フリ-クス さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
メタモる者は幸いである。天国は彼らのものなればなり。
もうずいぶん前にアメリカに住む友人から聞いた話なので、
いまはひょっとしたら事情が変わっているかもしれないけれど、
アチラの方々はコスプレをするに際して
『自分のなりたいキャラになって楽しむ』
という信念をお持ちの方が、かなり多数おられるようであります。
大きなイベント会場に足を運ぶと、
ビヤ樽みたいなおなかを突き出したキラ・ヤマトなんか可愛い方で、
ケツあご筋肉もりもりのおっさんがセ-ラ-ムーンのコスをして、
嬉しそうに『OSHIOKI YO!』とか叫んでポ-ズとってるとか。
いやもう、サバトっすよマジで、心から嫌そうにその友人が言ってました。
最近は日本でもそういう方がおられるようで、
まあ、やりたいようにやればいいと思うのですが、
いやはや、なんだかなであります。
ちなみに、若い頃からいろいろやらかしているワタクシではありますが、
コスプレは経験ありません。
やれと言われたらたいがいのことはやる性格なので、機会がなかっただけですが。
その代わりと言っちゃなんですが、女装は十代後半のときに経験あります。
ただまあ、正直、作品にまるっきり関係ない話なので、
ネタバレで隠しときますね(開く必要ありません、マジで)
{netabare}
男女六人ぐらいで宅飲みしているときに、
部屋主の女の子が「フリは女装したら絶対かわいくなる」と言い出し、
じゃあまあやってみましょうか、みたいなノリになりまして。
出来の方は、なんと言うかその……
シャレにならなかったというか、
『リアルことりちゃん』みたいになっちゃいました。
自分が『女の子顔』をしていることは薄々気づいていたんですが、
(小学校卒業するまで時々女の子に間違われてた)
いやまさか『かわいこちゃん』になるとは……
笑いをとるはずが、怪しげなチェキ会みたいな空気になってしまい、
ノリノリでポ-ズをとってみたり、翌朝、酔いがさめて恥ずか死んだり。
もちろん、それで何かに目覚めることもなく、
いたって平穏かつノーマルに今日を迎えております。
てか、僕のタッパ(180)で女装癖あったらアウトではないかと。
{/netabare}
マクラが長くなってしまいました(自分語りが多い男ってやだわ)。
さて、本作はそんなメタモルフォーゼ、コスプレを題材にした、
ウンチクありいのお色気ありいのといった、ラブコメであります。
人づきあいが苦手なジミ夫くんがクラスのリア充花形女子に引っ張られ、
という感じの作品はかなりたくさんありますが、
この作品はそのなかでも出色のできばえではなかろうかと。
なんと言っても引っ張られるきっかけが
『お裁縫の技術目当て』
というのが、わかりやすくて良き。
コスプレがしたくてたまならいけど自分も周囲にも裁縫力がないヒロインが、
ひな人形職人見習で縫製技術のある同級生(新菜=わかな)と知り合い、
コス衣装をお願いして作ってもらう、というのが物語の骨子であります。
{netabare}
ひな人形が好き、という自分の嗜好を恥ずかしく思っていた新菜が、
そのことをあたりまえのように認めてくれたヒロインに感動し、
彼女の『好き』を叶えてあげたくて奮闘するうち、
自分もコスプレの楽しさにハマりだし、
共同作業を重ねるうちに二人の距離も縮まっていく、という展開ですね。
この『二人の距離の縮まり方』も、
なかなか繊細で良き。
新菜には、恋愛感情だの下心だのはありません。
自分の『好き』を初めて認めてくれた『いい人』のお役に立ちたくて、
一所懸命にやっているだけ。
(えっちな夢や妄想はあるけれど、そこは若い男の子だからお目こぼし)
最初に恋愛感情を抱くのはヒロイン、海夢(まりん)の方です。
ただし、最初はほんとに、クラスメイトに無理なお願いをしてるだけ。
・参考に渡したエロゲーを真剣に、最後までプレイしてくれた。
・めちゃくちゃ細かい三面図を作り、買い物にも付き合ってくれた。
・軽く言った言葉を真に受け、寝る時間も削って衣装を作ってくれた。
・その衣装が素晴らしい出来で、夢が叶った。
なんてことがあっても、気持ちは『感謝』『いい友だち』のままなんです。
ほんと、全12話のうち5話の終わりまでそんな感じ。
まりんって見かけは「学校にそんなパンツ穿いてくんなよ」的バカ女なんですが、
このあたりの身持ちの堅さ、良きです。
ちょい助けられたとか秘密を守ってくれたとかでホイホイ惚れてしまう、
そのへんのご都合ラブコメヒロインとは一線を画しています。
……が、
新菜が大切にしていた『きれい』という言葉を自分に向けてくれた途端、
彼を異性として意識し始め、
それまでの感謝や友情だった気持ちのベクトルが一斉に恋愛感情へと方向転換することになります。
この『身持ちの堅さ』と『チョロさ』の同居が、実にリアルで良き。
てか、いかにも女の子っぽい。
体温の感じられる、いいキャラクター設定ですよね。
ただ、ですね……実をいうと新菜くん、
ウィッグ屋のスワローテイルを訪れたとき、
わりと簡単に『きれい』とか心の中で思っちゃってるんですよね。
脚本家は同じ人だから、ミスではなく確信的な演出として。
だからまあ、それほど深刻に『重い』言葉でもないわけなんですが
そこはほら、モノローグだから、まりんにわかるわけもなく。
{/netabare}
ちなみにこの作品、メインとなる登場人物は、
主人公の新菜とヒロインのまりん、
そして先輩コスプレイヤーのジュジュと妹で撮影担当の心寿(しんじゅ)の四人のみ。
新菜の師匠であるおじいちゃんとかも出てくるものの、
あくまでも物語を成り立たせるためのサブキャラなんですね。
(いやあ、音響費が安くあがって制作大助かり)
そのジュジュと心寿が登場するのも六話以降。
それまでの丸々五話、ほとんど100分を費やして、
若菜とまりんの人間性やコスプレ、衣装づくりに関する蘊蓄が、
けっこうえっちなイベントやギャグを織り込みながら楽しく語られていきます。
へえ、コスプレイヤーさんってこんなふうに衣装作ってるんだ、
そういうニッチな知識が得られるのも良き。
お話的には、六話にジュジュと心寿が登場してきてからは、
さらに深いコスプレのウンチクと写真ウンチクなんかも散りばめられて、
見る人を飽きさせない作りになっています。
さすがにネタが尽きてきたのか、
十一話以降はふつうのラブコメに落ち着いてきた感があり、
もしも二期があるんならどうやって引っ張るんだろうといらん心配もしてみたり。
おすすめ度としては、お気軽ラブコメとして堂々のAランクです。
なんと言っても『大真面目にコスプレをやっている』というのが好感度大。
妄想ラブコメのモチ-フとしてコスプレを拝借するのではなく、
コスプレが主軸で、ラブ要素はそこから二次的に派生しているんですよね。
はあ? コスプレって何なん?
という方にも是非ご覧いただきたい、楽しい作品です。
惚れ要素のないダメ夫に美少女がいきなり寄ってきてキャッキャウフフ、
という『妄想アニメ』に辟易している方も、
この作品ならば、ある程度は納得していただけるのでは。
そもそも新菜くんって、実は『ダメ夫』じゃないんですよね。
性格は確かに地味で内向寄りですが、
『高身長』『明確な夢をもって努力』『真面目で誠実』と、
なにげに高スペックだし、顔も悪くないし。
ゲ-オタと違い、将来設計もきちんとしている優良物件ではないかと。
ヒロインのまりんも、見てくれはバカ女っぽいアレですし、
エロゲ好きだの読モだの既視感ばりばりな設定もナニなんですが、
中身の方は『さばさばしてて、行動力のあるヲタク』に過ぎません。
料理・裁縫などはポンコツですが、
家の中は一人できちんと片づけてますし、女子力がないこともなし。
{netabare}
ツ-ショットでのエロゲト-クやラブホはOK、
同じくツ-ショット、しかも室内できわどい水着や衣装、ノーブラもOK。
全身のサイズをくまなく知られるのもOK。
いやあんた痴女でしょと思いきや、下着見られるのは恥ずかしいとか、
破天荒な線の引き方も、一周回って個性としてアリかな、と。
ナウシカ的な高度清廉性を求める方には無理っぽいけれど、
一般的には「いやあいつバカだから」の一言でたいてい済まされる、
わりとどこにでもいる『親近感の持てる女の子』設計なんですよね。
{/netabare}
ジュジュ姉妹、ロりっ子と巨乳美少女も登場しますが、
二人ともオトコよりコスプレ、という『狭い方々』ですので、
変なハ-レム展開にならず、安心して見ていられます。
映像も、時々乱れるものの、全体的にはかなり良き。
ヒロインのまりんのキャラデ、斬新です。
下品と感じる方がいるかもですが、こういう思い切り、大切ですよね。
ボディラインだの襟足だの、
オトコゴコロをくすぐりたいところはしっかりくっきり。
アニメ-タ-さん、魂込めてます。
かと思えばひな人形の顔がものすごく精緻に描かれていたり、
要所要所をきっちり締めて、物語に芯を通しています。
お芝居についても、
キャリアの少ない役者さんが多いのに及第点。
みんながんばってます。
新菜役の石毛翔也さんは、ゴジラSP以来、ほぼ二本目の主演作。
ただし、劇団四季出身でいまは鈴村さんの事務所に所属するなど、実力は充分の方。
事務所移ってから確実にお仕事増えているみたいだし、
スターダスト離れたのは正解だったような。
まりん役の直田姫奈さんは、アニメではこれが初主演ですよね。
バカっぽいのびのびした演技が印象的でした。
ただ『静』の部分の表現は若干の改善余地があるような。
これからいい役を引ければ、化ける可能性があると思います。
芸を磨きたいなら、バンドリと縁を切った方がいいんじゃないかしら。
心寿役の羊宮妃那さんは、セレプロ以来、二本目の主演。
青二ジュニア所属、期待の若手さんですね。
上田麗奈さん同様の、ブレス多めのウィスパーボイスが印象的。
表現力はまだまだ上田さんに遠く及びませんが、
この基礎声質は需要が多く、研鑽を積めば、重宝されると思います。
ジュジュ役の種﨑敦美さんは、この中では『別格』かなと。
あと、劇中劇の『フラワープリンセス烈!!』で、
桑島さんと宍戸さんという『時代に合わせた』キャスティングに拍手。
画面アスペクトも4:3だし、いやあ、芸が細かい。
音楽は、劇伴・OPは楽しくて、世界観にも合っていて問題なし。
EDはちょっと甘々に振りすぎたかな、と。
演出もいささか『狙い過ぎ』と感じられたので、評価がちょい低めです。
ベタ甘にしない方が、作品に芯が通ったと思うんだけど、
まあ、そこはあくまでも好き好きの話で、良し悪しではありません。
ちなみに本作の原作マンガって、
えっちいシーンがやや多めで基本は男性向けかなと思いきや、
女性ファンが三割もいて、さらに増え気味なんですってね。日販調べ。
もちろん『服飾』がメインモチ-フというのもあるでしょうが、
決してそれだけではなく、
やっぱ『共感できる人物造形』ができていることがミソなのでは。
以前レディコミの編集者さんに教えてもらったのですが、
女の子にだって性欲も好奇心もあるし、どきどきもしてみたい。
だけどそこに至るには、結果だけを求めるオトコと違い、
ちゃんとした『プロセス』と『理由』、
つまり『エクスキューズ』が必要なわけであります。
この作品は、そこをしっかり押さえています。
だから「はあ? このオンナなに発情してんの」的評価にならず、
一緒にどきどきしたりゲラゲラ笑ったりできるわけで。
(この辺、さすが原作者が女性だなあ、と)
そんなわけで、本作は性別問わず誰にでもお勧めできる逸品であります。
いささかお下品な部分がないこともないですが、
そこも含めて実に楽しい、お気楽に見て笑える仕上がりになっております。
ラブコメという名のオタ妄想に食傷気味なあなた、
コスプレという名のあやしい趣味に懐疑的なあなた、
洋裁の実習や宿題にトラウマをお持ちのあなた、
そんな方にもご覧いただきたい、素敵な娯楽作品なのでありますよ。
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ええと、ここからは本編に関係ない洋裁のウンチクをば。
作品では、ひな人形の衣装づくりをしている新菜くんが、
ドレスみたいな制服を仕上げますが、
和装と洋装では縫製技術が根本的に違うんですよね。
リアルに考えると『ムリ』『できたら奇跡』みたいなものなんですが、
そこはほら、アニメだからできちゃうわけで。
それにしても新菜くん、ほんとよくがんばった。
で、何がどう違って難しいのかを、簡単に解説してみようかな、と。
本編にはあまり関係ないのでネタバレで隠しておきますね。
ほんとムダ知識なので、興味のある方だけ、どうぞ。
{netabare}
和服って、畳んだらぺたんと平面になるけれど、ドレスはなりませんよね。
(だからハンガーで吊るすわけですが)
これは、服そのものが立体的になるよう縫われているからなんです。
具体的には『いせ込み』という技術。
(ギャザーやタックについては、ややこしくなるから除外します)
わかりやすく言うと、
長さ10㎝の布Aと9㎝の布Bを、
始めと終わりがぴったり合うようにAを押し込みながら縫う技法です。
これ、ひきつらないよう縫うのは初心者レベルだとかなり大変です。
この技法というか、概念そのものが和裁にはありませんから、
新菜くん、縫い合わせるだけでも相当苦労したことと思います。
そして、ただ縫うだけでも難しいのに、
その何倍も難しいのが、縫う前のパ-ツ、パターン(型紙)の作成です。
世間では『立体裁断』なんて言葉が使われていますが、
平面である布地を立体的に切ることなんか、もちろんできません。
要するに『縫い合わせたときにきれいな立体になる』よう、
各パ-ツのいせ込む量を計算して型紙を起こし、裁断することなんです。
単純なタイトスカートでさえ、狙ったシルエットを出すためには
プロのパタンナーでも、何度も別布で仮縫いを繰り返して調整します。
ドレスというのはその何倍もパ-ツ数が多く、
おまけに分量感の強弱が極端でシルエットも複雑なため、
初めて手掛けるパターン作成がドレスって、ほとんど死亡フラグなんですよね。
もう一つ、和装と洋装が決定的に違うのが『地の目』の概念です。
布地というのは基本的に縦糸と横糸で織り込まれているのですが、
これがどの部分でどの方向に走っているかによって、
身体を入れたときにできるドレープ(布の自然なたわみ)が全く変わってきます。
和裁は基本的に『使う布地量を最小にする』よう各パ-ツを切り出しますが、
洋裁、特にドレスなどエレガントさが求められるものは、
いかに自然で優雅なドレープを作るかを考えてパ-ツを切り出します。
(求められるレベルによって、パ-ツの数も布の用尺も全然変わります)
他にもクセ取りアイロンによる繊維の調整技術など、
細かい違いを言い出したらキリがありません。
要するに、そういうことをまるで知らない和装職人の新菜くんが、
まともな道具も教えてくれる先生もなく、
素人向けの本を一冊読んだだけでああいうドレスを作るっていうのは、
かなりの『無理ゲー』なんです。
特に最初のドレスは、
トルソー(胴体だけのマネキン)もないから
シ-チング(別布による仮縫い・型紙チェック)もできないわけで、
それであんな難しいもんよく作ったなあ、と。
まあ、そこは正直、アニメだからとしか言いようがなく。
ちなみに『明日ちゃん』のお母さんによるセ-ラ-服作り、
かなり正確な描写になっていました。
洋裁慣れした人でも、ああしないと作れないんですよ、ほんとは。
(気になる人は一話Aパ-トをチェック)
もちろん、どこまでいってもコスプレ衣装。
あくまでも趣味の範疇なわけですから、
なにをもって『よし』とするかは人それぞれなわけです。
僕が言ってるのは『製品レベル』の話であって、
個人が作って個人が楽しむだけなら、極論、何だっていいわけで。
本編でジュジュが出来栄えにほれ込んだという設定だから、
『ある程度以上の出来だった』ということで、
いやそれは洋裁初心者さんには難しいですよ、というお話に過ぎません。
たださあ……
お金を取って売ってる出来合いのコスプレ衣装って、
正直「なにこれ?」ってレベルのものが多いんですよね。
袖がペンギンとかフラップがひきつってるとか、マジありえない。
個人が趣味で作るものと、
企業が製品として市場に出すものは、
やっぱ明確な違いが必要なのではと思うワタクシでありました。
{/netabare}