薄雪草 さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
営々として不撓不屈へ。
5人の旅程に帯同すること3か月 "+α"。
放送の延期も相まって、シンとレーナとの邂逅は、カタルシスと呼ぶに相応しいエンドシーンとなりました。
長い従軍の果てに、シンへの敬譲から殿(しんがり)に甘んじる4人。
戦友相和の美徳を感じつつも、こぼれ落ちていく亡失感に刻まれました。
フレデリカの寵愛を受けながら、怨嗟に堕ちたキリアの狂奔。
泣いて馬謖を切る悲哀、死して忠義を貫く敬愛には、身を削られました。
そんな紆余曲折からのサプライズシーンは、いくらかファンディスク的な甘やかさもあったような・・・。
でも、安堵の気持ちに弛んだのも "待たされた甲斐もあった" と納得できるものでした。
~
第1クールのストーリーラインでは、二人にとっては聞きなれている "声" のはず。
だからこそ "+α" で初めて目の当たりにするシンの姿に、呆然とするレーナには、可笑しみを(同時に哀しみも)感じました。
可笑しみは、シンへの想望と称賛を、まるで予定調和のように、巡り合わせするシナリオに落とし込んだこと。
レーナへの "思わぬご褒美" と受け止めてみると、安堵にも慕情が混じります。
哀しみのほうは、ハンドラーとして初めて担当した部隊のリーダーの "その声" を、記憶に思い出せなかったこと。
自国滅亡のショックが、シンへの自意識を全消去してしまったのでしょうか。
とは言えど、レーナがシンと切り結んできた誠実と良心、ぶつけあってきた愚直なまでの理想が、ひとつの形となって、いきなり具現化したわけです。
彼らの表情に窺えるデリケートな感情だったり、声にも理性を効かせたプライドだったりに、ふたたび絆を取り戻せたように感じながら、同時に、最前線へ身を投じようとする固い決意にも気圧されて、胸に熱いものがこみ上げました。
~
苛烈な戦渦に敢然と立ち向かっていく彼らが手にしているものは、人間への尊厳を蔑ろにしてきた過去への贖いと、未来への挑戦権です。
若さにあっても、クールな判断と大胆な行動で、戦下を百戦錬磨に潜り抜けてきた彼らの心技体。
平和を奪取せんとする気概と、平等を礎とする社会を目指そうする意志とが相まって、営々と前進していくイメージがしっかりと予感できる締めくくりだったと思います。
~ ~ ~
シンとレーナそれぞれの強みを、"声だけ" で繋ぎとめてきたのは、刹那に過ぎるものだったのかも知れません。
でも、たとえそうであろうとも、相身互いの決意を反発させながら、思慮を醸成してきたプロセスに、私は注目しました。
守るべき義務をともに背負い、守られる権利をも掴み取ろうと懸命にもがいてきた彼ら。
深い隔絶感にあっても、命を預かり、また預けられたのは、背中合わせの信頼感があったからだと思いたい。
戦争を媒体として、さまざまな立場性の違いを、まざまざと見せつける本作です。
切り分けられた演出に対して、湧き上がる感情に見合う言葉を整えるのはとても難しかったです・・・。
~
衝撃的だったのは、時を合わせるかのようにして始まった東欧の戦争のリアルです。
{netabare}
二次元のフレーム内の閉ざされたクリエイティヴィティー(創造)と、等身大の時空間に開かれたディストラクティブネス(破壊)。
レブリミッターを跳ね上げ、レッドゾーンを振り切ってしまった光景を、図らずも直視する毎日となりました。
モニターに映し出されるモザイクは生々しく、阿鼻叫喚に咽ぶ哀しみは痛々しい。
それは、86区の想いになお上書きされるようで、心はいっそうのこと怏々としています。
立場性の違いをフェイクニュースに粉飾して、どんなに正当性を主張しても、一歩街中に立って血の匂いを嗅げば、フェイクファクトは皆無であることを、重く受け止める必要があります。
戦争の悲惨と、その罪業の深さに、真摯に向き合う姿勢と行動とが、真に求められていると感じます。
~
極東の平和と、東欧の戦禍。
地理学的には "8000km余り" の隔たりがあります。けれど地政学的に "遠い" という見立ては、おそらく的を外すことでしょう。
国境を定めたのが人間の叡智の一つなら、それを覆すのもまた人間の力技の一手。
明日にも創っていかなくてはならないのは、一人ひとりの想いに寄り添った "地球儀的なコンプライアンス" なのではないでしょうか。
戦争は、為政者やそれを正当化する者は "必要悪" と言い張ります。
ですが、どんな理由があったとしても "絶対悪" だと私は思います。
いかなる人の生活も根こそぎ奪われ、人権は蹂躙され、生存をも黙殺されるのが、戦争の本来の姿です。
物語としての大団円は、まだ先のことなのかもしれません。
でも、86から感じ取れる言葉は、タイトルのとおりです。
隔たる声と声を、営々として突き合わせ、ともに進んでいくほかの道はないのでしょうね。
{/netabare}