エイ8 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
デカパンチ
『デカダンス』(DECA-DENCE)は、NUT制作による日本のテレビアニメ作品。2019年7月に制作が発表され、翌2020年7月から9月までAT-Xほかにて放送された(wikipedia)
ちなみに
décadence フランス語
退廃主義。頽唐(たいとう)派ともいう。衰微、衰退を意味する語で、ギボン著『ローマ帝国衰亡史』(1776~88)に読まれるように、ローマ帝国が爛熟(らんじゅく)から衰退、破滅に向かう過程の病的で享楽主義的文芸の風潮をさすことば。
コトバンクより 日本大百科全書(ニッポニカ)「デカダンス」の解説――
――と、あるように明らかに掛けてはいるんでしょうが「DECA-DENCE」であって「décadence」でない点には注意が必要。DECAは10倍の意味があるがDENCEは特にない、筈。なのでカタカナ的な語呂感覚から単純に「どでかい躍動(dance)」とか「おっきな狂乱」、或いは「すごい密集(dense)」や「めっちゃバカ」あたりの意味合いを込めていそう。まあ、どれをとってもそれなりに納得できる内容にはなってます。(尚、これらは全て超意訳です。ご了承を)
主人公は幼い頃に父親と右腕を失った少女ナツメ……だと普通は思うやん?だけどこれがまた早くも2話にしてのビックリ超展開により真の主人公は寡黙な装甲修理人にしてサイボーグでもあるカブラギ(43)の方であることが発覚(但しwikipediaでの記載ではナツメのまま)。
この展開はさすがに驚きました。確かに一話の段階から謎伏線が仕込まれていたため何かがあるのだろうなあとは思っていましたが丸々ストーリーを持ってくとは……これが良いか悪いかは別にして、確かに初めからデフォルメ的サイボーグキャラが闊歩する世界観で始めていたら視聴者を繋ぎとめるのは難しかったかも。あくまで古典的で天真爛漫な少女が躍動していく作品であると判断したから視聴をはじめた、という層が多かったでしょうし。
で、この主人公だかヒロインだかはっきりしないポジションのナツメちゃんなわけですが……まあ可愛いったらありゃしない。何が可愛いってころころと豊かに変わるその表情!最初頭によぎったのは『リトルウィッチアカデミア』の主人公アッコ、彼女もまた落ちこぼれ/ハンデを背負った状況でありながら喜怒哀楽を前面に出していくタイプだったわけですが良く似てると思いました。これが『キルラキル』のマコだったり「慎重勇者」のリスタ辺りまでいくとまた別の領域になるのですが。
まあそんなこんなとフォントの感じから何となくTRIGGERの作品だと思ってたんですがNUTだそう。今調べてみたんですが結構新しい上に小規模な会社な様子ですが手がける作品に対するガチ感はかなりすごいですね。テレビ、劇場含めて一年に一作品しかアニメを作ってませんがクオリティは折り紙付き。粗製乱造して品質を落としまくる会社が多い中、選択と集中で一意専心に取り組むその姿勢、たいへん好感が持てます。創業者の信念のようなものがあるのかもしれませんね。(尚、この会社の他作品には言わずと知れた「幼女戦記」があります。)
話をナツメちゃんに戻しまして、彼女の表情が活かされるためのギミックと言ってもいいのでしょうか、乳がありません(ド直球)。いやこれ結構大事なんですよ、こいつが変に主張しちゃうと視線を持ってかれちゃうんですよね。これは人類普遍の抗いようのない事実、の筈です。実際ギア最強の女戦士クレナイは巨乳ちゃんなわけですが、気付いたらそっちに目ぇイッちゃいますもんね。……ね?
まあよくそんな重たいもんぶら下げて空中を立体機動装置つけてるみたく迅速に飛び回れるなあ肩凝らんのかなあとか思わなくもないですが、ここにケチつけちゃうとファンタジーもの全滅しちゃうんでさすがのわたくしも言いません。無くなられても困りますし。
ナツメちゃんは一昔前の主人公によくいた身勝手前向き無鉄砲バカ系統な性格をしており、それが故に周りの大人たちが色々とケツ拭かされる羽目になったりするわけなんですがそこは無問題!カブラギおじさんが世話焼きたがる気持ちもよくわかります。良いんです、彼女はこれで。最近の子はアニメの中でもお行儀の良い子ばっかりですからね、たまにはこういう子も必要です。じゃあなんでそういう子ばかりが増えたかというとおそらくおじさんおばさんがぶうぶう文句言うせいもあったりするんだと思います。かくいうわたくし自身も常日頃しょっちゅうぶうぶう言っておりますが。じゃあ何でナツメちゃんは良いのって?……そうですねえ結局のところ……キャラデザ?身も蓋もありませんがこれも不都合な真実だという事で。
結構仰々しいテーマな割には1クールにきっちり落とし込めた作品だと思います。少し残念だったのがナツメちゃんの関係者に割かれる尺があまりにも少なすぎたことですかね。先述したように本作における事実上の主人公はカブラギの方であるためナツメちゃんの友人であるフェイやリンメイ、それにギア仲間であるミ、ム、メンディたちは脇の脇キャラということになります。ゴリマッチョのミンディ姐さんがナツメちゃんにアームキャノン向けられた時かなり神経質な態度で怒ってましたが、その伏線回収が単に実は優しい人だっただけと言うのは正直少し寂しかったです。多分裏設定では色々あってのことなんでしょうが。ナツメちゃんが主人公だったら本来かなり重要な位置づけにあったであろうフェイに関しても心変わりの描写をもう少し描いて欲しかったですし、そこにリンメイ達がどのように関わっていったかも見たかったですね。唯一クレナイだけは出番多かったですが、まあ彼女はぶっちゃけ唯一のお色気要員でもありましたから。
一方真の主人公であるカブラギの周辺は出番の多いこと多いこと。ドナテロやミナトはともかくサルコジに尺取り過ぎだろ、と思ったのは自分がナツメ派だからでしょうか。
作品の世界観に対して、人間にとっては現実世界以外の何物でもないと思っていた世界が実はサイボーグたちにとっての娯楽施設でしかなかった……というような設定自体は良いんですが、あれだけ完全管理された世界でカブラギがナツメちゃん連れて自由に動き回れるというのは正直違和感ありました。確かに彼女のチップはバグってますが映像も漏れなく映されてるわけですし。カブラギがただの一プレイヤーならまだわかりますが実際はフギンからバリバリ目を付けられてるわけなのでこの辺はさすがにご都合主義感がありましたね。またナツメちゃんのチップが故障したのは幼少の頃の事故が原因だったわけですが、人間もギアとして出動して怪我するという現実からも鑑みるとこの手の事故が特殊事例というのもちょっとどうなのかなと思いました。もう少し特別な事情が欲しかったです。
それと終盤でターキーが「シャバ」に出るために裏切るわけですが、いやだったらあんた何でそもそも回収人になること拒否ったん?とは思いますよね。カブラギが来るまでは良かったみたいなこと言ってましたが矯正施設に送られる前はスクラップ上等の状況だったでしょうよ。
またガドル工場で研究者と思わしき人達が逃げ惑うシーンがありましたが、あれも素体だったのに何そんなに慌ててんの?というのはありました。
そして何よりパイプ、この子にはきっともう一つくらい大きな役割があるキーキャラと思ってたんですが違いましたね。結局彼?自体が巨大バグガドルの伏線でしかなかったわけです。本作でここが一番のマイナスポイントでしょうか、もう少し良い使い方が出来たキャラだと思います。パイプと言う名前からもナツメちゃんとカブラギ、場合によっては人間とサイボーグ自体への架け橋になることも想定されてたんじゃないか思ったのですが……
最後の方でナツメちゃんがカブラギに作ってもらった右腕を破壊するというのは彼からの自立の暗喩でしょうが、それだとオーラスのあの演出は果たして必要だったのかな、という気もします。というか無理して壊す必要自体なかったシーンだと思いました。あまりに「右腕壊すため」という意図が見え見えで。
総評として、多少過去回想シーンが進行のテンポを悪くしてると感じる点もありましたが、さすが年間一本で作りこまれた作品なだけあって概ね良くできた佳作だと思います。特に作画に関しては完璧と言ってもいいくらいでした。ただ……そもそものデカダンスキャノンがアリかナシかと言えば……