フリ-クス さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
アニメ制作のアヴァロン(理想郷)、ここに
あにこれ総合ランクで堂々の26位、
アニメ制作現場を描いた数少ない作品の一つとして、
みんな大好き『SHIROBAKO』であります。
制作はP.A.WORKS、内容は完全オリジナル。
よく『マンガ家・マンガ道』をモチ-フにしたマンガ作品がありますが、
あれのアニメ制作版と考えていただければほぼほぼ間違いないかと。
アニメ全般、特に制作に興味がある方へは
制作工程のチュ-トリアル動画みたいな側面も持っていますね。
業界用語が多いので初心者には敷居が高いかもですが。
僕は『制作』ではなく『製作』サイドの経験しかなく、
プリプロ以降は脚本(ホン)読みとアフレコぐらいしか顔を出してないので、
へえ、ラインの人たちってこんなことやってたんだ、
みたいに遅まきながらいろいろ勉強させていただいた作品でもあります。
たよんなくて申し訳ありませんが、製作委員会の幹事なんてそんなもんです。
てか、調整とソロバンと権利処理の毎日で、
いちいち制作ラインにちゃちゃ入れてるヒマなんてあるかいっ!
ちなみに、本作制作P.A.WORKS代表の堀川さんは、この作品を
あるある 50%
こんなんだったらいいな 20%
ねえよ 10%
え、? 20%
と述べておられて、それはまあそうなんだろうなと思います。
だから観る側も、
これがアニメ制作現場のリアルな姿だっ、感動したっ、
なんて鵜呑みにせず、話半分で見るのがよろしいのではないかと。
実際、僕ごときが見ても「ねえな」ってのけっこうありますし。
まあ、そういうのは後回しにするとして、
まずは作品本編のおさらいから。
作品は全24話。
前12話と後12話ですっぱりとお話が分かれていまして、
前半12話は、舞台となる武蔵野アニメーションが、
久々の元請けオリジナルアニメ『えくそだすっ!』を作るお話です。
{netabare}
お話は、すでに各話制作がスタートしておりまして、
新米制作進行の宮崎あおいが様々なぐだぐだに頭を打ちながら、
アニメ制作の現場を少しずつ覚えていく展開になっています。
原作がない分、制作事情はかなりシンプルで、
トラブルの内容もトラブルメーカーも、内輪限定になります。
内容的には、ダメダメ制作進行の高梨太郎はさておいて、
作画クオリティにこだわりを持つ熱いモノづくり、
アニメ-タ-にスポットがあたったお話がメインになっています。
熱く語っている割に、
肝心の『えくそだすっ!』がちっとも面白そうじゃないのですが、
それはまあ、劇中劇なんてそんなもんだということで。
{/netabare}
そして後半12話は、いわゆる版権モノ、
人気マンガ『第三飛行少女隊』のアニメ化のお話です。
こちらはいわゆるプリプロダクション、
スタッフ選定だのキャラデだの劇伴だのオーディションだの、
各話制作に入る前のごちゃごちゃ作業からのスタートになります。
現実的には、制作が動き出す前、そんじゃまやりましょうかという話になってから、
座組みにはじまり、予算編成だの権利処理だの枠取りだのBPだの、
いわゆる『製作』作業が山のようにあるのですが、
本作でいうとそれはナベPの仕事ということでまるっとカットされています。
まあ、アニメにして面白い話でもありませんしね。
それよりは、普段まったく日の当たらない美術さんとか劇伴とか、
そういうところにスポットあてたのは正解なんじゃないかと。
で、オリジナル作品と版権モノの大きな違いは、なんと言っても、
監督が好き勝手にものごとを決めてはイケナイ
という一点に尽きます。早い話、原作者がNOといえば全部NOになるんです。
知らない人がけっこう多いのですが、
『アニメ化することをOKすること』と
『アニメにおける原作への足し引きをOKすること』は、
法律的にまるっきり別の行為なんです。
前者の権利は契約によって出版社がもつことが多いのですが、
後者は原作者(著作権者)個人が持つ、譲渡不可の権利なので、
いちいち本人にお伺いを立てなければなりません。
たとえアニメ化の許諾をうけて正式な契約書を交わしていたとしても、
原作者が『この台詞を変えないと放送は認めない』なんて言い出したら、
ほんとうに放送できないんです。
恐るべし、著作権法。知財の勉強がんばろう。
{netabare}
本作でいうと、プリプロ時にコミックスの既刊が五巻しかありません。
さらに一話当たりの脚本がペラ92枚(ふつうは80ぐらい)とか、
かなり書き足さないと原作食いつくしちゃうのがあらかじめ見えています。
それなのに、キックオフ(制作と権利者の顔合わせ)時に、
原作者が顔すら出していない。
もう、後からもめるのが必至のスタートです。
案の定、キャラデから強烈なリテイクくらっているわけで。
(まあでも、この件で原作者がモノ言うタイプとはっきりわかるわけです)
それなのにシリ-ズ構成(各話の大まかな内容)の承認もとらず、
最終話、まるっきりオリジナルストーリーの脚本を、
担当編集のいいかげんな一言で制作すすめさせちゃうとか、迂闊すぎるだろ、ナベP。
案の定、とんでもないタイミングでリテイクが出され、
ドタバタの末に「ねえよ」の一言ですむような着地で解決し、
最後は人海戦術、力技で押し切って、めでたしめでたしの大団円となります。
ちなみに、僕がプリプロ以降も脚本読みとアフレコに参加してたのは、
そういうトラブルを未然に防ぐためです。
脚本読みは改変箇所が一番はっきり出るところですし、
アフレコも、脚本の現場修正と役者さんのアドリブがありますから、
製作幹事としては、出ておかないと後がこわいわけなんです。
{/netabare}
僕的なおすすめ度としては、
アニメ全般に興味のある方限定でAランク、
優良な職業ドラマを探している方にはBランクという感じです。
ただし、先にも書きましたが『あるある50%』の作品であり、
これがアニメ制作の熱い現実、知られざるリアルだ、
みたいに解釈されるのはいかがなものかと。
他の方のレビュ-を拝読していると、ちょっと心配になっちゃいます。
プリプロやリテイクで予算の話が一度も出てませんしね。
基本は品質と納期の話ばっかり。
それだけで進めていいならどんなに楽なことか。
現場のアニメ-タ-はそれでいいかもしれないけれど、
制作デスクはそれでは『あかん』のではないかと。
おそらくは、複雑な上に泥臭いからあえて割愛したのだと思いますが。
物語そのものは、単なる『職業紹介』にとどまらず、
夢やあこがれから業界にとびこんだ若者の悩みや成長譚が描かれていて、
いわゆる『お仕事アニメ』の本道をきっちり抑えています。
女子高OGの遠い約束とか、
どんどんドーナツど~んといこう、という決め台詞とか、
相変わらずP.A.WORKSのふわふわしたところは好みが分かれるかな。
僕は正直、ちょっと苦手です。
お人形さんにしゃべらせるのも、必要性はわかるけど、なんかちょっと。
映像は、かなりリキ入ってます。
こうこだわったからこういう映像になった、という説得力がすごい。
作画の乱れも極小で、高レベルで安定しています。
ただ、関口可奈味さん、キャラデもうちょっと描き分けて欲しいな、と。
相変わらず、主要キャラの見分けがつきにくいんですよね。
画面がモノトーンになったらどれが誰かわかんないんじゃないかな。
お芝居は、決して悪くはないんだけど、可もなく不可もなくですね。
音監兼務でやった水島監督の方向性だと思うんだけど、
あまりにも素直なお芝居過ぎて、いまいち耳に残らない印象があります。
まあ、そこがいい、という方もいるだろうから、
あくまでも好みの問題ですね。うまいへたのお話ではありません。
個人的には、井澤詩織さんが頑張っていたなあ、と。
音楽は、OP・ED、劇伴含めて全く耳に残っていません。
あくまでも僕的には、という話ですが、
手を止めてまで聴き入る要素がなかったというか、
たぶん街で流れていてもぜんぜん気が付かないだろうな、と。
もちろんそれも『好み』の問題であって、
楽曲としての良し悪しというお話ではありません。
個人的な押しポイントなんですが、
業界の大御所(をモデルにした)キャラがあちこち出ていて、
ええんか、これ?
とかいうの楽しかったですが、狭すぎるのでここでは却下。
おなじく狭い話で恐縮なのですが、
リアルな制作現場積年の恨みが噴出したような、
社外関係者とのやりとり・演出がかなりツボにきました。
とりわけ気に入ったのは、
役者オーディションと『第三飛行少女隊』担当編集・茶沢の下りです。
一人で「あるある」と手を叩いてしまいました。
{netabare}
オ-ディションは、もちろん座組み(出資者のメンツ)によって違いますが、
おおむね「あんなもん」ではないかなと。
発言は過激にデフォルメされていますが発言主旨はあんな感じです。
自称『マーケタ-』で芝居の『し』の字もわからん方が、
好き勝手にひっかき回してくれやがります。
おとしどころ探しは、たいてい製作にお鉢が回ってきます。軽く死ねます。
編集の茶沢も「いるいる」ですね。
もちろんデフォルメされてはいますが、
こういう『会社・作家の偉さ』を『自分の偉さ』と勘違いしてる方、
ほんとうにいるんです。
初対面で名刺すら『切れた・忘れた』で渡さないっていうの、
大手企業の正社員でそんなに非常識なやついね~よ、作り話だろ、
そんなふうに思う方がほとんどでしょうが、
実話です。
僕だってやられた経験ありますもん。
こういう方が口で言う半分でも仕事してくれたらどんなに楽か、
そういうのが、製作・制作共通のホンネであったりします。
{/netabare}
ちなみに、僕がこのレビュ-にアヴァロン(理想郷)なんてつけてるのは、
予算の話がないこともそうなんですが、
それ以上に『情熱を注げる作品にかかわれている』というのが理由です。
ここから先は、ちょっとイタい話です。
本編とはあまり関係ないので、
例によってネタばれで隠しておきますね。
{netabare}
おそらく誰でも名前を知っている超有名役者(声優)さんなのですが、
ちょっと「使いにくい」という理由で、
しばらくの間、音響関係者から敬遠気味だった時期があります。
その方は役作りにものすごく誠実で、アフレコの現場でも
「このキャラにこの台詞って、設定と矛盾してますよね」
「ここで怒る理由ってなんですか? 話せばすむことですよね」
「これ、好きになる理由になりませんよね? 見かけの問題ですか」
みたいなことを、熱心に監督・音監に詰め寄ったりしていたそうです。
すごく前向きで素敵な話だと僕は思ったのですが、
その話を僕にしてくれた方曰く、
そういうことを言い出したら収録できる作品がほとんどなくなってしまう
から困るんだそうです。
みんな飲み込んでやってるんだから大人になれよ、と。
ちなみに、アフレコ後に仕事が入ってない役者さんは、
先輩が後輩を引き連れてメシを食いに行くのが半慣例なのですが、
そこではキャリア充分の人気役者さんがげんなりした顔で
あれでOKはないよなあ
なんて愚痴を言い合ったりしている光景が珍しくないそうです。
そんな作品ばっかり、とまでは言いませんが、
そういうふうに音監や監督までもが半分以上匙を投げていて、
テンプレで流して納品しときゃいいや、という作品が『多い』のは事実です。
音響現場がそんな感じであるならば、
アニメ-タ-さんたちの現場も推して知るべしです。
ひょっとしたら、もっとひどいんじゃないかな。
そしてそういうのが『話題作』『目玉作品』『人気作』になったりもするわけで。
本作で、平岡大輔は若いころ夢多き新人制作マンだったのに、
やる気のない先輩に感化されてやさぐれてしまったというくだりがありますが、
ひょっとしたらそれも「あるある」なんじゃないのかなと僕は思います。
{/netabare}
本作のような『熱いモノづくり』の現場がないとは言いません。
限りある予算とスケジュールの中で、
血のにじむような努力をしている方がたくさんいらっしゃいます。
だけど、本作と真逆の『ガーリッシュ・ナンバー』みたく、
あいたたたの現場もまた「あるある」なんです。
というか、数としてはむしろあっちの方が多数派、みたいな。
あっちは人気ランキング1704位、本作は26位。
みなさんのレビュ-を拝読していても、
あっちが『邪道』で本作が『正道』みたいな感じになっています。
まあ、あっちは役者さんがメインの話ですしね。
現場的には、どっちも「あるある50%」の作品なんですけど……
いやもちろん、あっちゃイカンというのはわかりますが。
ちなみに、みなさんも名前ぐらい聞いたことあるだろう某大御所作監は、
たとえそれが動物モノのアニメであっても、
悲しいシ-ンの原画は涙を流しながら描いていたそうです。
そこまでは何とか理解できるのですが、それだけではなく作監修正、
他のアニメ-タ-が描いた原画に修正をくわえる時ですら、
涙を流しながら修正していたという話です。
いかに深く感情移入し、魂を込めてエンピツ走らせておられたことか、
頭の下がる思いがいたします。
そういうアニメ-タ-さんなり作品なり、増えて欲しいですよね。
ほんとうに、心からそう思います。
そういう方々が本気で、思いっきり、楽しく働ける業界であって欲しい。
ただ、現実的なマーケットに目を向けると
もえ~~~っ
おにいちゃ~~~ん
きゃぴっ、えっちぃ、ふえええ~~ん
みたいなニーズというのが厳然と立ちふさがるわけでありまして。
アヴァロンを目指す行くてを遮るもの、
アニメの敵は、実はアニメであったりするんです。
すっごい手強いんですよ、これがまた。