栞織 さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
高畑作品の頂点に位置する作品
映画館で当時の知り合いと一緒に、「トトロ」が先でこの映画を後で見ました。見たあとで、レストランで食事をした時、相手の子が「もう食べられないね」と言いました。それが記憶に残っています。これはそういう映画です。飢餓は人間の本質的なものです。誰もが一番恐れていて、それは日常にはないものと思っています。それを突いているのですから、本当に心に突き刺さる作品です。
映画のあらすじはみなさんよく知っているので割愛します。映画の中でどの登場人物が悪いという議論は、不毛だと思います。監督の視線は、どの人物にも等しくリアルな存在感を与えています。疎開先のおばさんが冷たいという話はよく出されますが、彼女も二人の育ち盛りの子供を抱えているのです。むしろ私には疎開先で手伝いをしなかった清太たちが悪いように思えますが、これもそれまで清太は母親の加護の元で暮らしていた坊ちゃん風に設定されているので、仕方がない事だと思います。彼が通帳にお金があるのに、それをうまく使うことができなかったのも、その年齢で大人のようなふるまいを要求される理不尽です。そんな風に「出口なし」の状況下で兄妹が追い詰められていく展開は、まさにホラーもののようです。しかし原作にあるように、彼らはまるで子供の秘密基地ごっこのように、放置された防空壕で暮らすことをはじめます。この設定は洋画の「禁じられた遊び」あたりからの連想かもしれません。そして生活環境の悪化と食糧難で襲ってくる悲劇。ここでも監督はリアルに、妹が死んでも腹が減って残されたごはんを食べてしまう清太を描いています。しかしその後、差し出された握り飯を手に取ることもできないほど心身が衰弱した清太は、国鉄三宮駅でのたれ死んでしまうのです。妹の死は、それほど彼の心を蝕んだという事なのです。ここにも、監督の人間の心の本質への視線があります。そのため映画の冒頭に、そのシーンが出されているのです。
原作者の野坂氏も「つらすぎて見たくない」と言って試写を出て行ったとかいう伝説があります。それほどの迫真を持って描かれた本作は、高畑監督作品の頂点に当たると思います。戦争の現実はそれほどつらいものであると、はっきりと真摯に描いた本作は、実際の戦時下はこれほどではなかったという論調が存在しても、今後とも見続けるべき価値はあると思います。
ところでみなさんは、「節子」と書いて「フシ子」「不死子」と読めることに気づいていましたか?