nyaro さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
自己犠牲に理屈も宗教もないので救いがないです。だからこそ一度は見るべきです。
自己犠牲…の一言で片づけていいのか、ですよね。ハリウッド映画で一時自分の身を挺して世界を救うような結末が結構流行りましたね。それはブッダのアッシジのエピソードのように東洋的でもある一方、旧作1972年版のポセイドンアドベンチャーの例もありますので、ハリウッドも必ずしも一時の流行だけではないということでしょう。つまり、キリスト教圏でも共通な感覚が持てるかもしれません。人間として世界共通なのでしょうか。
ただ、こういう自己犠牲って愛するものを守るとか宗教的な理念とかそういう動機がありますよね。本作のやりきれないのは、こういう後に残るものに対する犠牲になる意味が必ずしも理屈がないことだと思います。そこをそれぞれの現在の苦悩とか問題などのバックグラウンドを見せつつ、その問題との向き合い方とあわせて死に至るまでのプロセスと内面を描き切りました。
少年少女ですからね。この究極の理不尽に対して、一人また一人というのが本当に辛かったです。
残されたものを守りたいという気持ちがなければ、自分が死ぬということはつまり世界の終わりと等価です。いずれにせよ無に帰るわけです。本作は明示はしていませんが、SF設定から言って宗教的な来世のような希望を排除し死ねばゼロになる感じを出していました。これが本当に残酷です。一人で死ねないので集団で自殺…みたいに甘えることさえできません。結果的にみんな同じ立場ですけど、死ぬときは一人…というのがあまりに残酷でした。
この一人一人の死ぬ理屈を丁寧に描き切った本作は、ちょっと類例がないですね。そして直接会話はないですが「敵」も同じ立場ですね。例の {netabare}あの戦わない決心をした{/netabare}相手…どうやったらこんな話を考え付くんでしょう。とにかく喪失感もすごかったですけど、死んで無になる覚悟とは?とかなり引きずりました。
結構前に見たときは、アニメへの感情移入が今ほどではなかったので見られましたが、駄目ですね。年齢を重ねてアニメの見方を覚えると。アニメをクールに見られる若いの内に見ておいた方がいいと思います。経験を積めば積むほど辛くなる気がします。アンインストールを聞くと今でも胸が痛くなります。
ただ、長じて気が付いた事が、死を目の前にしたからこそ自分や周囲と向き合えることもある、という点ですね。これが一つの救いでした。これを不幸中の幸いととるのか、死んだように生きるくらいなら短時間でも本気で生きろととるのかは問題ですけど。
反戦ものではないですけど、命というものをとことん考えるきっかけになると思います。再視聴は厳しいかもしれませんが一度は視聴したほうがいいと思います。
私は特にダイチがちょっと無理です。ただ、考えてみればダイチには理念があった分幸せだったかもしれません。
2022年現在、ポピュリズムが蔓延して、人類、世界、他人、コミュニティー、家族、友人よりも自分の命という感覚にシフトしているかもしれません。本作が語る自己犠牲が通用したゼロ年代中盤以前と同じ感覚で視聴できない人が増えているかもしれません。「フィクションだよなあ…お話だよ」で終わってしまうかもしれないですよね。
なお、SF的には多元宇宙論(というより並行宇宙論ですか)を非常にうまく設定に組み込みましたね。まどマギのレビューの時に忘れていましたが、インキュベータは本作からの発想だよなあ、と思います。あとイスを上手く使っているのがほむらの部屋っぽいかな…ちょっと違うか。