「三者三葉(TVアニメ動画)」

総合得点
71.4
感想・評価
607
棚に入れた
2865
ランキング
1357
★★★★☆ 3.6 (607)
物語
3.4
作画
3.7
声優
3.5
音楽
3.6
キャラ
3.7

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ネタバレ

ナルユキ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

ネタのためなら男も出すし毒も吐く。それが萌え4コマ“きらら”の原典

俗に「美少女動物園」とか「中身がない」なんて悪口も書かれがちな“きらら作品”の大御所。2003年から2019年のおよそ16年もの長期連載を誇るのだが、アニメ化はとても遅かった故に「アニメ化の弾が少なくなったので渋々と決定したんだろうな」とか「同じ作者の『未確認で進行形』のアニメ化が成功したからいけると思ったんだろ」なんて憶測もされる不憫な作品だ。
しかし美少女動物園……これを言う人が仮にガンダムが好きだった場合、ガンダムが「ロボット展覧会」なんて呼ばれたら嫌な気持ちにならないだろうか?「中身がない」という指摘も、私は「(自分には)中身が(見出だせ)ない」と文脈をつないで解釈している。
何が言いたいかというと、こうやって貶める人が沢山いるように見えてもやっぱり日常系は素晴らしいジャンルであり、本作はその系譜の相当、上に位置しているのである。

【ココがすごい!:OP『クローバー☘️かくめーしょん』の中毒性高い音楽と作画】
本作はOPがかなり特徴的。かなり中毒性が高く「電波ソング」と言って間違いない。
1話の冒頭からドンッと始まる力強くもキャピキャピとした歌い出しに、やたらと長く頻繁に挟まれる合いの手。そして日常系作品の自虐かと思ってしまうくらいに歌詞には「普通」「一般的」「かしましいだけ」といったフレーズが使われている。まるで昨今の日常系への心ない評価に「はいはいわかってますよ、どうせ私たちは美少女動物園の見世物ですよ」と拗ねてしまっているようで、既に可愛いのである。
毎話、その話の中のシーンがOPに台詞付きで盛り込まれるというのも斬新だ。本編をちょい出ししておくことで視聴者の興味を惹き付ける効果も期待できる。
そして細かい女の子の動き。流石はアニメ制作会社「動画工房」といったところか。最近だと『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』で評判を落としてしまったが、5・6年前であれば該社の描く女の子の可愛さには定評があった。
とくに本作は葉子様の長髪のたなびかせ方に並々ならぬ拘りを感じる。ネコに見惚れてフニャフニャと構い出す照ちゃんも、ご飯もパンも美味しそうに頬張る双葉も躍動感がある。他にもメインキャラを中心に驚き、動揺、喜びなどの顔の表現にもアニメ心が伝わる外連味溢れる作画が視聴者をドキッとさせてくれる。デフォルメ顔もあるにはあるが、それが通常のキャラデザと上手く混ぜ込んで丁寧に作られており、違和感を感じさせない。

【ココが面白い:古典的?当然です、わたくしが「元お嬢様」キャラの元祖です!】
アニメ放映当時ではもうすっかりよく見かけるコメディリリーフとなった「似非お嬢様」もとい「元お嬢様」キャラだが、マンガ連載当初で考えれば西川葉子(にしかわ ようこ)ほど前にいたキャラはそうはいないだろう。自分は『おぼっちゃまくん』の貧ぼっちゃまくらいしか知らんなぁ……って男キャラやないかい(笑) いやマジで前例ありませんよこの娘より前の元お嬢様キャラ。
アニメではそんな彼女を主役として推し出している。作者の荒井チェリー氏は小田切双葉(おだぎり ふたば)を主人公として描いていたらしいが、やはり葉子様の方がキャラクターとして強烈だ。かつては資産家の娘でも第1話から既に落ちぶれてしまっておりパンの耳をボソボソと食べる毎日。そんな日々を偶然にも双葉と照に見られてしまい、そこから始まった友人関係を大切にしようとする葉子様の健気さがストーリーとしてきちんと真芯に入っている。貧乏生活も始めから板についており、話のオチとして彼女の貧乏性で締める喜劇が「面白い+可愛い」で二重に笑える。
続々と投入される新キャラには嘗て葉子様が正真正銘のご令嬢だった時の大分変わった元使用人・山路や元メイド・薗部などの愉快なメンバーも登場し、OPにあった「ナナメウエの日常譚」を盛り上げてくれる。財を失ってもお金には代えられない“人望”があるのが葉子様と他作品の元お嬢様キャラと一線を画す魅力なのです!

【でもココがひどい?:きららにあるまじき煽り合い!?】
「一線を画す」と言えば、本作は「まんがタイムきらら」の黎明期から連載されていた作品である故にその系列が後に確立した「ゆるふわやさしいせかい」や「女の子オンリー」といった特徴をそこまで強くは持っておらず、代わりにエッジの効いた“ギャグ”や“毒舌”に重点を置いている。この内、毒舌の成分がよく出ているのが腹黒委員長の葉山照(はやま てる)と彼女に対抗心を燃やす西山芹奈(にしやま せりな)の煽り合いだ。
「『5~6人の女の子が出たら全員仲が良いに決まってる』なんて幻想を抱く奴ぁ、木組みの街に帰るんだな……」と言ってるかというくらいにまあ、いつまで経ってもこの2人は仲良くならない。直情的で何にでも照に突っかかって優位に立とうとする西山に、対する照の毒舌がきらら系にあるまじき尖り方をしている。
{netabare}8話ではその毒舌を抑えようとした分が決壊して「色々面白かったけど、図に乗った西山さんが一番面白かったわ」なんて台詞が出るくらいだ(笑){/netabare}
{netabare}毒舌は双葉にも容赦がなく、双葉が趣味を「料理」と言ったら「一生において最もつまらないギャグ」と返す。信じられないにしても言い過ぎなので思わず吹き出してしまった。まあ双葉も双葉で山路の「病院に行きましょう!」という台詞に爽やかな笑顔で「お前が行け」なんて言う一面もあるので、この作品にはいつ誰が唐突に毒舌を吐くのかわからない面白さと一抹のハラハラ感がある。{/netabare}
『けいおん!』やごちうさ、『ひだまりスケッチ』などできらら系を嗜むようになった方には面食らうような描写・台詞ばかりだが、これだけ言葉の応酬がありながらも『NEW GAME!!』のような深刻な仲違いは描かれないので安心(?)して観てほしい。

【そしてココもすごい!:小田切双葉に「アホの娘」感を与えた名声優!いや迷声優?】
「どれ観ても似たような声しか聴かないな~」と思っている方にも本作がオススメだ。小田切双葉役の金澤まいさんは非常に特徴的な声の持ち主である。
「あ゜」とか「う゜ぇ」などまるで母音に半濁点をつけてるかのような演技で、大食い以外は至って普通なキャラクターにどこか頭の弛そうな印象を与えてくれる。初めて聴くと「ん?下手くそ?」と思うかも知れないが、棒読み声優とは違って滑舌はハッキリとしているし、聴いてる内にあそこまでアニメアニメした声質も中々ないと気づける。同じ声を出せるのは『おジャ魔女どれみ』シリーズの主人公・どれみ役の千葉千恵巳さんくらいしかいないのではないだろうか。
その特異な声質ゆえに本作以外に目立った活躍はしていないようだが、だからこそ本作には“金澤まいさん主演作”という希少価値がある。彼女が命を吹き込む小田切双葉は原作以上に可愛くて面白く、ずっと見せる大食いの描写や時折つぶやく毒舌の描写とベストマッチしている。

【他キャラ評】
葉山光(はやま こう)
作中最強キャラ。「バトル物じゃないのに最強ってどういうこっちゃ?」と思うかもしれないが、まあこう言い表すしかない(笑)
何気ない会話にもイニシアチブがあるということで、悪気は一切無いが関わった娘は漏れなく無事では済まないという流れがまた面白い。
所謂メシマズキャラであるのだが、それは彼女の「栄養が第一」という価値観によって味が二の次にされてるからであり、「どうして味見せずに人に食べさせるんだ」というツッコミは彼女には不適格なのである(笑) カラダにいいのはおいしくないものだよ?
{netabare}8話では『三瀬川』という唄を披露するのだが「綺麗な声だが音程が微妙に外れている」という照の評価を完全再現しており癖になる中毒性だ。聴き続けると本当に死んでしまうかもしれない(笑) {/netabare}

近藤亜紗子(こんどう あさこ)
作中のラスボス(公式)。「バトル物じゃないのに(ry
西山が照に突っかかる→照の毒舌で西山が言い負かされそうになる→フォローしようとして出た言葉が完全に西山のトドメになるという御約束が本作最大の楽しみではないだろうか。
光といいこの娘といい、本作は“天使”に例えられるキャラクターでもどこかしら黒い部分を持っていて、従来の日常モノには備わっていない刺激の強さがあり退屈しない。

辻一芽(つじ はじめ)
辻小芽(つじ ささめ)
正直7話という後半から登場だったからか、あまりその魅力を出しきれていなかったかなと感じる兄妹。アニメの範囲だけだと「ウザい」って感想で終わってしまうかも……妹は可愛いんだけどね。
やっぱり原作の一芽は照の黒い部分を全く認知せずに惚れて「照には良いとこ見せたいけど双葉が邪魔だ~」という複雑な関係に持ち込んでからが面白いから、奇跡の2期があれば期待します。


【総評】
アニメ化が大きく出遅れてしまった故に後輩分だった他作の日常系・きらら作品にネタを粗方やられてしまった形となり、それらの原典とも言える本作のアニメだけの印象では今一つ“凡庸”と思われてしまうかもしれない。序盤では本作の個性──例えば『ゆるキャン』なら女の子+キャンプ、ごちうさなら女の子+喫茶店といった「+α」の部分──が見えにくく、最近のアニメで重要視される第1話の掴みがやや弱いので早々に切られないか心配な滑り出しだった。
しかし本作の持ち味はやはり“ギャグ”と“毒舌”であり、キャラクターが喋れば喋るほど、ふざければふざけるほどという「話数の積み重ね」で魅力がぐんぐんと増していく、尻上がりに面白くなるタイプだ。キャラクターが足される毎に作品の雰囲気が賑やかになりつつ、メイン3人の新しい魅力が掘り下げられて面白さが徐々に出てくる。物語の凡庸さをキャラクターで補う“日常系”の醍醐味をしっかと押さえた作品である。
{netabare}長期連載作品ならではの豊富なエピソードを厳選・再構成し1年間の日常、そして「葉子様の成長物語」という側面も推し出してくれたのは葉子様ファンにとって嬉しい所だ。双葉と照、そして様々な登場人物との出会いで孤独(ぼっち)を解消し、様々な体験を経て3月、「現在の自分」を受け入れる姿は感無量だ。最終話の刑部さんとの再会とその対応、そつなくアルバイトをこなすシーンは山路でなくとも感動モノである。{/netabare}
00年代の漫画が連載終盤に異例のアニメ化。慌てて10年代の作風に合わせた弊害で原作初期とはちぐはぐな部分も出てしまったが、作画厨界隈で専ら人気絶頂期だった動画工房が『未確認で進行形』のノウハウを活かした美麗なキャラクターにリメイクし、OP・EDともに中毒性の高い良曲に恵まれて
本作のクオリティは中々────いや、とても高い。毒を交えた日常会話劇は昨今の日常系に慣れ親しんだ人にはギスギスと感じてしまうかもしれないが、それこそが本作の“中身”であり決して「中身がない」とは言わせない。そんなコメディチックな作りで観る人をそこそこに笑わせ、満足させてくれる。日常系が好きな人もそこまでではない人にも、変な憶測を真に受けずに最期まで観てほしい。そんな風に思えるまで惚れ込んだ作品となった。
それでもいま一歩、踏み込めないという方は「三者三葉 ボイス付き4コマ」で検索、検索! 荒井チェリー氏の漫画に当時のキャストが台詞を吹き込んだ短編動画が観放題ですよ♪

投稿 : 2022/03/15
閲覧 : 320
サンキュー:

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