キャポックちゃん さんの感想・評価
2.4
物語 : 2.5
作画 : 2.5
声優 : 2.5
音楽 : 2.5
キャラ : 2.0
状態:観終わった
心情の掘り下げが物足りない
【総合評価:☆☆】
1960年代にソ連とアメリカの間で繰り広げられた宇宙開発競争の史実をベースに、共和国連邦(ソ連がモデル)が有人飛行の安全性チェックのため、吸血鬼少女を開発段階のロケットに搭乗させる物語が展開される。吸血鬼と言ってもファンタジーの要素はほとんどなく、あくまで人々に嫌悪される「呪われた種族」として扱われており、多民族国家にしばしば見られる被差別少数民族のアレゴリーと考えてかまわないだろう。この設定を潜めながら登場人物の心情を深く掘り下げていれば、優れた作品になったはずである。しかし、アニメでは表面的な人間描写に終始して、根底にある社会問題に迫ることはない。
ヒロインの吸血姫・イリナは、自分が宇宙空間に到達する最初の「人間」だという矜持を持つことで、実験動物としての扱いに耐え抜いた。こうした彼女の思いを視覚的に表現するためには、人間の狭小な差別意識など問題にならない、宇宙の圧倒的な巨大さを視聴者に印象づけるのが効果的だろう。だが、アニメで描かれたのは、ありきたりで平板な光景でしかなく、映像からイリナの思いは伝わってこない。
ロケット開発の重責を担うチーフのコローヴィンは、実在したソ連の天才技術者・コロリョフをモデルとしている。国のトップから無理難題を押しつけられる姿は、長く国家機密としてその存在自体が秘匿され、ソ連崩壊後にようやく明かされたコロリョフの実像と重なる。ただし、史実の方がアニメより遙かに峻烈なので、興味のある人は、関連文献を繙いていただきたい。
取って付けたようなラストが原作通りかはチェックしていないが、何とも興ざめな幕切れである。