芝生まじりの丘 さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
意識はデッドメディアか
原作を少し前に読んでいたが、まあそこそこ、という感じの評価でこちらも同じ感じ。
原作と今作の違いとしては大方の展開は同じだが、微妙に力点の起き方とか、あと特に最後の展開が違っている。
個人的には中盤の博士との対話で「意識と肉体どちらがデッドメディアか」ということについての対話が省かれていることが残念だった。
地面に落ちたフロッピーディスクを見て、博士は「人間の身体もこのようなデッドメディアになるのかもしれない、意識をデジタル化して、コンピュータの中に居場所を移すのかも」というようなことを言う。
それに対してトァンは「人間が肉体の増殖と保存を求めて進化、繁栄してきたことを考えるなら、肉体が精神の入れ物なのではなく、精神は肉体の増殖のための手段だ。だからデッドメディアなのは肉体というより、精神なのではないか」というようなことを言う。
これがこの作品の作者の一番のアイディアをうまく言い得ている文だと個人的には思う。
つまり今までのユートピア系の作品は結論として「社会の進歩は今日の人間の自由や尊厳といったものを否定し、不自由で虚無的なむしろ精神衛生上不幸な生活をもたらすだろう」というものがあったのだけど、それを逆転させてしまうのだ。
我々は社会を進歩させることができた。しかし一方で精神は原始的なままなので、社会と精神の間で軋轢がある。なら解決策は精神を社会に適応させてしまうことだ、と。
ただこれはそういう逆転として見た場合に面白いのであって、やること自体はある意味人類補完計画とかの使い古しとさして代わりないのと、その解決策として言明される「意識の消失」がやや突拍子もなく非科学的な上、どういうことになるのかが投げっぱなしなので残念。(多分現状のロボット的脳だと意識と同等に柔軟性のある処理を行うことは不可能だし、「我思う」を都合よく取り去って柔軟な思考の余地を残したりするのは不可能な気がする。)
もう一つのこの作品の面白いアイディアは「健康は尊い」という思想がその他の政治思想宗教を超えて巨大な権力を持つだろうという考え。
今の時勢だとデリケートだがホットなテーマである。