waon.n さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
説得力を持たせる事
1クール目からの続きになっています。
17話『再会』を観たところでのレビュー。
今回途中でいったんレビューを書きたくなったのは、17話目がとても良い演出だったから。
細かい演出により視線を誘導し、見せ場でいかんなく発揮されるアニメの表現力。一回見て、もう一度見直したくなるほど。
一回目では気づけない所や、一回目でうなった演出の前後が気になる。そこに至るまでのルートが洗練されています。
脚本、絵コンテ、演出が良い。
その17話で絵コンテを書いているのが、あの長井龍雪だったから驚きだ。いや納得ともいえるんですが。
洗練された脚本もすごいし、絵コンテに起こした時に割ったであろうコマの使い方がすごく良いです。
なんで、パウロが髭を触るカットをアップにしたのか。それは心象を映しているからだ、そして、その後の展開まで彼の顔がようやく移った時の表情を印象的に魅せるためのレイアウトです。
バーの店長が横目で見た先にルディとパウロがいるのは時間経過を表現していて、その結果として重苦しい雰囲気を演出されている。
それらを一瞬で表現するあのカットは素晴らしい。
情報量の多さをセリフで説明せず描写で説明していくのは変に間をおかないので、とてもその世界に入り込めます。
っていうか見入ってしまいます。
【レビュー】
2クール目終わりまして。
輪廻転生はソクラテス、プラトンなどの哲学者も持っていた考え方だそうですね。まぁ人生一回キリで終わるよりも、生まれ変わってもう一度人として生きたいと願うのは人生を楽しく乗り切った人たちには当たり前にもっていて良い思考だろうと思います。
さて今作の主人公ルーデウス君の前世はどうだったのかというと、もう人生なんてやりたくないと思えるほどに弱者の立場になってしまった人間だろう。
【努力をしていない】と強者の立場から物事を押し付けるには、育ちの環境や才能、運、というどうしようもない違いを考慮していない暴論のように思える。
前世で彼がどうしてイジメられるようになってしまったのかは推し量るしかないのだけれど、イジメる側にとっては些末なことでしかない事の方が多いのではないでしょうか。
何が発端だったかなんて当人たちですら思い出せにない事だってあるのではないか、それ程に理不尽なものだったりする。
彼にとって転生はやり直すチャンスでもあり、もう一度あのツライ日々を体験しなければないかもしれない恐怖でもある。
この作品ではその部分もちゃんと描いているし、そうならないように今度は努力するんだという行動もまた描いている。
努力の歳月をすっ飛ばしているので、感じ取れる人と取れない人に分かれてしまうのは、想像力の差で、カラオケで歌っている人の間奏を飛ばしてしまう人には理解できないかもしれません(笑)
また、転生して特にお金持ちの家に生まれた訳でもないのは明らか(本来は~)、彼の家の周りには他の家が見当たらない。これは街の中で暮らすほど裕福ではない事、でも家政婦を雇うことはできてある程度食べ物に困ることも無い程度の中級クラスの家庭。ここは前世と同じくらいの境遇になっているのも描かれている。
要するに1期の前半パートでは転生してもう一度があるなら、というのを前世との格差を無しにした形で成長を描いていて、負の面と折り合いを付けていく物語なのではないでしょうか。
もちろん、大人としての思考力を手にしているという点においてはズルいように見えるかもしれませんが、それがなかったら、この作品で見せたい物語としての面白さがなくなってしまうので本末転倒ですね。
2クール目は序盤で成長していく過程を描き、ターニングポイントで強制的に魔大陸に転移させられてしまいました。そして、故郷を目指すため旅をするという物語。
ここで登場するのが、前パートから一緒に生活をしているエリス。
彼女は主人公と一緒に転移させられてしまった。
そして、魔大陸では恐れられている、スペルド族のルイジェルド。
1期の段階から人間の間では伝承のようにスペルド族の危険性が繰り返し語り継がれている描写があったので、突然出てきた割にはなんとなく、一緒に旅をすることになる違和感はない。また、「子供を大切にする」という一族を通じてある倫理観を前面に押し出してはいるが、そこには倫理観よりも大きなリスクが存在しているように視聴者には感じられる。
しかし、話が進むにつれ、彼のバックグラウンドを垣間見ることにより説得力が付いてくる、それはストーリー上でも散りばめられており、悪党の命よりも子供の安全を優先するなど、こちらの倫理観の想定とは違うベクトルで動いている。それを目の当たりにして主人公が動揺するシーンは視聴者と重なる。納得してしまうのは、そういう経験はどこか我々の世界のなかでも共通の意識となっていることに気づくからだ。
国や地域、性別などにより考え方が変わってくるし、宗教によっても倫理観、死生観など変わってくる。
みんな違ってみんな良いと平和ボケしている私達日本人には少し胸を打たれる瞬間だったように思える。この辺りは別に世界のニュースとか見てても時折打たれて、ぼへぇ~っとなって遠い世界の事だと脳内で処理をしつつストレスを貯めこまないように自己防衛を働くわけですが。。。
とまぁそのような説得力をストーリー上で行いつつ、その迫力を演出している描写も手抜きがない。
説得力といえば、雨期になると森のなかが水没し橋の上での生活を余儀なくされる【大森林】では雨期の最中は移動がこんなので、雨が上がり、水が引いたらまた旅を再開する。それまでつかの間の余暇のような時間が流れる。それも雨が止み、水が引き、土が顔を出す頃、旅立つ事になる。
どれくらいの高さまで水没していたのかが、木の色味の違いで視聴者に分かるように描いている。そしてそれが高すぎて驚かされ、納得させられる。
何にって異世界なんだってことにだ。
水位が分かる描写を入れることで、リアリティーラインを上げつつスケールのでかさが逆に異世界だという証明であるという説得力がそこにはある。
こういう細かい描写が油断なく入っているので、そのディティールに舌を巻くしかないのである。
オープニングの素晴らしさ。
曲が良いというのもそうだと思うんだけれど、言いたいのはそこじゃない。
当然オープニングなので、セリフはなく音楽が流れている。絵は毎回違うものになっており、状況の点描が繰り返され、アバンのような役割を果たしている。ここに、本編では語り切れない描写を入れてくるのだけれど、視聴者に想像させ、考えさせ、理解させることを目的にしており、絵から読み取れる情報量が非常に多いのが特徴。
コンテが素晴らしい。こんなアニメ初めて見たし、なかなか出来ることじゃないと思われる。
監督なのか誰が絵コンテを切ったのか分からないけれど、間違いなく天才の所業だと思われます。
乗り越える、辛かった日々を。
それは消して忘れることではなく。
決して見てみぬふりをする、のではなく。
正面から立ち向かうことでしか解決の糸口は見つからない。
独りで一人の人が歩いて乗り越えていく、そのカタルシスを描いている作品で今後も続いていくだろうけれど、私は彼の行く末を見届けたいと感じずにはいられない。
背景が良い、作画が良い。もちろんそうだけれど、それ以上のこだわりが詰まった噛めば噛むほどおいしい。そんな作品でした。
今後も期待大なので満点で次回を待ちます。
それではよしなに。