nyaro さんの感想・評価
3.5
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
02年では特別な存在だったひきこもりも、今では普通なのかもしれません。
02年がひきこもりの時代のスタートでしょうか。ローゼンメイデン、オタク精神分析医の斎藤環氏「ひきこもり救出マニュアル」、本作の原作小説が02年です。つまりゼロ年代のスタートと共にひきこもりがクローズアップされました。02年に実施されたいわゆる3割減のゆとり教育の表裏なのでしょう(価値観の多様化やスクールカーストなどももちろん関連するでしょう)。
ただし、一人暮らしをして、友人とコミュニケーションを取り、憧れの先輩や可愛いおせっかいやきのJKがいるんですから、ひきこもりとは厳密には呼べないかもしれません。
むしろ、成長と成功、濃密なコミュニケーションから逃げ回っているモラトリアム人間と言った方がいいかもしれません。
本作は一部原作者の実体験に基づくとのことでした。なので、インナースペースの表現的には確かにかなりの説得力と迫力があります。成功や成長からの逃げ…とにかく思いつきと言い訳で安寧へと向かう。それはひきこもりのリアルに見えるしその通りなのでしょう。
でも、一つわからないのが、岬と瞳が想像上のキャラだとしたら…こんなに気持ちの悪いことはありません。妄想ですよね。でも、だからこそ、ひきこもりモラトリアムオタクの内面としてリアルなのかもしれません。彼の精神世界においては、この女性2人が必要だったのでしょう。
原作者の「超人計画」…たしか綾波レイが自分のところに来てくれる話をまるで現実の日記のように書いていました。ひょっとしらその前段なのかもしれません。ただ、今のラノベ、なろう系小説の精神性のベースになる赤裸々な部分な気もします。
気持ち悪さや居心地の悪さも本作には確かにあります。が、妙に共感できる部分があるのも事実です。それは「面倒くさいから俺の事をほっといてくれ」なのか「脳内彼女」なのか。
2002年においては「ひきこもり」は精神病だし、特別な症状でした。でも今や「ひきこもり」という言葉がギャグか日常になり、特別ではなくなってしまいました。統計では中学校の4%が不登校だそうですが、統計ですからね。たしか30日以上1日も来ないという定義だと思います。話に聞くと10%から20%は不登校らしいですね。
本作を見ると、ひきこもりが特別だった時代…まだ、文学になる余地もあったし、救済と成長が肯定されていました。そして脳内彼女に救われていました。20年後の今の妄想は異世界転生ですからね。救いがありません。
ひょっとしたら主人公の精神性については誰も異常だと思わないかもしれません。メイドラゴンの滝谷とキャラが重なる部分もありますし。今のオタク像だと特別じゃない感じもあります。
総評です。作品自体は以上のようにモラトリアム青年のインナースペースの話と、その周辺のちょっと症状が出ているキャラたちの若干サイコよりの話です。文学性も感じますし、リアリティが醸し出す「痛さ」に感情を動かされます。が、文学に昇華できていないかなあ…生々しすぎて下ごしらえされていない素材感…半生な気がします。
ちなみにアニメの方がコミック版よりも格段にマイルドですね。コミック版は精神状態が健全な時に読んだ方がいいと思います。下手をすると引きずられます。先輩の件については、正直アニメ版の方が話の展開も結末もきついかなあ。