ひろたん さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
タイトルの「翼」の意味を知った時、なんとも味わい深いと思える作品
人類初の有人ロケットをどーんと打ち上げようじゃないか!
この物語は、そんな話ではありませんでした。勘違いしていました。
この作品は、いろいろな意味で面白い作品です。
それは、メッセージの伝え方にすごくクセがあるからです。
まず、この作品は、正直、暗いです。
いろいろ原因はありますが、一番は、とても宗教臭がするからです。
しかも、比喩とかではなく直接”祈り”として前面に押し出してくるからです。
しかし、実は、これはあくまでも演出だと言うことも分かります。
伝えたいメッセージを宗教の”祈り”と言う形で代弁させようとしているのです。
この物語の伝えたい事は、人類の進化・発展への警鐘です。
しかし、それを映像で表現しようとしても、恐らくうまく伝わりません。
また、それをセリフとして視聴者に直接伝えると、ただ説教臭いだけになります。
そこで、主人公の”祈り”に、メッセージ語らせています。
こうすれば、視聴者に対するものではないので説教臭くはなりません。
しかも、言いたいことはすべて言葉にできます。一石二鳥です。
さて、その”祈り”とはどんな内容でしょうか。
それを知るには二人の登場人物のセリフを拾うのが手っ取り早いです。
ここから先、ネタバレです。
(配信って便利ですね。すぐに観たいシーンが見られます・・・)
まずは、ロケットの打ち上げ前に将軍が主人公に語ったセリフ。
{netabare}
「われわれ人類は、原始時代の地獄より抜け出し
10万年もかかってここへたどり着いた
しかし、ここはどうだ、根本的には何も解決されないではないか
戦争がおき、同胞を異民族の侵略から守るため必死に戦った
しかし、それが正義などではなく、
太古の昔から繰り返されてきた殺戮の歴史をなぞっているだけである
歴史は破産するまで終わらないゲームなのだ」
{/netabare}
その後、ロケットは打ちあがり、主人公は宇宙空間へ出ます。
宇宙船(衛星)から地上に向けたラジオ放送で”祈り”ます。
{netabare}
「私は人類初の宇宙飛行士です
たった今人類は星の世界に足を踏み入れました
海や山がそうであったように、かつて神の領域だったこの空間も
これからは人間の活動の舞台としていつでもこれるくだらない場所となるでしょう
地上を汚し、空を汚し、さらに新しい土地を求めて宇宙へ出ていく
人類の領域はどこまで広がることが許されているのでしょう
どうか、人間がここへ到達したことに感謝の祈りをささげてください
どうか、お許しと、憐れみを
われわれの進む先に暗闇を置かないでください
罪深い歴史のその果てに、ゆるぎない1つの星を与えておいてください」
{/netabare}
人類は、ついに宇宙にまで進出しました。
そして、地上や空を汚したように、宇宙までも汚していくだろうと言うことです。
それは、太古の昔から人類は何も変わっていないからです。
歴史は繰り返すと言うことです。
そして、そんな歴史は、破滅するまで終わりません。
裏を返せば、人類の歴史は破滅して終わると言うことです。
しかし、それが人類の性(さが)なので、どうしようもありません。
だから、許してほしいと、憐れんでほしいと。
そして、せめて、最後、破滅しないよう居場所だけは残しておいてほしいと。
つまり、このままではそうなってしまうと言うことを裏返しに言っているのです。
この物語の最後は、清々しさを感じます。
それは、地上のごたごたから離れ、音が無い静かな宇宙空間に来たからです。
まだ人に汚されていない厳かな領域に踏み込んだなと感じさせてくれます。
まさしく神の領域です。
このとき、やっとタイトルについている「翼」の意味が分かりました。
最初は、主翼もついていないロケットなのになぜ「翼」と思っていました。
「翼」とは、神話や宗教のモチーフにもなるように特別な意味を持ちます。
この物語の「翼」とは人間の領域から神の領域へと飛翔する「力」を表しています。
ただ、「翼」もあまりにも行き過ぎると人類はイカロスのようになってしまいます。
イカロスとは、ギリシア神話に登場する人物です。
蝋で固めて作った「翼」によって自由自在に飛び回れるようになります。
そして、自分の力を過信し太陽にも到達できるという傲慢さから太陽に近づきます。
結果的には、蝋が溶けて「翼」がなくなり、墜落して死にます。
この話は、人間の傲慢さやテクノロジーを批判する神話として有名だそうです。
「翼」は、新たな領域へ飛びだす「力」を表します。
一方で、その行き過ぎた「力」は、自らの身を亡ぼすことも示唆しています。
この物語は、人類が手に入れたそんな「翼」の二面性を表していました。
結局、この物語として伝えようとしていることはSFとしては王道です。
それを宗教的な形を使って、しかも裏返しで伝えてきます。
正直クセがありすぎて万人受けする作品とは思えません。
しかし、人生で一度くらいは観ておいても損はない作品だと思いました。