桶狭間スイッチ さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
湯浅的異世界
もうね、天才が作ってるアニメだから理解して観ようとすると頭パンクしそうになる。
練られ過ぎたSFファンタジー、売れる条件学園モノに、超能力、宇宙、宗教、趣味と作者の「癖」とも言うべき物がマニア的なレベルでトッピングされ、それを最後色恋で纏め上げる尋常じゃない構成と脚本力。
アタマん中ハッピーセットじゃなきゃこんなん作れん。
物語概略は、パラレルワールドに飛んだコピー達が、成長しながら各々旅や帰還を目指すというものだが、
毎話毎話の急転直下のテンポと出てくる事象や能力、絵に隠された意図、オマージュ、背景、メタファーの多さが尋常じゃねぇ。
バベルの塔や天国の階段、太陽崇拝のピラミッド的重労働、日本百鬼夜行に由来する人語を喋る妖怪ネコの猫又(猫又は老婆を食う)、エジプト神話のアメンホテプの獣神モチーフの犬、不治の奇病を持ち込む黒い男のギリシャ寓話、天を目指した罰にゼウスが大地を割った崖でまさかのポータレッジ(ヒルクライマーが崖で寝る為のテント)
ノアの箱舟は黒の正四面体、ユダヤとキリストの聖地エルサレムにある聖墳そのもの。
舟の中身はちゃんと土くれで作ってるし、動力は賢者の石。
さらにそれらの宗教的な背景や時代感とかに絶妙に合わせたコピー達の特殊能力。
例えばバベルの塔で怒りを買った神は天に落とす罰を人に与えた。その世界を作ったコピーの超能力は天地逆転。
最後はアポロ計画を彷彿とさせるバリバリの工業製品ゴリ押しでディスカバリーよろしく帰路への宇宙旅行。
物語がパラレルワールドであるため、宇宙観的物理解釈もちゃんとしてる。
光速度達しても闇が覆い無音だったり、世界ごとに時間の流れが異なってたり、ワームホール的描写もあったりする。
重力操れるアイツだから、軽く太陽圏突破した距離にも馳せ参じる事が出来るのアイツだけとか、妙に矛盾が無いんだよなw
もう枚挙に暇がないのでこの辺にしとくが、一つ一つのディティールや作り込み、スケールが尋常じゃない。尋常じゃない何度も言ってる気がするが。
最後、不人気キャラに記憶失くしたヒロインとくっ付くエンドに泣き崩れる視聴者が多いらしいが、
物語全体を俯瞰すると、1人の少女が亡くなる未来を変えてるんだよね。
何もできない冷たい男だった主人公が、ヒロインを救っている。
それこそがこの物語の真のハッピーエンド。
そして面白くも想像を掻き立てるのがラジダニ。
彼は最終的に歳を取らないパラレルワールドで「森になった」と明言される。
これだけの文言だと首を傾げるが
、物語を追った視聴者はストンと腑に落ち、死の無い世界で彼が満足の死を遂げた事を理解する。
終始彼は賢く、知的好奇心に溢れた根っからの研究者気質のキャラだ。
知らない事は調べ、追い求める。
皆を導くノアの箱舟には乗らず、自分だけのルールが支配する決闘雪原にも、燃える孤島にもしない。
彼は一人で未知の冒険を選んだ。望郷も救済も望まなかったのはやはり彼の知的好奇心ゆえだろう。
ただ月日は長かった。
2000年の旅路で色々な世界を見て来たと友人の葬儀に話していた。
無限の世界にも死を発明した者、死にも色々あること。ホームシックの国を見て彼はホームシックを学んだこと。やはり望郷を持ち合わせてはいなかったが。
2000年で彼の冒険は終わりを迎える。
好奇心の旅だが、それは救済であり、死を探す旅だった。
それから3000年は彼が選んだ森で過ごしたんじゃないかと思う。
望郷のロケットに乗らず、風呂に入る事さえ後回しにする、知的好奇心の旅は終わった。
彼なら森中の動物と会話できるぐらいになっていたかもしれない。
そこで彼の脈動は止まる。
永遠に落ち続け中身を空っぽにする死でも、電気椅子に座る死でもない。
彼は森になった。
5000年で犬になったやまびこのように、彼は森になった。