とか終盤唐突に開示されてあっけなく終了するなど、貴族サイドのドラマが弱過ぎる。
敵ボスのドラマが不十分なので、23~26話や最終話の決戦が唐突感。
15~18話の総集編。
仕方がないとはいえ、ここで待たされるためテンポを損ねた。
27話以降の悲劇的展開自体は好みではあるけれど、キャラ退場が雑。
トオボエがゴンギツネぽい最期なのはともかく、親父さんと一番関係の深いブルーが空気なのが惜しい。
最終話の解釈が難解。
考察されているサイトもあるけれど、自分は釈然としない。
【総合評価】9点
00年代BONESの珠玉の傑作の一つ。面白くはないが、非常に魅力的。
エンタメ性重んじる多くの日本アニメとは異質な傑作で、日本ではいまいち不人気ながら海外の方で評価が高い。
評価は最高に近い「とても良い」