ひろたん さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
お互いに傷を舐め合うと言うこと
このシリーズのすごいところは、よく聞く言葉をこれでもかって追及するところです。
「傷の舐め合い」もよく聞く言葉です。
そして、この作品のテーマでもあります。
この作品の良いところは、それをちゃんと「傷物語」とタイトルにもするところです。
そして、作品の最後で、そのタイトルを回収をして締めるところがまたエライのです。
■「傷の舐め合い」とは?
「傷の舐め合い」とは、「似たような不幸の下にある者がなぐさめ合うこと」です。
あまり良い意味で使われることがないように思われます。
と、言うのは、動物が傷を負うと、自分で舐めて治します。
しかし、傷を舐めあうとは、お互い、相手の傷を舐めあうことです。
つまり、本来、自分で治すべきところを放棄し相手に依存することになります。
するとお互いの閉じた世界の中で慰めあうだけの関係になっていきます。
これは、どんどん内へ内へと閉じこもっていき共倒れになりかねない状況になります。
そう言う意味で、あまり良い意味では使われません。
しかし、この作品は、そんな一般論だけでは終わるはずがありませんでした。
■「傷の舐め合い」を突き詰めると・・・
「傷」とは何か?
「舐める」とは何か?
そして、「お互いに傷を舐め合う」とはどういう事なのか?
そのことを追求し、その要素1つ1つプロットしていったのがこの物語です。
知っての通り、この物語以降、阿良々木と忍は、どちらも中途半端です。
阿良々木は、完全に人間に戻れていません。
忍は、吸血鬼の力を失っています。
つまり、お互いに完全な状態ではないので、ある意味お互いに傷を負った状態です。
また、お互いがいなければ生存できない存在にもなっています。
これは、まさしく傷を舐めあっている状態であり、依存している状態です。
やはり、あまり良い状況とは言えないので、これだけなら良い意味ではありません。
しかし、「傷を舐めあう」と言う状況に至るプロセスを考えるとどうでしょう。
すると、お互いに「求めあう」と言う状況が見えてきます。
舐めるのはそれぞれの意志ですから、舐めあうとは両方が求めなければ実現しません。
そう考えた瞬間、この二人の間には、とても深い感情が見えてきます。
この作品では、その感情が何なのかまでは、明示されません。
しかし、普通に考えたら、愛おしさや、愛に近いものでしょう。
この二人は、お互いがいなければ生存できません。
その状況を受け入れ、お互いを求めあった仲なのです。
つまり、死ぬときも一緒、生きるときも一緒、それを誓い合った仲と言うわけです。
この物語では、そのお互いを求めあうに至ったプロセスを描いてきました。
キスショットは、瀕死の状態から救ってくれた阿良々木に報いたいと思ってきました。
そんなキスショットの気持ちを知った阿良々木もどうにかしたいと思いました。
そして、お互いに傷を負ったまま、お互いを求めあう道を選んだのです。
こうして二人の物語が始まったのです。
「傷の舐め合い」と言う1つの言葉。
これをあらゆる方向から見て、その1つ1つの要素を物語にする。
そして、そこへ至るまでのプロセスまでをも物語にする。
とてもすごいことだと思いました。
■まとめ
この作品では、大きく二つの見どころがありました。
1つは、体育倉庫に閉じ込められてしまった羽川と阿良々木のシーン。
このシチュエーションで二人っきりとは・・・。
この後どういう展開が待っているのかは、容易に想像できちゃいますよね。
とても面白い二人のやり取りでした。
そして、もう一つは、キスショットと阿良々木の戦闘シーン。
二人の不死身な体質を存分に活かした、ほんとうに滅茶苦茶な展開でした。
他ではまず見られない、かなりぶっ飛んだ展開がとても面白かったです。
最後は、あることに気づいた羽川が、この二人の間に飛び込んできます・・・。
これで、阿良々木と忍と羽川の三人の間に何があったのかが分かります。
とても見応えがある作品だったと思いました。
次は、『終物語(まよいヘル/ひたぎランデブー/おうぎダーク)』です。
いよいよクライマックスですね。
この『傷物語』は、"終わり"の直前で"始まり"を見せてくれた形になります。
"終わり"に向かって、これ以上の盛り上げ方はないのではないでしょうか。