栞織 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
宮崎監督の本気
ジブリについて久しぶりに感想を書きます。
この作品、最近岡田斗司夫さんがいろいろ動画でコメントしていて、私も楽しく拝見させてもらっていますが、サンやカヤの男女の恋愛については、特に作画はそこまで考えて描いていないのじゃないかと思っています。しかしサンがエボシの子供だったとか、モロやシシ神に捧げものとして捨て子に出されたという説は、説得力があるなと思って見ています。おそらくそういう裏設定でセリフは書かれているものと思います。
とにかく宮崎監督はこの作品ではかなり博学な知識を惜し気もなく投入して描かれておられて、こちらがそこまで知らない事が多い事に気づかされます。そのひとつがサンの衣装で、私は初めて見た時は民俗学的にこの衣装に違和感を覚えたのですが、今はそうでもありません。アイヌよりももっと北の北方系狩猟民族風で、しかし日本の南方の出雲地方にいる感じに合わせたものと思って見ています。そしてそういう、アニメ界をよく知らない人にも合わせた一般人向けのものにもなっているのですが、当時のアニメ界を見ていて感じたことは、この作品は「The八犬伝」と「ガンダムW」の間に起きたある騒動に取材して作られているという事です。
「ガンダムW」の池田監督は、「サムライトルーパー」を手掛けておられて、それは南総里見八犬伝を下敷きにしたものでした。しかしそれは、特撮作品ぽく作られており、本当の滝沢馬琴の描いたものとはほど遠いものでした。そんな中、「天空戦記シュラト」などのスタッフを中心に、「トルーパー」の後に「The八犬伝」が作られました。それは「ガンダムW」放映直前に完結し、滝沢馬琴の話にかなり忠実に作られた作品でした。そしてその中に、サンのような毛皮の歌舞伎のかぶりものをかぶった、犬山道節という一種の美形キャラが登場します。言いたくないのですが、この毛皮のかぶりものと「サムライトルーパー」の「輝煌帝伝説」の真田遼の野球少年のようなTシャツの衣装が、サンのデザインの元になっていると思います。それらは、どちらも八犬伝というくくりでくくることができます。
それに対して、敵対するエボシは、扇の模様の衣装を着ています。これは一見道節の仇討ちの相手の扇谷定正の名前から取られた風ですが、本当はそうではないのでしょう。あのタタラ場は、当時アニメ界を席巻していた「ガンダムW」や「エヴァンゲリオン」などの、「The八犬伝」や「サムライトルーパー」を全否定する作品を作っていた側を暗示していると思います。そういう「揺れ戻し」がアニメ界全体に起きていました。おそらく戦前の教科書に掲載されていた八犬伝を否定したい、戦中派の人々が、その気勢をあげて起きた出来事だと思います。そのような「国策」に乗っ取った八犬伝を持ち上げるな、と言いたかったのでしょう。
しかし私は言いたいのです。滝沢馬琴の描いたもともとの八犬伝は、そのような物語ではありません。「The八犬伝」でもその片鱗は出てきます。主人公の信乃は信じていた者に何度も裏切られるという展開になっています。それは主君への忠義を説くような物語ではありません。忠義忠君というのは江戸時代らしい「建前」で、本当はそのような事が目的で書かれた作品ではないと思います。戦前はその「建前」の部分だけ拝借し、国策として利用したのです。
宮崎監督はおそらくその事を知っていたのではないでしょうか。サンたちを良き者として描いているからです。もちろんそのような見方で「もののけ姫」を見る事は、正当ではないと思います。しかし当時私はそう思い、なんとも言えない気持ちでいました。そしてこういった事は、あの岡田斗司夫さんは、決して口にはしない事です。