薄雪草 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
瞳は鮮彩に、琥珀に澄心を。
"かいこ" という字を辞書に引くと、回顧、懐古という文字を見つけます。
回顧は、ありありと、まるで昨日のことのように、といったリアリティー感にあふれた印象。
懐古は、しみじみと、恋々と未練する、といったノスタルジック感にひたるような心証です。
いずれも、機縁の遠い記憶をひも解きながら、近くに結べなかった奇縁として心に受け入れる、という意味合いになると思います。
すっかりセピアに色褪せたエピソードには、当時の色を再現しようもできない感情が下地にあります。
それは、きっと人によりけり、色とりどりなのでしょうね。
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"色づく世界の明日"とは、母とのトラウマによって色覚を手放してしまった瞳美が、未来を取り戻すための今日を生ききるお話のこと。
瞳美が主人公なのは言うまでもありません。
でも私はなぜか琥珀のほうに強く惹かれます。
琥珀から見るストーリーの軸は、瞳美の母(=琥珀の娘)にトラウマを植え付けてしまった後悔に外あらず、魔法使いの血筋やプライドを押しつけてしまった自責への贖罪に他なりません。
となれば、60年前へと遡った瞳美と、そこに暮らす琥珀とが、同時代、同年齢を過ごすことで、"過去の痛み"、"今の痛み" にアプローチし、癒しあおうとする "re-青春譚" と言えなくもありません。
絵本を一つのモチーフとし、金の魚が眩しく動き出すような不思議さや、若い絵本作家と想いを重ねる奇跡とが、物語を抒情に導き、優しく支えていきます。
琥珀の60年分の燐光のかそけさと、瞳美の自分探しのかぼそさを重ねながら、得難い出逢いとしての青春のスペクトルをともに感じあう、プラトニックにすぎる魔法少女たちの恋物語。
音楽も映像も素晴らしく、心が洗われるような気持ちで視聴できました。
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琥珀は、自分自身と瞳美のトラウマを解かんとするために、若かりし頃の自分に孫を託すのです。
琥珀がそれに気づいたのは、瞳美が色を感じなくなり、魔法使いの未来を信じられなくなった頃からなのか、あるいはもっと前からなのか、そのエピソードの背景までは作品には語られてはいません。
そのあたりでは、琥珀をお節介で自分勝手な祖母だと受け止めている方がおられるかも知れません。
でも、琥珀が60年を費やして満月の光を集め続けてきたその動機や理由、時間的な背景に思いをいたせば、どうしてか胸が締め付けられるような気持ちが湧き上がってきて、そぞろとするのです。
琥珀はいったいどういう面持ちで、待ち月夜を過ごしてきたのでしょうか。
もちろん彼女が高校性の頃は、瞳美の存在など露とも思わなかったはずでしょう。
いかに目の前にいても、どんな人生を育ち、どのような感受性なのか、朧に分からないのです。
でも、琥珀の悔恨は心の澱に残っており、それを漱(すす)ぐためには、瞳美の苦しみに寄り添いつつ、自分本位の意識と行動に洞察を加えなければならないのです。
そのターニングポイントが、17歳だったのかもしれません。
それを誰ができるかというと、孫の瞳美しかいないのです。
琥珀は過去の家族に向けて手紙をしたためていましたが、その中身は明かされません。
明かされませんが、きっと琥珀は自分の謬見を正すように、懐かしい家族に懇請したのだと思います。
60年とは、おおよそ3世代ぶんのスパン。
現代においても、それぞれの時節を結び留めるには、海越え山越えに気の遠くなるようなギャップがあると言えるものです。
それでも、色づかなかった明日を、色づかせたかった想いは、琥珀にも、その娘にも、瞳美にも同じことのように感じます。
"明日" を、セピア色に褪せたままではおいておけない琥珀の矜持と、モノトーンなままの青春に埋没させてはおけない瞳美の未来との、時空間を跳び越え、巡り巡りあう素敵なストーリー。
あしたとは、明るい色にあふれた世界のこと、ありふれた人生のことなのですね。
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この作品の機微に触れるタイミングは、人それぞれなのだろうと思います。
もしかして、その瞬間が訪れたとき、あるいは触れおりたときに、本作に通底するテーマに回帰するアプローチが始まるのかもしれません。
物語の構成はタイムトラベルものなのですが、私は「ハルヒの消失」に近しく感じます。
キョンの世界を丸ごと変えたのは長門有希のバグで、瞳美の世界の見方を丸ごと変えたのも琥珀の深い悔恨でした。
表舞台の設定は、SFと魔法という違いはありますが、動機や環境、そして背負っているものの重さが、それぞれの舞台裏には隠されています。
もしも共通項を見つけるのなら、"憂鬱" や "消失" への "振り返りの意味づけ" といったところでしょうか。
となれば、テーマの「色づく」も、同じ意味合いなのかもしれないと感じています。
私は、ハルヒも大好きですが、長門有希のほうに、より強くシンパシーを感じます。
ですから、本作にも同じように、瞳美よりも琥珀のほうに心を寄せられました。
"かいこ" が意味するところを、理解できるまでの年月の長さ。
それに気づいて、でき得ることに費やせる人生のあまりの短さ。
時のあわいの尊さ。
時の流れの儚さ。
琥珀と瞳美は、時間の貴さをそれぞれに謳い、各々のプレゼンスを穏やかに色づかせていくのでしょう。
そんなことを考えながら視聴を終えました。