かがみ さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ある意味ではAIRを乗り越えているのではないか
「Angel Beats!」「Charlotte」に続く麻枝准氏全話脚本第3作目。Keyの原点ともいえる「泣きゲー的なもの」への回帰を志向した作品である。キャッチコピーは「神を殺して世界を守るか、世界を狂わせてまで神を生かすか」。
本作主人公、鳴神陽太の前に現れた全知の神を名乗る少女、佐藤ひなは「30日後に世界は終わる」と予言する。前半では煌びやかな日常が描かれ、真相が明かされた後半からは物語は急旋回を見せる。
本作は個別に観ると優れたエピソードも多い。個人的には笑える回としてラーメン屋再建回(第3話)、泣ける回として伊座並父娘回(第5話)がそれぞれ印象深い。また第5話の挿入歌「宝物になった日」は「青空」や「小さなてのひら」に匹敵する珠玉の名曲だと思う。
本作の主題は最終話でも明らかなように「理不尽なこの世界を懸命に生きる」という従来の麻枝作品から引き継がれてきた人生賛歌である。ただどうもその主題と作品全体のストーリーテリングが何かうまく噛み合っていないという印象は否めなかった。同作は周知の通り批判も多い。確かに同作を普通に観ると、序盤で壮大な謎のようなものを提示して視聴者の期待値を吊り上げながらも、最後は典型的な美少女ゲーム的構図に回帰した作品のようにみえる。
けれど本作を「陽太の物語」ではなく「ひなの物語」として観直してみると作品全体の印象もまた、だいぶ変わってくるのではないか。
本作の終盤は「AIR」と同様の擬似的母娘関係の布置を形成している。そして観鈴が〈母〉の下でゴールする事を選んだとすれば、ひなは〈母〉に呑み込まれることを拒絶して、外の世界で苛烈な日常を生きていく事を選んだ。その意味で本作はAIRが乗り越えられなかった境域を乗り越えたともいえるのではないか。