ひろたん さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
透き通る青い瞳のヴァイオレットは、なんで、泣いているんだろう
紫のスミレ(ヴァイオレット)の花言葉は、そのまま「愛」。
そして、この作品のテーマは、「「愛」を知りたい」。
この物語は、最初から最後まで、そのテーマがブレることはありませんでした。
■手紙について
ヴァイオレットは、代筆を通して、いろいろな愛を知っていきます。
この作品を観るまでは、「愛」というものをどこかぼんやりと考えていました。
しかし、「愛」には、いろいろな種類があることをあらためて気づかされました。
また、「愛」には形があることも分かりました。
「愛」は、心の中にあります。
しかし、そこにあるうちは、極めて漠然としています。
それを、手紙にするとは、どう言うことでしょうか。
それは、「愛」と言う漠然としたものに1つの形を与えてあげることです。
その形は、人によっては、何十行にわたるかもしれませんし、1行かもしれません。
内容も、「待っています。」、「会いたいです。」など具体的かもしれません。
逆に、ただただ「愛している。」だけかもしれません。
いずれにせよ、形にすることにより「愛」には実体があることが分かるのです。
そして、実体があると言うことは、それは”手”でふれることができます。
だから、その象徴が”手紙”なのです。
ヴァイオレットは、いろいろな人の気持ちを手に取りふれられる形にしてきました。
そして、自分の中にある「愛」も自分でふれて確かめられるようなっていきます。
それが、「愛」を知るということにつながっていきます。
■作品について
この作品の絵の綺麗さ、表情や仕草の繊細さは語りつくされているでしょう。
私も、ただただすごいなと思いながら観ていました。
その中でやはり一番印象に残ったのはヴァイオレットの透き通る青い瞳。
これはアニメなのかと思わせるその瞳は、ただただ透き通ってこちらを見ています。
私も見入ってしまいました。
この作品は、もちろん突っ込みどころが無いわけではありません。
大佐はヴァイオレットを拾ったと言いましたが、背景が分かりません。
また、こんな義手をつくれる技術力があればタイプライターなんかいりません。
雪山の中で会ったこともない依頼者をピンポイントで特定できるのはなぜでしょう。
最後はハードボイルドアクションですが、リアリティが足りていません。
いろいろあります。正直言って、ありすぎるぐらい。
でも、私は、まっ、いいかなって思っています。
良くも悪くも同じことが続く日常系にピリオドを打っています。
もし、あのまま代筆を続けていくだけのお仕事物語なら逆につまらないです。
ヴァイオレットは、少佐との壮絶な離別を経験しています。
その悲しみを克服し、愛を知るためには、それ相応のドラマがないと。
そして、なによりもどんな手段を講じてもテーマを完遂してみせる。
そんな意志というか、執念のようなものをこの作品からは感じました。
たとえそれが、突っ込みどころ満載の設定だったとしてもです。
私は、こう言う不器用さは嫌いではありません。
むしろテーマがブレないことの方を評価します。
なんでもかんでも整合性を保とうとして無難になるよりは、はるかにマシです。
■テーマについて
この物語は、ヴァイオレットの『「愛している」を知りたい』が出発点です。
ヴァイオレットは、物語の後半にいくほどよく泣くようになります。
透き通る青い瞳のヴァイオレットは、なんで、泣いているんでしょうか。
その「なんで」が分かった時、愛を知り、新しい一歩を踏み出せます。
ヴァイオレットが泣く理由は、最初と最後では変わってきます。
最初の泣く理由はこうでした。
ヴァイオレットは、武器として人を殺めてきた過去があります。
愛を知り始めたときに、自身の過去とのギャップに苦しんで泣いたのです。
なぜなら殺めてきた人たちにも愛する人がいるということが分かったからです。
しかし、これ以降、ヴァイオレットが泣く理由が徐々に変化していきます。
最後にヴァイオレットは、はじめて自分の手紙を書きます。
それは、自分の中にある「愛」を形にできたということです。
形にできたということは、ふれられるということです。
義手は、今まで、「愛」には、ふれてはいけないもののような象徴でした。
その義手で初めて自分の「愛」を形にし、ふれることができました。
それは、つまり、「愛」を知るとことができたということです。
最後のシーンでも、やはりヴァイオレットは泣いています。
TRUEさんが歌うOP曲「Sincerely」。
意味は「心から、真心込めて」で、手紙の"結び"に使う言葉です。
とてもこの物語にあっているいいタイトルだと思います。
そして、この曲に次の1節があります。
「わたし なんで 泣いているんだろう」
「心になんて 答えたらいい?」
きっとヴァイオレットは、こう答えるでしょう。
「私は 今 愛しているも 少しは分かるのです」
これは、少佐への手紙の内容です。
しかし、私は、同時にヴァイオレット自身の「心」への答えだったと思うのです。
ヴァイオレットは、最初は「心」を持たない道具と言われていました。
でも、最後には「愛」している、その答えを受け止められる「心」を持ったのです。
この物語は、手紙の"結び"のように、ちゃんとテーマを結んで終わりました。
■終わりに
この物語は、とても小説的なお話だったと思います。
面白い小説は、すぐれた心情描写で、登場人物の心が手に取るようにわかります。
この作品もそんな心情描写を、しぐさ、顔の表情、瞳の輝き、背景等で表現します。
まるで小説を読み終わった後のような気持ちにさせてくれた作品でした。