レオン博士 さんの感想・評価

4.6
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態：観終わった

落日とともに沈んでいった想い

また令和の時代に新たな傑作アニメが生まれましたね。
登場人物のつらい心情が伝わってきて心を大きく揺さぶられました。

まず抑えておくべき点は、原典である平家物語が「史実」とは限らないということです。これは物語ですからどこまで事実なのかわからないということですね。（歴史書であっても真実を後世に伝えているとは限らないですけどね）

後世に伝えられる歴史は「勝者の歴史」、勝者にとって都合の良いように真実が歪められて後世に伝えられていることは世界中でよくあることだと思います。
平家物語は、滅亡した平家の人々の視点で源平合戦を描き、滅亡に向かう大貴族の哀愁をみせ、作者が感じた栄枯盛衰の美しさと儚さを長編で伝えてくれているところが見どころです。
敗者に歴史を語る資格はありませんが、敗者にも確かに歴史があり、人としての一生があるという当たり前なことをこの物語は伝えてくれています。

今年度の大河ドラマ「鎌倉殿」は源氏の視点で物語が進み、アニメは平家の視点で物語が進むので併せてみると面白いです。
登場人物が多くて人物の相関が少し覚えづらいので、そのへんを整理しながら見ると視聴しやすいかも。
歴史を知らなくても見やすいと思うし、知っていればより楽しめる作品です。

もともとの話が面白いことはわかっているのでどんな形にアレンジされているのかがポイントでしたが、とても繊細な作画で「和」の美しさを感じられて見入ってしまいますね。
古典の良さをちゃんと表現しつつ最新の技術で丹念に作られた素晴らしい作品。
平家の栄枯盛衰を表現したＯＰＥＤアニメに思わず泣きそうになってしまいます。とても味わい深い作品だと思いました。

結末が分かっているから面白くないなんていう心配はいらないです。{netabare}
この作品は未来が見えるとか、死んだ人が見えるっていう設定があって、結末を知る者が歴史の中で生きるという要素がシナリオをいい具合に彩っていてより見やすくキャラクターに感情移入しやすい作りになっています。
最後には悲しい結末が待っていることがわかっているはずなのに、どうしても感情移入してしまう。

みんな生き延びて欲しいな、幸せになって欲しいなって想いながら見ていました。
滅びゆく平家の人たち。栄光と破滅の人生。
壮絶な人生を歩んだ彼らのことなど関係ないと言わんばかりに変わらぬ美しい景色が、より儚さを際立たせています。

琵琶ちゃんは私たち視聴者を物語の中に投影した姿なんでしょうか？

この人たちはいずれ滅びる、幸せになんてなれないって知ってるのに、一緒にいればいるほど、好きになってしまう。
結末を知っているのに何もできない、何もしてあげられない無力さ。
大事な人達が敵によって討たれ、後世に悪者として語り継がれることがどれだけの苦痛か。
違うよ、そんな悪党なんかじゃない。私にとっては優しくて大好きな人なんだ。
滅びゆく者たちの嘆き、悲しみ、訴えを、聞いてくれる人がいた。そばでみてて一緒に涙を流してくれる人がいた。
それは、激動の人生を送った彼達にとってのせめてものはなむけになるって私は思います。

ＢＡＤＥＮＤが分かっている物語ってみるのがつらいですね。
終盤は特に一話一話覚悟を決めて視聴していました。 {/netabare}

すごく面白かったし、視聴終了後はなんか夢から覚めたような喪失感を感じました。
素晴らしい作品をありがとうございました。