nyaro さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
人権と民主主義に胡坐をかくと独裁者が生まれる。それが本作のテーマでした。
あまりアニメ鑑賞に現実世界を投影するのもどうかと思いますが、本作については色濃く政治的主張があるので良いと思います。
この作品では自由同盟側は、民主主義の腐敗が大きなテーマとして描かれていました。それは、人権と民主主義の上にあぐらをかいてはいけない、ということでです。これはポピュリズムから衆愚化した民衆が政治に無関心あるいは政治的プロパガンダに毒されることで思想的に右傾化してゆくことです。
会議の心理で、リスキーシフトの結果で決定される戦争…この醜さなども描いていましたね。リスキーシフトとは主戦論つまり行動を起こす方向に会議が心理的に自然に誘導されること…でいいと思いま。
帝国側は貴族政治の腐敗ですね。選挙によらない権力の世襲による政治腐敗の話です。どちらも今の世界情勢そのものです。
人権というのは、誰かが与えてくれるものではなく勝ち取るもの。民衆が衆愚化すれば、近代までの東アジア的な官僚のような腐敗や、ファシズム化を招きます。
そのためにまず我々は独裁を防がなければなりません。そのために表現の自由と選挙制度、三権分立を維持しなければなりません。選挙制度がポピュリズムにつながったとしても、です。
一部の社会学者や評論家が独裁政権による決断の速さ、IT化やGDP成長率だけみて日本は終わったと語っていましたが、そうではありません。今回の戦争の件や国際情勢の不安定化を見ればわかると思いますが、個人や少数の集団の思想によって樹立・支配された国家は腐敗を守る術がなく、結果的に人権は抑圧、弾圧されます。
その上で、ポピュリズムはプロパガンダでファシズム化される危険があります。それを防止するのが情報です。どこで何が起こっているのかを知ることです。
権力を掌握しようと思う時に何をやるか。それは表現の自由の規制です。つまり、選挙をコントロールするために価値観を統一することです。組織的な反抗が起きないよう情報を分断することです。政治に興味が向かないよう娯楽を提供することです。でも表現の自由は直接生活に影響がないので、気にしないかもしれません。
ですが、これで権力が徐々に集中していつか制度にのっとって政治を行っているように見えて、終身大統領のような危険な地位を作ってしまったのがかの国です。あの国がやったのは徹底的な情報操作による思想統制です。
つまり、もっとも危険な人権侵害は表現の自由の規制です。場合によっては命がけで守らなければなりません。
ジェシカエドワーズとヤンウエンリーを見たなら、この事は納得できると思います。もちろん私自身がそんな御大層なことができるわけではありませんけど。意識を持つことは大切でしょう。18歳の選挙権も始まりますし。
さて、本作については、このことが物語の根底にあります。本作についてSF的にどうだ、キャラについて…とかいろいろあると思います。それはそれで優れた作品の楽しみ方としていいでしょう。
銀河英雄伝は面白いです。宇宙戦争もの、ヒューマンドラマとして優れていると同時に、その根底にあるのは過去の歴史をなぞった政治にかかわる個人や民衆の危険なシミュレートです。
民主主義は個々人が自ら守らないと、簡単に崩れてしまう、というのが本作の大きなテーマだし、ヤンウエンリーが体現していたことだと思います。人の命そして人権は大切です。でも、大切だからこそ社会を先に考えないと人権はあっという間に弾圧されます。本当に今のSNS上の議論は社会を先に考えていますか?個人の人権有りきになってませんか、という問いかけにも思えます。
そしてヤンウエンリーは後継者も残しました。そう、個人だけでは駄目です。次世代を育てろ、と。
アニメで考えさせる作品は貴重です。本作はその点においては18歳までに見るべきアニメの筆頭かもしれません。
そしてアニメの中身まで政治が口を出すことの恐ろしさですね。それがたとえロリのようなものでも、権力が表現を規制することの危険性を考えてみたいところです。
この作品の後に「この世界の片隅に」と「火垂るの墓」を見るといいかもしれません。
また統一された意見に収れんするようなSNS上のポリコレの危険性もまた、感じることができます。
100話以上ありますが、この事をしっかり学ぶために今だからじっくり見ておきたいですね。私は原作を読みなおします。