ケエン さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
全てを凌駕する「夢」と「人の意思」
米ソ宇宙開発競争をベースにしただろう話に、人間に迫害されている吸血鬼族のヒロインの少女・ライカと宇宙を目指す青年・レフがソ連のような国家で宇宙飛行士を目指す話。
米ソ宇宙開発競争の初期みたいな時代背景なので、主人公とライカが宇宙を目指そうにも、有人飛行に成功した宇宙飛行士は未だかつて存在していない。そんな中で、人類の前に宇宙に送り出す実験体として宇宙に送り出されるライカと、宇宙飛行士候補のレフの話なのである。
話の内容は練られており、米ソ宇宙開発競争をベースとした時代設定にはリアルさが感じられる。また、ソ連内の政争をモデルにしたと思われる共和国内の不協和音も話に不気味さを感じさせられる一種の調味料になっている。
これ以降のネタバレ欄に書いてある内容は、視聴後の方のみに読むことをおすすめする。
{netabare}
物語後半の、特に最終回の二、三話前までは実は、主人公の言動が共和国の上層部によって思惑通りであったことは最終回を見ればお分かりにいただけるだろう。
主人公が実験体として宇宙に送られたライカを世界初の宇宙飛行士だと述べたのだが、実はこの主人公の決意ある発言が共和国の上層部によって、あらかじめ暴露させるように配置されていたのである。
ここで残る疑問は、実は主人公が宇宙飛行士候補生の中からただ一人の宇宙飛行士に選ばれたのも、ライカと関係が深かったせいなのではないかという点だ。
また、ライカと仲が深い主人公に「ライカが世界初の宇宙飛行士」と宣言させるために、共和国上層部は宇宙飛行士をレフの役目として選んだのではないかという疑問。それは、レフの考える宇宙飛行士は政治だとかのしがらみに無関係であるべきという考えに真っ向から反対している。
そして、このことが示すことは、主人公が世界初の宇宙飛行士がレフではないという秘密を握った存在として実験体処分されるはずのライカが助けられることも共和国上層部の規定路線であったのだ。ここに介在する共和国上層部の予想外の出来事はライカが会場に来たことぐらいで、レフたちが自分たちで選んだことだと思っていた自身の行動は共和国にとっても既定路線であって、レフたちは共和国上層部に踊らされていただけなのである。
主人公の親は「祖国(共和国)にしばられなくてもいい」とは言っている。しかし、主人公が地上に住み、「国」の中で生きている以上、地上で起きているしがらみとは無関係でいられなかったのである。
むりやり昔のアニメを引用する厨や、知ったかぶりオタクみたいで申し訳ないが、これは「イリヤの空」と同じ構造だろう。
イリヤは主人公を助けるために強大な敵に向かっていく。しかし、そもそも主人公とイリヤが出会うことすらも、一部の者たちの作戦のうちだった。実は、敵に対抗できる唯一の能力を持ったイリヤを敵に向かわせる口実(主人公を守るために敵に向かう)が欲しくて、イリヤと主人公の出会いもイリヤが主人公に好意を持つことも仕組んだのだ。(見てない人にはぜひ見てほしい。セカイ系の作品として傑作だ)
だけれども、本作がイリヤと違う大きな点は、主人公たちの願望や周りの人々の行動までを共和国の上層部は抑制できなかったことだろうか。
「レフと月へ行く」
これだけが共和国すらも抑制できなかったレフたちの「思い」。後半になって、宇宙飛行士に求められるものは「夢」であると登場人物たちがレフに告げた。レフとライカは「夢」という点では共和国を凌駕した。共和国の上層部はレフたちの月に月に行くという夢に対して疑問を投げかける。
「あれ、本気?月は38万キロのかなたよ」
しかし、主人公・レフはこう返す。
「行きますよ。必ず」
また、レフとライカたちは周りの数々の人々チーフやアーニャの協力に、レフと宇宙飛行士の権利を競い合った宇宙飛行士候補生たちが静まりかえる観衆の中で真っ先に拍手をした。これが共和国の上層部にすら制御できない人の意思であるように思う。
最後に思う。共和国は全て自身のコントロール下においていると思っているだろう。
しかし、彼らと同じような世界の延長戦である21世紀に住む我々は、レフの考える色々な国が国境なく宇宙に行くために協力することが可能であることを知っている。
レフたちの考える、人種や人類と吸血族という種族の溝もなくなるという想像にも説得力を感じるだろう。
そして、我々の世界でいうならば、現在のアメリカやロシアが協力して宇宙開発を行っている現在こそがレフたちの考えが正しいことの証明であって、それを実現できたものも人の意思によってであって、人の「月に行きたい」という夢や意思によるものであるように思う
「私信じる。私たちがやったことって、未来に向かうための小さな一歩だって」
{/netabare}
そういえば、OPがALI PROJECTだったのは、毎回見るたびに監督渋いチョイスするなと思って聞いていた。個人的に地上波で聞いたのは落第騎士以来だろうか。OPの作画も雰囲気もALI PROJECTにぴったし合っていたように思える。しかし、なかなか古いチョイスだ(褒め言葉)
米ソ宇宙開発競争について、先に本を読んだり、wikipidea、Youtubeのゆっくり解説でも見たりするとなおこの作品を楽しめるだろう。