レオン博士 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
彼らも私たちも同じこの世界の片隅にいる一人
今、世界は未曽有の危機にさらされています。
私は差し迫った脅威を目の当たりにして、数年前に映画館で見たこのアニメを思い出しました。
本当はこの映画、なかなか簡単に言葉にできるような映画じゃなくて、感想を書くのはためらわれたのですが、今いちばん見るべき映画だと私は思ったので紹介させてください。
視聴したのは数年前なので当時の記憶を思い出しながら書いてますので細かいところが曖昧ですが、多少の間違いはご容赦ください。
間違いがありましたら教えていただけると嬉しいです。
先にこの映画を簡単に評価すると、昭和初期の田舎に生きる一人の女性の半生を物語にしているところがかなり良くできていて、苦労することが多いけど必死に生きるすずを見て応援したくなったし、どんなつらいことや困難なことが起きても未来を見据えて生きる強さが感じられてとてもいい話でした。これだけでもかなり見ごたえがある映画でした。
特に好きなキャラクターはケイコさん。
たしかすずの夫のお姉さんだったと思うけど、最初すずにつらく当たっていて嫁姑問題じゃないけど、嫌な感じのきついお姉さんでした。
{netabare}
それが戦争で娘を失って、一緒に連れて歩いていたすずのせいで死んだって当たり散らして怒りぶつけて
すずは悪くないんだけど、ケイコさんが怒る気持ちもわかるし、可愛そうだけど仕方ないのかなって思っていたら
ケイコさんはそんな安っぽい人じゃなくて、はるかに器の大きい人で
次第にすずを責めるのをやめて逆に手を地雷か何かで失ったすずのことを気遣って、たしか代わりに家事やってあげてたんですよね。
それで、すずがどういう理由か忘れたけど責任感じて?家を出ていこうとしたときに
「すずがここにいるのが嫌じゃないならすずの家はここだよ」っていうような言葉をかけてくれて、その言葉の暖かさに思わず泣いてしまいました。
あんなに冷たくきつい言葉言ってたのに、すずの頑張りがケイコさんに認められていたんですよね。
大切な家族の一員として認められたんですよ。
それが嬉しくて、泣いてしまいました。
{/netabare}
そんな何気ない女性の半生に突然襲い掛かってきた戦争の悲惨さ。
詳細は忘れましたが、戦争の音が凄かったんですよね。
空襲とか、警報とか、爆発とかのけたたましい音があまりにもそれまでのすずの日常とかけ離れていて一気に不穏な空気になって不安と恐怖に襲われました。
ただ見ているだけでもこんなに怖いのに、実際に体験した人達はどれだけ恐ろしい想いをしたのでしょうか?
これは私の言葉よりも、実際に映画を見てもらったほうがいいと思います。
「この世界の片隅に」というタイトルのセンスが凄い。
これ以上ないってくらい的確でメッセージ性の強いタイトルだと思う。
{netabare}
一人の女性の半生をしっかり描いたうえで、唐突に彼女の人生に土足で踏み込んできた「戦争」という暴力のインパクトの大きさ。
日常という現実と、戦争という非日常の対比
柔らかいタッチの絵と、それに似つかわしくない圧倒的な暴力の対比
あえて可愛らしい絵で描いたところが効果的だったと思うし、話の構成が見事でした。
私は当時、どんなアニメなのか知らずに見に行ったんです。
すごい映画だから見たほうがいいって学校の先生に紹介されたのがきっかけでした。
私は先生の勧め通り、特に下調べもせずに映画館に行きました。
まず、とても優しい感じの柔らかいタッチの絵で当時の田舎の女の子の人生を描いていて、主人公のすずは幼少期を過ごし、仕事をして、結婚して、嫁ぎ先での人間関係に苦労して、昭和初期の田舎の女性の一生を描いた作品なのかな?と思って、歴史が好きなので当時の暮らしは興味深くて、楽しく見ていました。
そうすると、軍艦とか徴兵とかなんか不穏な空気が漂ってきて、あれ?これ戦時中なの?って思って、戸惑っているうちにすずが広島に向かおうとしている話になって、その時はじめて事の重大さに気づきました。
そして、広島という地名の意味も。
たしか、最初は爆心地から結構離れたところから物語が始まったような気がするんですよね。だから気づくのが遅かったのもあると思うんですが
でもなんでもっと早く気づかなかったんでしょうか?
私は平和ボケした頭だったので、こんな誰でも知っているエピソードなのに深刻な事態になるまで全然気づかなかった。
気づいたときに血の気が引きました。
ダメだよ、広島に行っちゃダメ!って叫びたかった。
でも知らなかったからこそ、すずの視点で見ていかに戦争が唐突で無遠慮で無機質で、日常生活を破壊する暴力でしかないかってことがよくわかりました。
そしてそれまで戦争とは無縁の田舎暮らしをしていたすず達を襲う容赦のない攻撃、そして原爆のあまりに過剰すぎる破壊力。
すず達はたしか戦争で日本が大変なことになっているなんて知らなかったんですよね。それまで戦争なんて単語出てこなかった気がするので。
だからこそある日、急に襲い掛かってきた戦火になすすべもなく生活を破壊されることの理不尽さ、戸惑い、怒り、悲しみが伝わってくる。
そんな理不尽にさらされても精一杯生きようとするすず達を見て、ストレートに戦争の惨さを伝える映画よりも戦争の残酷さや理不尽さがより際立って見えました。
衝撃を受けました。
私は自分の気持ちをどう受け止めていいのか、どう表現したらいいのかわからなかった。
上映が終了した時、私も一緒に見ていた友達も、一言もしゃべりませんでした。
ふつうは見終わったら感想を語り合うけど、そんな気持ちになれなかった。
うまく言葉にできなかった。
かわいそう、かなしい、許せない、戦争怖い
そういった言葉が次々浮かんでくるけど、どれも陳腐な気がして。
そんな言葉では足りないって思った。
そんな安っぽい言葉で片付けちゃいけないって思った。
たぶん、友達も同じ気持ちだったと思う。
ただ、戦争は絶対起こしてはいけない。
それだけは疑う余地がなかった。
戦争は軍人同士で行うもの、軍人にとって敵国の軍事基地や発電所など重要な拠点を攻撃するのは当然のことで、民間人が死んでも犠牲はつきものだと思っているかもしれないけど、その「犠牲」になる人達一人一人に人生があって、必死に生きてるんですよ。
今、起きているロシアによるウクライナ侵攻だって同じことです。
ロシアにもウクライナにも都合があるんだと思いますが、その都合によってそれまで戦争とは無縁だった人々が、突然襲われて突然生活を破壊されて、命を奪われています。
こんなことが許されていいのでしょうか?
これはウクライナの人だけじゃなくて、私たち日本人も他人ごとではないですよね。
もしかしたら、こうやって感想を書いている時にもいきなり爆撃を受けて、すでに戦争が起きていることにも気づかないうちに一瞬で命が奪われることもあるかもしれません。
この映画を戦争をしている人達に見せたい。
あなたが、ただの80億分の1だと思っている人達の一人一人にそれまで生きてきた歴史があって、一人一人がその物語の主人公なのです。
主人公は、一度死んだらそこで物語が終わりなのです。
その人生を奪う権利が、一体誰にあると言うのでしょうか?
他国の民間人の一人一人など気にも留めていないかもしれませんが、80億人の一人一人が今日もこの世界の片隅で、一生懸命生きています。
戦争は悲劇と憎しみしか生みません。
人類はまだ100年もたたないうちにそれを忘れてしまったのでしょうか?
{/netabare}