フリ-クス さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 2.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
Where Have All the Flowers Gone(花はどこへ行った?)
戦争をモチ-フにしたアニメ作品は、
これまでにイヤというほど製作されておりますし、
これからもイヤというほど製作されることは想像に難くありません。
そして、一口に『戦争アニメ』と言っても内容は千差万別、玉石混合。
んで、僕はそれら『戦争モノ』アニメを個人的に、
大きく三つに分類して視聴したり考察したりしています。
ほんとうに、あくまでも私的かつ便宜的な線引きに過ぎないのですが、
ご参考までに紹介すると以下の通りです。
① 戦争は悲惨だアニメ
戦争被害だの困窮する市民だのにスポットをあて、
ほらね、戦争ってよくないでしょ?
みたいなことを啓蒙する、いわば『反戦』アニメ。
言ってることは決して間違っちゃいないし、
若い世代に伝えていかなきゃイケナイことではあるのだけれど、
「だから?」という問いにまったく答えておらず、
その後の利用のされ方がおおむねアレなのが玉にキズ。
② 戦争はニンゲンの縮図だアニメ
戦争そのものより戦争をモチ-フとして『人間』を描くことが主題で、
人間の『愚かさ』『傲慢さ』『業の深さ』『狂気』や、
それに対峙する『強さ・気高さ』『絆』なんかを描くアニメ。
(もちろん、飲み込まれていく『弱さ』も描かれたりします)
別の言い方をするなら『戦争ドラマ』になるのかしら。
中には、かわぐちかいじ氏作品のように、
軍事力と平和の共生を模索する『現実秩序論』的アニメもありますが、
社会派ということで、一応この中に入れています。
③ 戦争かっけえアニメ
戦争をモチ-フにした、エンタメ特化型アクション娯楽アニメ。
前線で戦う兵士を中心にして描かれるのがほとんどで、
中二成分が入ってみたりみなかったり、
萌え成分が入ってみたりみなかったり、
ラブ成分も入ってみたりみなかったり。
設定はかなり緻密に作られ、
メカデザインだの演出だのにはタマシイかなり入っているものの、
言ったりやったりしていることは昔っからだいたい一緒です。
これら①~③に「どれがエラい」という序列なんかありませんし、
もちろん、すべての作品が明確に線引きできるわけでもありません。
それぞれの要素が混じり合っていたり、
何かを足したり引いたり揉んだり伸ばしたり、
それなりの『個性』があるのが一般的なのではあるまいかと。
(なんの『個性』もない寄せ集めアニメも少なくないですが)
で、本作『86』でありますが、
先に放送された第一ク-ルと、この第二ク-ルでは、
作品の色彩が潔いほどガラッと変わっております。
第一ク-ルは②の『戦争ドラマ』的色彩が強かったのですが、
そういうのはほとんどなんもなしです。
ヒトの思惑とかがちょいちょい足を引っ張るものの、
基本的には勧善懲悪の電車道、
③の、ドキハラ楽しい『戦争かっけえアニメ』に仕上がっております。
というか、そもそも『戦争モノ』ですらなくなり、
戦争っぽいSF娯楽アクションアニメ、みたいな感じではあるまいかと。
だってさあ……{netabare}
(1)そもそも『人と人の殺し合い』じゃなくなってるし。
周辺諸国に侵略戦争をふっかけ、
大戦の元凶になった軍事国家『ギア-デ帝国』なのですが、
市民革命であっさり滅亡いたしております。
後を継いだのは人道派のエルンスト率いる民主国家、ギア-デ連邦。
他の国に侵攻したり特定民族・国家を差別したりするつもり、
さらさらありんせん。
だからもう、国と国との『戦争』じゃないんですよね。
じゃあ何と戦っているかというと、
ギア-デ帝国が開発した自立型の殺戮兵器であり、
勝手に人間の脳を取り込んで増殖するようになった『レギオン』であります。
ようするに『ツブれた交戦国』が遺した、
勝手に増殖して人類を攻撃する『メイワク兵器』なんですね。
もう帝国いないし、戦争やめてまったりしたいんだけど、
こいつらがわさわさ攻めてくるのでしゃあなく戦っているという、
なんとも締まりのない『戦いの構図』が物語の根幹になっております。
(2)仲間、死なないし。
これは、戦争かっけえアニメではほとんどお約束。
戦隊ものや美少女戦士ものなんかと同じで、
どんなに強大な敵と戦おうが、
味方の主要キャラって、まず死ぬことはありません。
本作も、第一ク-ルは仲間が無惨にばたばた死んでいったのですが、
第二ク-ルでは「ないわ」と思うぐらい、
どんだけ無茶な状況に陥っても86メンバーは不滅のアナタ。
第一ク-ルの印象が強烈だし、
そのために用意されたであろうサブキャラが戦死したりするので、
かなりドキハラさせられるのですが、それは演出。
もちろん「ああよかった」と僕も胸をなでおろしたわけなんですが、
よくよく考えてみたら、
最後に「ああよかった」なんて思える『戦争』なんて、
アニメの中だけの話ではあるまいかと。
(3)萌えとかラブ成分増し増しだし。
ロリっ子フレデリカの登場は、市街地なら問題なし。
そりゃまあ、街中にはロリっ子のひとりやふたりいるでしょう。
だけど軍部に『マスコット』として配属ってなんだよマスコットって。
戦闘部隊を幼い娘と寝食を共にさせて疑似家族とし、
愛するムスメやイモウトのため命を賭して戦う気にさせるって……
兵士に里心がつくだけでむしろ逆効果なのでは。
救護班や整備班、補給班などを除き、
戦時には軍施設に『保護を要する非戦闘員』を入れないのが鉄則です。
(軍の施設というのは、それだけで敵の攻撃対象ですしね)
もし戦闘になれば保護に人員を割かねばならず、戦力低下は必至。
それを『風習』の一言でかたづけるって……パヨクの工作っすか。
で、前線の経験もない10歳の子どもに知ったような口を叩かれ、
それに納得したり鼓舞されたりとかね、もうね。
前線はアキバじゃないんだよっていう話であります。
それに比べるとシンとミリ-ゼのラブ要素はけっこう控えめ。
なにを言ってるんだおまえは、
という台詞もあるにはあるんだけれど、
戦闘終了後、非戦地域での言葉なのでお咎めなし。
最終話、二人の手の影が寄っていく甘々カットは、ちょっとアレかしら。
{/netabare}
というわけで本ク-ルは第一ク-ルとうってかわり、
何かを考えさせる・問いかけるような要素はほぼ皆無となっており、
登場人物や戦闘シ-ンを見てもらって
『かっけえ』『すげえ』と思っていただきたい、
そんな作品に仕上がっております。
僕的なおすすめ度はB+ぐらいの感じです。
リアルな『戦争』からは目いっぱい遠ざかっちゃいましたが、
人間の脳を取り込んで増殖する機械兵器など、
シリアスなところはシリアスで、出来のいいバトルアクションアニメかと。
美少女が『よくわかんない敵』と戦い、
最後は覚醒だの友情パワーだのでなんだかんだ、みたいな作品よりは、
遥かに地に足がついた物語に仕上がっております。
戦地に赴く若者の『覚悟の有無』みたいなものも描けているし、
ドラマ要素的なものもそれなりに。
戦略・戦術的なものは強引というかムリあり過ぎですが、
リアルな戦争ぶっちぎったアクションアニメだからと割り切れば、
けっこうドキハラしながら楽しめます。
{netabare}
ただし最終バトルでロリっ子が前線に紛れ込んじゃうのは、
「しっかりつないどけよ」としか言いようがなく。
こういうムカシふうの安い演出は、僕的には『萎え』要素に他なりません。
{/netabare}
映像はふつうにかっこいいです。
動と静、いずれのシ-ンの描写にも繊細なこだわりが感じられて良き。
無機物・有機物の質感まできれいに表現されています。
アングルにも相当こだわってて、仰角/俯角、引き/寄せの配合が絶妙。
その一つ一つにちゃんと意味があるんだ、これがまた。
キャラクターは、86のメンバーは味があるのですが、
エルンストあたりからちょっと微妙になり、
軍属のほとんどはテンプレの焼き直しがこれでもかと並びます。
フレデリカに至っては、何をかいわんや。{netabare}
レギオンをばらまいたギア-デ帝国最後の女帝という立場なんだから、
(本人の責任じゃないから責めることはないにしても)
そのレギオンと命がけで戦っている兵士に上からモノを言ったり、
私的なこと(キリヤの件)を頼んだりするのはよかわけなかばい。{/netabare}
もちろん『そんなこと百もわかって言っている』というキャラ設定なんだけど、
その自己矛盾を『子どもゆえ』の一言で片づけちゃうというのは、
ドラマの構成として安すぎるのではあるまいかと。
おなじようなチビ女帝でも
共感という意味では『うたわれるもの偽りの仮面』のアンジュの方が、
背負うべきものをきっちり背負っていて良き、と拙は思います。
キャラが最高に立っているのは、やっぱミリーゼかと。
第一ク-ルの最終話から、その足の置き場が一ミリもずれていません。 {netabare}
最終話、墓碑銘の前で「忘れません」という台詞を五回繰り返し、
その後立ち上がって毅然と歩み去る姿を仰角で捉えるカット、
何回見ても鳥肌ものです。 {/netabare}
ほんとそれだけ、台詞が「忘れません」しかない25秒ほどの演出で、
彼女が自分自身に刻み付けたものの『深さ』と、
それに向き合う覚悟の『強さ』が見事に表現されています。
これ、絵コンテ描いたの監督の石井さんですよね?
アニメの専門学校ではなく千葉大の理系出身という変わりダネで、
アニメ-タあがりではなく制作進行あがり。
しかも初のTVアニメ監督作品でこの表現力はすごい。すごすぎる。
まじで、駆け寄って握手を求めたいところそす。
音楽は、OP・EDともエンタメ特化。
とりわけOP曲の『境界線』は(少なくとも僕の耳には)、
平和ボケした日本の若者が
アニメの内容に沿ってドラマチックになるよう歌ってみました感満載で、
一般ウケしか狙ってませんという潔さがありありと。
役者さんのお芝居は、高水準で安定。
欠点と呼べるほどの欠点がほとんど見受けられず、
ほんと安心して視聴できます。
特にミリ-ゼ役の長谷川育美さん、
はじめてのメインヒロインなのにすごくがんばっているなあ、と。
気を張ったときと緩めたときの『声の硬度』の使い分けが絶妙です。
今期だと『ぼっち』の陽キャラ喜多郁代を演っているのでわかるように、
使える音域や芝居の幅が広い役者さんです。
まだまだ若いし伸びしろもありそうで、要チェキの一人かと。
いい役引き続けられれば、大化けしそうな感じです。
頼むから『けいおん』みたくなるのだけはやめておくんなまし。
あと、フレデリカ役の久野美咲さん。
キャリアも実力も充分すぎるほどの方なので、
いいかげん、こういう役どころから解放してあげたいな、と。
とにもかくにも第一ク-ルまでの路線をかなぐり捨て、
前線をガタゴト走る無骨な戦車から
テ-マパークのアトラクションに乗り換えたような作品です。
{netabare}
最終話には『戦場のボ-イ・ミ-ツ・ガール』なんて、
ウクライナの方々には絶対にお見せできないようなカンド-演出もあり、
まさに平和の国ニッポンならではの仕上がりではあるまいかと。
{/netabare}
第一ク-ルを『重い・しんどい・クラい』と感じていた方は、
「おお、やればできるじゃないか」と満足し、
逆に第一ク-ルの『重さ・しんどさ・クラさ』に惹かれていた方は、
「う~ん……なんかペラペラでやだわ」と感じちゃう、
まさに『トンネルを抜けると雪国アニメであった。』という感じです。
あとはもう、雪が好きか嫌いかぐらいしか分水嶺がありません。
{netabare}
ちなみに最終話、滅亡したサンマグノリア共和国の市街が映され、
いまだに86への差別意識をもった市民の姿を描くことで、
自業自得だよね的な雰囲気を漂わせています。
だけど、そうじゃない、ただ平和に暮らしていた市民もいたわけです。
・瓦礫の中にある、焼けた家族写真や子供の玩具
・身を寄せ合っておびえたように凍える戦災孤児たち
・倒壊した家屋の前で涙を流し続ける、片足を失った老婦人
そういうカットを数秒間ずつ流すだけでも、伝えられることはあったはずです。
おごりや差別意識があろうがあるまいが、
戦禍に巻き込まれ国が滅ぶというのはそういうことなのですから。
だけど石井監督は『描かなかった』。
最終話の放送は3月12日。
ロシアのウクライナ侵攻開始は2月24日ですが、
その時には完パケあるいはそれに準ずる状態であったはずであり、
国際的配慮などではなく『確信的演出』として。
そういうものをあえて『描かない』ことによって、
『最高のオレたたエンド』なんて評されている大団円をさわやかに見せる。
そういう計算であったであろうことは、容易に推察できるところです。
{/netabare}
そのことの是非は視聴者一人一人が判断すべきことで、
僕ごときがエラそうにあ~だこ~だ言うべきようなことではありません。
(好き嫌いぐらいなら言えますが、言っても詮なきことですし)
ていうか、僕的にはその焼け出されたサンマグノリアの人たちが、
『ケンポ-9条に固執して侵略されちゃった日本人』みたく見えたのですが、
それはまた別の話ですよねえ。