薄雪草 さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ほしに希い、こえを請い、きみと恋う。
初見は、作品の方向性に釘づけになりました。
少女のあまりの純真に愕然とし、憤然として怒りがわき、悄然として胸がつかえました。
そんな新海氏の "美学" に、唖然となりました。
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名だたる作品を次々と世に送り出す新海氏。
ときには、初期の作品に触れてみるのは、いかがでしょう。
『ほしのこえ』。
『彼女と彼女の猫』。
『BITTERSWEET FOOLS』。
『はるのあしおと』。
『そよかぜのおくりもの』。
『ef - the latter tale.』。
などなど・・・。
本当にびっくりするくらい、宝石の原石たちに触れることができます。
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その "こえ" の始まりは、部屋にこもったゲーマーのつぶやきだったのかも知れません。
『彼女と彼女の猫』では、部屋を出入りする "猫のモノローグ" に。
『雲のむこう』では、眠りのなかの問いかけに。
『秒速』では、初めてのキスへの思い迷いに。
『星を追う』では、届かぬものへの願望に。
『言の葉の庭』では、雨にけぶる四阿(あずまや)に。
『君の名は。』では、彗星とDNAのタイムラグに。
『天気の子』では、東京一帯を水没させた賛否に。
『すずめの戸締まり』では、人知れず日本の安心を守る掛け合いに。
あまたのつぶやきは、徐々にカロリーを上げ、新しいエナジーを発しようとしています。
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背景画から始まった新海氏の旅路は、さまざまなモチーフを描きながら、本作の世界観に結実しています。
『ほしのこえ』は、少女から少年への "ピュアミーツ" を、この上ない圧で押しつぶす "アンチミーツ" の物語。
異星人との交戦も、片恋の痛みに比べれば、さほどのことではないのです。
二人を分かつ虚空も、片時に費やすパッションで埋め合わせられるのです。
傷心のままに生きる孤独よりも、希望を信じて勇気を振り絞っていくミカコ、なのです。
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ジュブナイルの時代は、"実へのチャレンジ" と "虚へのシンパシー" とを内包するパラレルな共時性を持ち合わせています。
そこに多彩な視覚イメージを打ち込むことで、見通しの利かない未来へのアナロジー、心を声へと解放したいカタルシスへといざなうのが新海マジックの真骨頂。
メールでしか綴れないささやかな "こえ" 。
消え入りそうでも確かな覚悟がにじみます。
だから、揺るぎようのない雄弁なのです。
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かの人への真心を、わずかな文字に希(こいねが)ったミカコの 『ほしのこえ』。
それは、かけがえのない幸せを請(こいねが)う 『彼誰(かわたれ)のこえ』です。
彼女の呻吟は、わたしの琴線を鋭く振るわせます。
(すずめの決意も同じに。)
ならば・・・新海氏の "作家性" は、いっさい損なわれてはいません。
わたしが心酔するのは、いつだって『きみと恋う。』なのですから。