かがみ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
異界としての怪異
人はその成長過程で世界を「見えるもの」だけで囲い込み「見えないもの」を切り捨てていく。けれどもその一方で「見えないもの」はしばし「異界」とも呼びうる体験として回帰する。
この点、思春期は「異界」に最も接近する時期である。本作はこうした思春期における「異界」との遭遇を「怪異」として描くある種の寓話ともいえる。本作に現れる様々な「怪異」を敢えて分析心理学的な用語で分類すれば、おそらく戦場ヶ原の蟹はグレート・マザー、八九寺の蝸牛はトリック・スター、神原の猿はコンプレックス、千石の蛇はペルソナとアニマ、羽川の猫は影という風に、それぞれ関連付けることができる。
臨床心理学者、河合隼雄氏は心理療法の場面においてしばし顕在化する「見えないもの」の位相を〈たましい〉という名で呼んだ。ここでいう〈たましい〉とは身体と精神を統合する超越論的な場を指している。そして氏は〈たましい〉は〈だまし〉として現れるという。「異界=怪異」との遭遇はまさに〈だまし=たましい〉との遭遇なのである。
人は世界に棲まう上で自らの生の物語を必要とする。そして「異界=怪異」との遭遇は、その生の物語を紡ぎ直す契機ともなる。だからこそ人は勝手に1人で助かるのである。いやむしろ、人は勝手に1人で助かることしかできないのである。本作はなかなか言語化が難しいといわれる異界体験を見事なまでに「物語」として描き出していると思う。